加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ

加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ

殺虫剤を用いて防除を行う際、害虫が作物のどの部位を加害するのかによって防除の難易度が変わります。そこで本記事では、害虫の加害の仕方に合わせた効果的な防除方法についてご紹介していきます。

 

 

害虫の加害の特性にはどんなものがあるか

加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ|画像1

 

まず、害虫が作物のどの部位をどのように加害するのかについてまとめます。

食害の様式には大きく分けて以下の4つがあげられます。

  • 植物外部からの食害
  • 植物外部からの吸汁
  • 植物内部からの食害
  • 土壌から、植物地下部への加害

1つ目にあげた加害様式の昆虫の具体例には、農作物の葉を食べるアオムシ(モンシロチョウ)やハスモンヨトウなどが挙げられます。

茎葉部について吸汁するものにはアブラムシ類、オンシツコナジラミ、ハダニ類などが、子実や果実から吸汁するものにはカメムシ類などがあげられます。

植物内部からの食害というのは、葉肉内や茎内、枝幹や果実などに潜り込んで食害するものを表し、ハモグリバエ類やカミキリムシ類、スカシバガ類、マメシンクイガなどがあげられます。

最後にセンチュウ類やコガネムシの幼虫などは、作物の地下部を加害するものとして知られています。また、地際部を食い切ってしまう害虫にはネキリムシ類やコオロギ類があります。

 

 

外部からの食害への防除

加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ|画像2

 

この加害様式に属する害虫は作物の外面にいるため、液剤や粉剤、微粒剤などを茎葉に散布することで、殺虫剤を比較的容易に害虫の体表に直接付着させることができます。また茎葉部への散布によって付着した薬剤の上を害虫が歩行したり、薬剤を散布した葉を害虫が食べることで体内へも取り込ませることができます。

ただし、作物に食害する幼虫は発育が進むにつれて体重が増加して薬剤への耐性を持ち、摂食量も多くなります。そのため、被害を防止するのであれば、食害を行う害虫が若齢期のうちに防除を行うことが重要です。

作物の葉などをよく確認し、卵やまだ体の小さい幼虫を見つけたら早い段階で殺虫剤を利用したり、捕殺したりするなどして駆除を行います。被害がほ場全体に広がっていないのであれば、害虫のついている葉を切り落とすなどして被害拡大を防ぎます。

作物に卵を産みつけられないよう、作物の周囲を防虫ネットや寒冷紗で囲い、害虫の飛来を防ぐことももちろん大切です。

なお、このタイプの害虫の中には、ハマキムシなど、葉を巻いたりつづったりした中で生息して、葉や芽などを食害するものがいます。発生期間が長いうえ、直接虫の体に薬剤がかかりにくいので、使用する薬剤には比較的残効性のあるものを選びます。

巻いている葉の中に幼虫がいた場合には、食害を受けた葉ごと摘み取り、薬剤を散布する際には中にいる害虫にも行き届くよう、たっぷり散布することがポイントです。

 

 

外部からの吸汁への防除

加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ|画像3

 

この加害様式に当てはまる害虫は、作物の病原となるウイルスやファイトプラズマを伝播する種類が多いので、それらの害虫が病害を媒介する前に駆除することが大切です。

先述した加害様式と同様、外部から加害するため、殺虫剤を虫の体に付着させることは比較的容易です。ただ、カイガラムシ類など、体表の構造が特殊で、外部からは薬剤が入りにくいものも存在するため、体表がまだそれほど厚くないふ化したばかりの幼虫など、害虫の若齢期に狙いを定めて薬剤散布を行うことが重要になってきます。

害虫ごとに薬剤の散布適期があるので、その時期をはずさずに防除を行います。

またこの手の害虫が作物の組織から汁液を吸収することから、「浸透性殺虫剤」を利用すると効果的な防除が期待できます。浸透性殺虫剤とは、根や葉から吸収された有効成分が植物体内を移行し、植物全体が殺虫効果を持つことで害虫からの防除をはかるものです。

 

 

内部からの食害への防除

加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ|画像4

(※マメクイシンガの食害の様子は、新潟県ホームページなどで見ることができます。ご参照ください)

 

作物表面についた卵から幼虫がふ化し、その幼虫が茎や果実内に入り込んでしまうと、薬剤を散布しても害虫の体に薬剤を付着させることが困難になります。このような害虫の防除には、ふ化する前の卵の時点で殺卵効果のある薬剤や残効性の長い殺虫剤を散布する必要があります。散布適期が比較的シビアなので、時期を見逃さないよう注意してください。

たとえば、この手の害虫であるマメシンクイガは幼虫が大豆の子実を加害し、被害が拡大すると大豆の収量と品質に悪影響を及ぼします。

大豆の茎、葉柄、さやに産みつけられた卵からふ化したマメシンクイガの幼虫はさやに食入し、子実を食害します。子実を食べながら老熟した幼虫は、さやに穴を開けて外に出ると土の中に入り、老熟幼虫のまま越冬。適した日長条件となると土の中で蛹となり、羽化します。

マメシンクイガの特徴は1年のほとんどを土の中で過ごしているということと、成虫の移動距離が短く、発生ほ場への定着度が高いとされていることがあげられます。

そのため、マメシンクイガの防除では、ふ化した幼虫がさやに入り込むのを防ぐため、産卵最盛期頃に薬剤を散布する他、虫の発生量を増やさないために連作を避ける、水稲作との輪作で、土壌中に存在する幼虫の密度を、水稲の作付による長期間の湛水で低下させる方法があげられます。

 

 

土壌からの加害への防除

加害様式別、害虫へのより効果的な化学防除のコツ|画像5

(※画像はコガネムシの幼虫です)

 

土壌中に殺虫剤を施用する方法や、農作物が発芽する時に加害する害虫への対抗策としては種子に殺虫剤をまぶす方法があげられます。

センチュウが発生してしまった場合の防除法については、以下の記事も参照ください。

センチュウ対策【後編】センチュウから農作物を守るためにすべきこと

 

参考文献:日本植物防疫協会編『農薬概説2021』p.223〜(日本植物防疫協会、2021年)

参照サイト

(2024年7月20日閲覧)

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