近年「草生栽培」というキーワードを耳にするようになりました。その背景には、環境負荷を配慮した「循環型農業」への関心の高まりがあるようです。
本記事では「草生栽培」が注目される理由と「草生栽培」を実践する上で注意すべき点についてご紹介していきます。
草生栽培とは
草生栽培は主に果樹栽培で取り入れられている手法です。果樹園の木陰に生える草、林の中に生える雑草を除草せず、それらの根を利用して農地の土壌を管理する方法です。生えたままの雑草には、土壌流出を防いだり有機物を補給したりする役割があります。
草生栽培の対にあるのが、耕したり除草剤を用いたりして雑草を生やさせない「清耕栽培」ですが、「果実の味が悪くなる」などを理由に減少傾向にあります。
最近では、他の雑草の生育を抑えたり、作業性の改善などの目的から草生栽培を取り入れる農家もいるようです。
日本では古くから草生栽培の技術が用いられていました。日本の水稲栽培では、弥生時代から、農地の周りに生えていたイネ科の草などの資源を利用して土壌を育てていたようです。第二次世界大戦後、化学農薬や大型農機が導入されたことをきっかけに、除草する農業文化に変わったと言われています。
草生栽培が注目を集める理由
戦後登場した化学農薬は農作業の効率化に貢献しました。しかし化学農薬の毒性による環境汚染などが問題になり、冒頭で述べた「循環型農業」への関心や消費者の「安心・安全」志向の高まりから、化学農薬を用いない栽培方法に注目が集まるようになりました。草生栽培もそのひとつです。
草生栽培でよく用いられるイネ科の植物は、光合成によってつくられた糖類を地下の細根に送り、その細根から有機炭素が土に供給されます。土壌中の有機炭素は微生物に分解されにくく、炭素が土壌中に溜まるのですが、この「土壌炭素貯蓄」の機能が世界的に注目されています。
環境問題に関連するキーワードに「パリ協定」があります。これは2020年以降の気候変動問題への国際的な協定です。温室効果ガス削減に向けた世界共通の目標として
- 産業革命以前に比べて、世界の平均気温上昇を2℃より十分低く保つ
- 上記に加え、1.5℃に抑える努力をする
- 温室効果ガス排出量を減少させ、排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
などが掲げられています。
日本では、農地土壌が二酸化炭素(温室効果ガスの原因)排出源のひとつなのですが、草生栽培によって土壌炭素貯蓄をはかることができれば、二酸化炭素排出量を減らすことができると期待されています。
実際に世界でも「フォーバーミル・イニシアチブ」、世界中の土壌炭素を毎年4%(フォーバーミル)ずつ増やそう、という取り組みが始まっています。
草生栽培を行う際の注意点
環境保全の観点から注目を集めている草生栽培ですが、雑草の影響で農作物の生育が悪くなってしまっては意味がありません。
草生栽培に挙げられる大きなデメリットのひとつに、果樹が栄養や水分を吸収する際、雑草と吸収競合が起きてしまうことが挙げられます。雑草の種類や生えかた次第で、本来果樹にいくはずの栄養が吸い取られてしまうと、果実が小さくなってしまったり、甘さが足りなくなったりすることがあります。特に幼木時には注意が必要です。
雑草の種類によっては病害虫の繁殖源になってしまう場合もあります。このデメリットを避けるために、被覆植物として商品化されている品種を用いるのもおすすめです。
それから、雑草の生え方や環境によって作業性が悪化することもあります。雑草が生い茂ってしまうと歩きづらくなり、作業がしにくくなります。雑草が倒れ、マットのような足元になれば作業はしやすくなりますが、雨が降ることで足元が滑りやすくなることもあります。作業を行う足場としての観点からも、雑草の生育には注意が必要です。
まとめ
草生栽培に適したイネ科の植物は、世界に9500種あると言われています。商品化されているものもありますが、どの植物が適しているのかなどは土地によって異なります。なので、草生栽培に取り組む前には、育てている果樹、雑草、土、土壌微生物について学び、観察し、それぞれがどのように関わり合っているかを理解することが重要です。
参考文献
- 東樹綾奈, 『AGRI JOURNAL VOL.14 2020 WINTER』42ページ, 2020年1月27日, 株式会社アクセスインターナショナル
- 草生栽培_現代農業用語集
- 今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~ 経済産業省 資源エネルギー庁
- 草生栽培-ルーラル電子図書館ー農業技術辞典
- 農林水産分野における温暖化対策 農地による炭素貯留について