人里におりてきて、農作物に被害をもたらす野生鳥獣。農林水産省がまとめた「野生鳥獣による農作物被害状況」によると、獣類による平成29年度の農作物被害金額は131億8600万円にのぼります。
とはいえ、被害金額、被害面積、被害量はそれぞれ
- 被害金額 対前年5%減
- 被害面積 対前年18%減
- 被害量 対前年3%減
となっており、「農作物被害状況の推移」を見る限り、4年ほど前から減少傾向にあることがわかります。
本記事でご紹介する「ネズミ」の平成29年度の被害金額は約1億2400万円。全体の被害金額から見ると0.9%ほどのものですが、ネズミは農作物に害を与えるだけでなく、ダニや菌、ウイルスなどを媒介してしまうため、被害をうけたら早い段階で駆除すべき動物でもあります。
そこで本記事では、ネズミ対策を効率よく行えるために知っておきたい、ネズミの生態についてご紹介していきます。
ネズミによる被害
主な被害には食害が挙げられます。ジャガイモやニンジン、イチゴなどの農作物やラップフィルムを巻き付けて野外に貯蔵される飼料イネなどへの食害があります。
それから、冒頭でも述べましたが、ネズミはダニや菌などを媒介します。たとえばネズミに付いたイエダニは、ネズミが死んで餌(血)がなくなると、人を噛み始めてしまいます。また2019年5月に行われた農林水産省検討会では、2018年から流行したCSF(豚熱、以前は豚コレラと呼ばれていた)の媒介者がネズミやハエである可能性が報告されています。
鳥獣による被害全体で見ると、ネズミによる被害はわずかなものかもしれませんが、ネズミがもたらす被害は多岐に渡ります。ネズミを見つけたら、早急に駆除したいものです。
ネズミの生態を知る
ネズミの生態を知ることで、対策すべきポイントを定めやすくなります。
ネズミの繁殖力、生活様式
ネズミはとにかく繁殖力が高い生き物です。妊娠期間は約21日、出産は年5〜10回、野ネズミの場合は一度に3〜6匹生まれ、イエネズミの場合は一度に5〜10匹ずつ生まれます。そして生まれてからわずか約1ヶ月半で繁殖が可能になります。
寿命は2〜3年ですが、集団(数匹〜数十匹単位)で生活し、エサが豊富にあればどんどん繁殖するので、とても厄介です。
ネズミは暗くて狭い場所を好みます。野ネズミであれば森や畑にある草むらや巣穴を掘って生活し、イエネズミはエサ場や家屋の隙間に入り込みます。わずか1cmほどの隙間をかじりあけて進入してきます。
警戒心が強く、学習能力が高い
警戒心が強い生き物でもあります。また学習能力があるため、危険な目に遭うとそのことを記憶して近づかなくなります。
ネズミの生態をふまえた対策
繁殖してしまうとどんどん増えてしまうため、まずは住処を与えないよう努めます。住処を与えてしまった場合には、その場所をネズミが嫌がる環境に変え、ネズミを追い出すよう努めます。これらをふまえた対策には
- 外からの進入口を塞ぐ
- 進入口近くに粘着シートを置く
- 巣を見つけたら即座に撤去する
- 忌避剤を噴霧し、ネズミが逃げたくなる環境にする
などが挙げられます。
またネズミは暗くて狭い場所を好む分、広くて見通しのいい環境は苦手です。野ネズミなどは雑草が繁茂した場所などを好むため、雑草を取り除き、ほ場や周辺環境を整備するのも効果的な方法のひとつです。
ネズミの主な対策法には毒餌や殺鼠剤も挙げられますが、これらを使う際にはネズミ以外の動物に被害が及ばないよう注意が必要です。そこでおすすめなのが、野ネズミの場合、巣穴の横に殺鼠剤を置き、上から植木鉢などをかぶせる方法です。警戒心が強い生き物ですが、植木鉢等をかぶせることで“暗くて狭い”環境に警戒心がゆるむのか、殺鼠剤を口にしやすくなるようです。
他にもさまざまな対策法があります。より効率よくネズミから農作物を守るために、敵(ネズミ)の生態を理解しておきましょう!
関連記事▶︎『農業の大敵、ネズミによる被害の実情と有効なネズミ対策5選』
参考文献
1,全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成29年) 農林水産省
2,ネズミを知る|害虫を知る|アース害虫駆除なんでも辞典
3,畜産農家の方へ CSFについて:農林水産省
4,豚コレラ ネズミやハエが媒介の可能性ー農水省検討会|ニュース|農政|JAcom 農業協同組合新聞
5,『現代農業 2018年05月号』, 2018年5月1日, 一般社団法人 農山漁村文化協会
6,コメリドットコム|ネズミ対策特集
7,ハタネズミ(農作物病害虫データベース)|長野県農業関係試験場