ハダニの防除方法。ハダニ防除に利用される農薬と農薬に頼らない防除方法について。

ハダニの防除方法。ハダニ防除に利用される農薬と農薬に頼らない防除方法について。

ハダニ類は多くの野菜類や花き、果樹などに寄生して汁を吸う害虫です。ハダニ類は葉裏に寄生し、汁を吸います。ハダニ類に寄生された株は、ハダニ類の影響を受けて葉が白くかすり状に色が抜けてしまいます。ハダニ類の多発生は、当然ながら植物の生長に悪影響を及ぼします。

 

 

ハダニ類の防除に利用される農薬

ハダニの防除方法。ハダニ防除に利用される農薬と農薬に頼らない防除方法について。|画像1

 

作物ごとに登録されている殺ダニ剤の種類は異なります。たとえばイチゴとトマトの場合には以下のものがあげられます。

<イチゴの場合>
ミルベメクチン(6)
アセキノシル(20B)
ビフェナゼート(20D)
スピロテトラマト(23)
シエノピラフェン、シフルメ トフェン(25A)
ピフルブミド(25B)等

<トマトの場合>
ジノテフラン(4A)
ミルベメクチン(6)
ブプロフェジン(16)
ピリダベン(21A)
トルフェンピラド(21A)

※( ) 内はIRACコード番号、IRACとはInsecticide Resistance Action Committeeの略称で、国.際団体 Crop Life International の殺虫剤抵抗性対策委員会のこと。IRACコードは殺虫剤の作用機構分類を示す。

ハダニ類は薬剤抵抗性がつきやすいため、農薬を用いて防除を行う際には、作物ごとに登録されている殺ダニ剤の中から異なるIRACコード番号の薬剤を選び、使用回数に考慮しながらローテーションで使用します。

なお、有限会社インデックス情報センターが運営する「農薬インデックス」というウェブサイトでは、作物名や病害虫名・雑草名から農薬を探すことができます。試しに「ハダニ類」で検索をかけてみたところ、該当する農薬が紹介されました。農薬の名称をクリックすると、有効成分と毒性、性状、特長の他、適用作物群で使用できる作物や取扱メーカー名を確認することができます。

RACコードは記載されていませんが、掲載されている有効成分と農薬工業会が公開するRACコードの一覧を照らし合わせてみたり、商品名別RACコード検索表を活用してみたりすることで、RACコードを調べることは可能です。

RACコード(農薬の作用機構分類)

気門封鎖剤の活用

ハダニ類の防除策として農薬の利用は一般的であるものの、薬剤抵抗性を持ったハダニ類の存在が残念ながら報告されています。そこで、注目されるのが薬剤抵抗性を考慮する必要のない気門封鎖剤の活用です。

気門封鎖剤とは、虫に付着した薬液が虫の気管系を封鎖して窒息死させる殺虫剤を指します。薬剤への感受性の低下が起こりにくく、使用回数に制限がないことなどが利点として挙げられます。

農薬抵抗性に考慮する必要のない気門封鎖剤ですが、使用する際にはもちろん注意事項があります。気門封鎖剤には残効性がないため、効果を発揮するには虫体に十分かかるよう、葉の裏表にムラなく散布する必要があります。ただしそれと同時に、気門封鎖剤による薬害の生じやすさも頭に入れておかなければなりません。

よって、ハダニ類の防除を目的に葉の裏表にムラなく散布する前、過去に気門封鎖剤を散布したことがない作物に散布する必要がある場合は、あらかじめ数株に散布し、薬害が生じるかどうか確認してください。また、薬害が出やすい高温、多湿時の使用はできる限り避けるなど、ラベルの注意事項をよく確認したうえで使用してください。

加えて、気門封鎖剤はその使用タイミングにも工夫が必要です。ハダニ類は糸を吐くことから、多発したのちに散布しても、薬剤を虫体に十分にかけることができません。発生初期に散布することが重要です。

また卵には効果が低いため、卵に対して散布する際は、作物に薬害が生じるかどうかの確認を行ったうえで、5〜10日間隔で2回以上散布してください。

 

 

農薬に頼らない防除方法

ハダニの防除方法。ハダニ防除に利用される農薬と農薬に頼らない防除方法について。|画像2

 

ハダニ類等を捕食する天敵・カブリダ二類を利用した防除策があります。

2014年2月7日、京都大学の矢野修一助教授らは、野菜や果物の葉を枯らすハダニを、2種類の天敵、アリとカブリダニに同時に襲わせることで駆除する手法を見つけました。

ハダニは糸を吐いて網をつくり、その中に逃げ込むことで捕食者であるアリから身を守ります。一方で、カブリダニが網の中に侵入した場合には一時的に網の外へと逃げ出します。そのため、アリとカブリダニが同時に襲いかかると、ハダニは網の内外から天敵に追われることになります。

なお、2022年10月31日に京都大学のウェブサイトで公開された情報では、ハダニはアリの足跡に残る化学物質を避けていることが明らかになりました。この化学物質、人体と環境に無害な天然物質を活用することで、農作物からハダニを追い払うことができるかもしれないと期待されています。

ただし、もちろん天敵の利用にも注意点があります。

天敵は餌がないと生存できず、定着できません。ほ場に放つタイミングが早すぎると、餌がないためにほ場から逃亡したり死滅してしまいます。特にチリカブリダニは主にハダニ類を捕食することから、ハダニ類が発生する前に放つと定着しにくいです。その一方で、放つタイミングが遅れると、カブリダニの増殖が追いつかずに、ハダニ類による被害が拡大するおそれがあります。

天敵製剤は発注してから配送されるまでに時間を要します。ハダニ類が発生したら、迅速に発注することがポイントです。

 

参照サイト

野菜類に発生するハダニ類の発生生態と防除
ハダニ類防除技術の 最近の動向と薬剤抵抗性管理
天敵を活用した キュウリのハダニ類防除
害虫のハダニ、農薬使わず駆除 京大 – 日本経済新聞

(上記2024年2月1日閲覧)

虫害名:ハダニ類 – 島根県
油脂を有効成分とする気門封鎖剤によるトマト主要病害虫の防除効果
微小害虫類およびうどんこ病に対する気門封鎖型薬剤の防除効果
トマトの使用農薬表
殺虫剤(IRAC)2023年9月版(Ver10.5)
ハダニは攻撃方法の異なる天敵に対する護身術を両立できない | 京都大学
害虫がアリの足跡を避けることを発見―厄介な害虫を天然物質で追い払える可能性を開拓― | 京都大学
(上記2024年2月15日閲覧)

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