農林水産省によれば、平成29年度の農作物への害獣被害は、被害金額、被害面積、被害量は前年に比べて減少しています。しかし被害金額は約164億円、被害面積は約5万3千ha、被害量は約47万4千tと決して少ない数値ではありません。
そのうえ近年では「特定外来生物」による害獣被害も深刻化していると聞きます。
特定外来生物とは
「特定外来生物」は、海外起源の外来種であり、
- 生態系
- 人の生命や身体
- 農林水産業に被害を及ぼすもの
- 農林水産業に被害を及ぼすおそれがあるもの
の中から指定されます。また生きているものに限られ、その生物個体のみならず卵、種子、器官なども指定されます。
特定外来生物による害獣被害
アライグマ
特定外来生物として近年被害が拡大しているのがアライグマです。昭和50年代に放映されたアニメ番組がきっかけでペットとしての人気が高まりましたが、ペットとして購入したアライグマを捨てる・放逐するなどの行為により、野外に定着してしまいました。基本は植物質の食事を摂るアライグマですが、なんでも食べます。被害を受けやすい農作物にはトウモロコシやメロン、スイカやイチゴなどが挙げられます。
ヌートリア
良質な毛皮をもつ動物で、軍用としてその毛皮を利用する目的で養殖が始まりました。戦争の終結により需要が減ったことで、野外に捨てられた個体が野外に定着してしまいました。草食性の動物で、水生植物の茎や根茎などを好んで食べます。被害を受けやすい農作物として、水稲の苗がよく挙げられます。田植え直後の葉の柔らかい苗が狙われやすいため、コメ農家としては厄介な害獣と言えます。またニンジンやサツマイモなども被害を受けやすいです。野菜の場合には1年を通じて被害が発生すると言われています。
害獣被害対策の事例
アライグマ
アライグマによる被害を防止するためには、農地周辺の環境を徹底的に管理することが重要です。まずは基本的なことですが「餌付けをしない」ことが重要です。
- 廃棄作物や家庭ゴミをそのままにしない
- ペットの餌の食べ残しをそのままにしない
- お墓のお供え物をそのままにしない
- 餌付けは絶対にしない
雑食性のアライグマはなんでも食べるため、アライグマの餌となってしまうものを農地から排除することも重要です。廃棄した作物を農地の脇に積みっぱなしにしていたり、収穫していない作物をそのままにしていたりすると、アライグマにとっては格好の餌場となってしまいます。
アライグマの農地への侵入防止は難しいと言われています。行動範囲が広く、木の上での生活も得意とするアライグマは、さまざまな経路で農地に侵入します。そのため、とにかく侵入されやすそうな場所を徹底的につぶすことをおすすめします。
- 侵入経路になりそうな壁の穴などを塞ぐ
- 侵入経路になりそうな木の枝などは切る
- 電気柵を設置する
- エッグトラップを設置する
電気柵で農地を囲い込むのも効果的です。またエッグトラップという卵型のわながアライグマに有効とされています。前足が器用なアライグマの習性を利用したこのわなは、前足を突っ込むことで作動し、突っ込んだ前足を固定して動かなくさせることができます。アライグマ以外の哺乳類が捕獲されにくいため、目的と違う動物を捕獲してしまうことが少なくなります。ただし設置やわなを外す際、専用の工具を必要とするため、先で紹介した「餌付けをしないこと」「侵入経路を塞ぐこと」の徹底を優先的に行いましょう。
ヌートリア
ヌートリアは水辺から離れたがらないという性質があります。そのためヌートリアが住処とする水辺と農地までの経路を移動しにくくすることが、被害を防ぐために有効です。堂々と姿を見せる生き物とは言い難いので、
- ヌートリアの巣穴周辺の草を刈る、焼き払う
- 農地のまわりの草を刈る、焼き払う
という方法で、見通しを良くするだけでも効果があります。また侵入防止策として柵の設置もおすすめですが、ヌートリアは鋭い歯をもっています。ネットだけの柵だと鋭い歯で噛みちぎられてしまう可能性が高いので、歯で噛みちぎることができないプラスチック板などと合わせて柵を設置しましょう。電気柵を組み合わせるのもおすすめです。
おすすめの害獣予防策
特定外来生物に限らず、害獣予防には
- 野生動物の餌となるものを除去する
- 野生動物を農地に入らせない
- 野生動物を捕獲、駆除する
の3つの方法があります。害獣被害に遭う前に予防策を徹底しましょう。もし被害に遭ってしまったら、早急に捕獲、駆除を行います。
アライグマ、ヌートリアの対策でも紹介した「電気柵」は、動物の学習効果を活かした有効な侵入防止策です。ただ電気ショックが弱いと意味がありませんから、動物が嫌がる刺激を保てるよう、電圧の確認はこまめに行いましょう。
近年ではIoT技術を活用した害獣防止策も登場しています。害獣防止策として開発された小型無人機ドローンでは、空から動物の行動を撮影するだけでなく、その行動をデータとして収集し、行動予測を行ってくれます。また野生動物が農地に近づいた際には、動物が嫌がる超音波を発し、動物を傷つけることなく追い返すことが可能です。
参考文献
1,全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成29年) 農林水産省
2,どんな法律なの?|日本の外来種対策 環境省
3,農林水産省/野生鳥獣被害防止マニュアル-アライグマ、ヌートリア、キョン、マングース、タイワンリス(特定外来生物編)
4,野生鳥獣による被害の現状と効果的な対策 GROWRICCI