植物そのものをそのまま田畑にすき込み、肥料とする「緑肥」は、化学肥料の減量につながるなどの利点から注目を集めています。
そこで本記事では、緑肥のさまざまな使用目的や緑肥の使い分け事例についてご紹介していきます。
また緑肥は、化学肥料の量を減らすことから経費削減にもつながると言われています。緑肥の導入でどのくらいコストを削減することができるのかについてもご紹介していきます。
緑肥作物のタイプ
緑肥作物はさまざまな分類が可能です。
たとえば緑肥を作付けするタイミングで分けると以下のように分けられます。
- 後作緑肥
- 休閑緑肥
- 間作緑肥
- 越冬緑肥
後作緑肥はその名の通り、主作物の収穫後に作付けを行います。休閑緑肥は、新墾地や病害虫が多発した場合や生産物が過剰だった場合に、主作物を1年間休作し、その間に緑肥を作付けします。休閑緑肥として使用される作物には、下記で紹介するセンチュウ対策作物・センチュウ抑制作物などが挙げられます。
間作緑肥は“主要農作物の間作として栽培され、生長後そのまま、肥料としてすきこまれる植物。冬の間のレンゲソウなど。果樹園、茶園、桑園などでも利用される。(引用元:精選版 日本国語大辞典)”というもの。越冬緑肥は夏作物を収穫した後に作付けを行い、翌春にすき込みます。緑肥作物の目的は、緑肥作物を越冬させることで、翌春の土壌浸食を防止したり有機物を確保したりすることにあります。
緑肥作物に求める効果別に区分すると以下のように分けられます。
- センチュウ対策・センチュウ抑制
- 水田裏作
- 地力増進
- リビングマルチ・カバークロップ
- 草生栽培
- 景観作物として
センチュウ対策・センチュウ抑制では、センチュウに対抗および抑制する作用のある緑肥作物を利用します。たとえばライムギやエンバクなどの作物は、その根にセンチュウが侵入しますが、何らかの理由でセンチュウが成熟できず、センチュウは産卵することができません。それにより次代のセンチュウ密度を低減することができます。そのほか、根から殺センチュウ物質を出し、センチュウの密度を減らすマリーゴールド、茎葉に含まれる成分の殺虫・殺菌効果によって病害虫の発生を抑えるカラシナなどが挙げられます。
水田裏作では、イネの収穫後に緑肥作物の播種を行い、翌年の田植え準備までにすき込みます。米の品質や収量改善、減肥や雑草抑制などのメリットが挙げられます。地力増進を目的とする場合も、化学肥料の減肥がメリットとして挙げられます。
リビングマルチ・カバークロップは、土壌浸食の防止や雑草抑制などを目的に利用されます。(関連記事:環境負荷軽減につながると考えられる「有機物マルチ」の利点とは。|農業メディア|Think and GROWRICCI)
草生栽培は主に果樹園などで取り入れられている手法で、アレロパシー作用(植物が生成する化学物質がほかの植物や虫に対して阻害的な作用や共栄的な作用をもたらすこと)などのある緑肥作物で地表面を覆い、雑草抑制や農薬散布による環境負荷の低減をはかる栽培方法です。(関連記事:今注目の草生栽培。草生栽培が注目される理由と注意しておきたいデメリットについて。|農業メディア|Think and GROWRICCI)
花を咲かせる緑肥作物は、地域景観の向上にも活用されます。
緑肥の使い分け事例
最も代表的な緑肥の使い分け事例をまとめると……
- 土壌の物理性改善なら、ソルゴー(イネ科緑肥)
- 冬場の空いた畑に作付けするなら、ライムギ(イネ科緑肥)
- 畝間や株間の雑草対策なら、ヘアリーベッチ(マメ科緑肥)
- 根粒菌によるチッソ固定やリン酸補給を狙うなら、クロタラリア(マメ科緑肥)
が挙げられます。
なお、緑肥をすき込む際は、これらの作物が花を咲かせる前の栄養豊富な状態で粉砕することを忘れずに。
農山漁村文化協会編『現代農業 2022年05月号』(農文協、2022年)では、緑肥の特集が組まれており、排水改善を目的にセスバニア(マメ科緑肥)を作付けする事例と、土壌の物理性改善等を目的に、畑の通路にイネ科作物を作付けする事例が紹介されていました。
本誌で紹介されていたセスバニアの事例では、土壌がどう変化したかが実際に確認されているわけではないので、確証はないものの、セスバニアの根が耕盤層を抜けたことで排水性が改善されたのではないかという考察がありました。セスバニアは耐湿性もあるので、粘土質の土壌に頭を悩ませている人は導入を検討してみてはいかがでしょうか。
畑の通路にイネ科作物を作付けする事例は、作物の根が人が通る通路の方まで伸びていくことを考慮し、通路の土が踏み固められて硬く締まることのないよう、通路にこそ緑肥作物を作付けしてはどうか、というものでした。イネ科作物は踏圧に強いため、通路に作付けするのに適しています。また通路の緑肥作物がバンカープランツとなり、害虫を引き付け、益虫を呼び寄せることへの期待も記載されていました。
上記の例では、緑肥作物が大きくなると風通しが悪くなるので、高さを10〜20cmに抑えるよう草刈機などで管理することが注意点として挙げられています。ただ、その刈り取った草も草マルチとして利用することができるので、追肥としても利用できると考えるとなかなか便利なアイデアといえるのではないでしょうか。
緑肥導入による経費削減効果
最後に、『現代農業 2022年05月号』と「緑肥(カバークロップ)栽培マニュアル – 長崎県」を参考に、緑肥導入による経費削減効果について記します。長崎県の資料には「二期作バレイショ栽培に適した〜」という題字がついていますが、主作物が異なるからといって大きく変動することはないと思われます。
緑肥の種類にもよりますが、緑肥にかかる肥料として種子代が挙げられます。種子代は1kg500〜800円ほど、播種量が10aあたり3〜4kgとなると、1万5千円〜3万円強となります。地域によっては緑肥種子の購入補助事業を実施していることもあるので、地域の補助制度が活用できれば、もっと安く抑えられます。また緑肥作物の活用で減肥をはかる場合には、肥料にかかる費用削減につながります。
緑肥作物によって主作物の品質や収量の向上が望める場合もあります。もし収量が向上し、増収が期待できれば、利益面でのメリットもあります。
利益
◎収量の向上
1割の増収が期待されることから秋作平均収量2,500kg/10aから算出すると
250kg/10a×市場単価129円/kg=32,250円
また興味深かったのが、緑肥作物による土壌流亡の抑制効果で経費損出をまぬがれるという点です。土壌流亡が起きた場合、よそから土を運び入れる必要がありますが、乾土1t当たりの客土の費用はおよそ2,400円かかります。加えて、客土した新土では生産性が低下するといわれています。緑肥作物によって土壌流亡が抑制されれば、客土費用の削減と、生産性の低下を防ぐことにつながり、上記以上に経費を損なう可能性を低くできるとされています。
参考文献
- 緑肥利用マニュアル−土づくりと減肥を目指して-:農林水産省
- 緑肥作物のタイプと使い方|畑作園芸分野 – 雪印種苗
- 農山漁村文化協会編『現代農業 2022年05月号』(農文協、2022年)
- 緑肥(カバークロップ)栽培マニュアル – 長崎県