見た目の可愛いアライグマは、ぬいぐるみやキャラクターとして数多くグッズ化されています。有名なものは「あらいぐまラスカル」でしょう。
番組放送終了から数十年を経てなおテレビコマーシャルの題材にされるほどの人気がありますが、農業従事者にとってはちょっと厄介な存在です。
アライグマは農業の敵!その被害とは?
実際の野生のアライグマは可愛らしいイメージとかけ離れています。
非常に食欲旺盛かつ雑食で、農作物を食い荒らします。
農業関係者がアライグマの食害で受ける年間被害総額は3億円とも4億円とも言われています。
肉もよく食べ、鶏程度の大きさの動物であれば食物とみなします。
家畜やペットをアライグマが食べるといった事件も後を絶ちません。
アライグマは警戒心があまりなく、人間の住む家のすぐ近くまで平気でやって来ます。
中には人間が現住する家屋の屋根裏に住み着くことも!屋根裏に住み着かれると、垂れ流された糞尿が悪臭の原因となり、アライグマが天井裏を走り回るため、天井板が破損したり、腐食したりと、さまざまな被害を被ることが考えられます。
人間に害をなし、日本固有の生態系に対しても大きな影響を与えるアライグマは、平成17年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」に基づき「特定外来生物」に指定されています。
アライグマの生態
・生育環境
日本では47都道府県で存在が確認されています。
アライグマによって農業被害が生じる可能性は、日本全国どこにでもあるということです。
・繁殖力
アライグマは繁殖力が強く、妊娠率はほぼ100%に近いと言われています。
1回の出産で3~6頭の子供を産み、2年で性成熟します。
日本には猛禽類等の天敵がいないため、人間に捕まらない限りは増えていく一方です。
・行動
アライグマは夜行性のため、夜に農作物を荒らします。
泳ぎがうまいため、川などの水場に囲まれた農場であってもアライグマが流入する可能性があります。昆虫・両生類・爬虫類を分け隔てなく食べるため、地域の生態系などにも重大な影響を与えます。魚を食べることも多く、数百万円の錦鯉が食べられてしまったというケースも。
・性格
可愛い見た目とは裏腹に凶暴な動物です。
狩猟犬を逆に噛み殺したり、ペットの犬を襲ったり、生きている家畜の牛の乳首を食いちぎって食べるといった例もあります。
もちろん、駆除しようとした人間に対して噛み付くこともあります。なお、噛まれたり引っかかれたりした場合には、後述する感染症を予防するため、すぐ病院へ受診してください。
・類似生物
アライグマによく似た動物として、
- タヌキ
- アナグマ
が挙げられます。
農業従事者にとってはタヌキやアナグマも立派な害獣です。ただし、アライグマとは違う特徴があるため、アライグマとは違った対策をとる必要があります。
例えばタヌキはアライグマと違い、「登る」ことが得意ではありません。そのため、農場に入り込まれないためにはトタン柵や金網柵が効果的です。アナグマは強靭な前脚を持っているため、地面に穴を掘って農場に入り込むことがあります。そのため侵入防止策の設置とともに、穴を掘られないための対策も必要になります。
アライグマによる被害額
農林水産省の「野生鳥獣による農作物被害状況」より作成したグラフを紹介します。
2005年〜2016年までと少し古いデータではありますが、ここ数年、アライグマによる農業被害の額は3億円台で推移していることがわかります。
決して増加傾向にあるわけではありませんが、ここ数年で急激に減少させることは難しいと言われています。
アライグマの危険性
アライグマには、農業被害をもたらす「以外」にも危険性があります。
・ダニ
アライグマに付着している「マダニ」は、感染症を引き起こすことがあります。アライグマを介してマダニに刺されたとしても、必ず感染症にかかってしまうわけではありません。仮に発症したとしても、適切な治療を受けることで回復することがほとんどです。
しかし、重篤化して死亡するケースもあるため油断はできません。マダニが原因の重篤な感染症として有名なのが「重症熱性血小板減少症(SFTS)」です。これに罹ると、
- 発熱
- 下痢
- 皮下出血
- 意識障害等
が起こると言われています。
マダニに刺された場合には、数日間体調の変化に注意しましょう。何らかの違和感がある場合には、すぐに病院で検査を受けてください。
・回虫症
アライグマは「アライグマ回虫」という寄生虫を保有しています。「アライグマ回虫症」とは、アライグマ回虫が引き起こすまれな感染症です。アライグマ回虫症に感染しているアライグマは、数百万もの卵が含まれた糞便を排泄します。ヒトはその卵を摂取することで感染します。
ヒトへの発生はまれと言われていますが、発症すると
ヒトに致死的な中枢神経系感染症を引き起こすことがある
引用元:アライグマ回虫症 MSDマニュアル プロフェッショナル版
とあります。ヒトの体内で幼虫が孵化すると、肝臓や心臓、肺や脳などを通って移動し、中枢神経系に入ると炎症反応等を引き起こします。重症な神経疾患を引き起こすため、「発症はまれ」とはいえ警戒する必要はあるでしょう。
感染経路には、
- 感染したアライグマの糞便
- 糞便で汚染された土やモノ
が挙げられます。
感染は通常,アライグマの糞で汚染された土または物で遊んだ小児に発生する
引用元:アライグマ回虫症 MSDマニュアル プロフェッショナル版
とありますので、自身の農場の近くで子供が遊べるような環境がある場合は注意が必要です。
・狂犬病
北米原産であるアライグマは「狂犬病」のキャリアとして知られています。日本では近年、狂犬病の報告はありませんが、この病気は発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。
なおアライグマは狂犬病に感染しても、他の感染した哺乳類より長く生き続けます。長く生き続ける分、「さまざまな場所に病気を媒介する」可能性があるため、アライグマに不用意に接触するのは絶対に避けましょう。
・レプトスピラ症
レプトスピラ(Leptospira )と呼ばれる細菌が引き起こす病気で、さまざまな症状を示します。軽症なものもありますが、
- 黄疸
- 出血
- 腎障害等
を伴う重症なものも。保菌動物としてはネズミなどのげっ歯類を始め、数多くの野生動物や家畜(ウシ、ウマ、ブタなど)、 ペット(イヌ、ネコなど)などが挙げられています。
ヒトへの感染経路は
- 保菌動物の尿で汚染された水や土壌
- 尿との直接的な接触
- 汚染された水や食物の飲食
などが挙げられます。
警戒心のあまりないアライグマは、人間の住む場所の近くまで平気でやって来ます。レプトスピラを保菌している可能性がある、または保菌動物と接触している可能性があるアライグマが、平気で人里に近づくということに注意を向ける必要があります。
・その他菌類
- 日本脳炎ウイルス
- カンピロバクター
- サルモネラ菌など
もアライグマから検出されています。
このような危険性から
- アライグマを見かけても近づかないこと
- 万が一接触した場合は、速やかに消毒し、医療機関の指示を受けること
が大切です。
まとめ
「日本の侵略的外来種ワースト100」にも選定されており、危険な生物として行政から認知されているアライグマ。見つけた場合は個人の判断で捕獲をしようとせず、行政に相談するよう注意喚起されています。
一部の動物愛護団体はアライグマの駆除に反対していますが、危険な生物であることに変わりはありません。
アライグマの被害があったら、ためらうことなく行政または専門機関に相談しましょう。
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