ネコブセンチュウは、土壌中に生息する微小動物で、農作物に被害を与えるとして度々その名が挙げられます。
ネコブセンチュウの被害に遭った農作物は、その根に無数のコブが現れます。ネコブセンチュウに寄生されてコブが生じた植物の根は、栄養の吸収が阻害されてしまい、収量低下につながります。ニンジンやゴボウなどの根菜類が寄生された場合には根の奇形や枝分かれの原因となります。ひどい場合には枯死することもあります。
ネコブセンチュウの防除は土壌くん蒸剤などの化学農薬が主流となっていますが、近隣への配慮から使いにくくなっていたり、安全な作物生産や持続可能な生産といった観点から、環境に負担の少ない防除法を求めている人も少なくありません。
そこで本記事では、気になるネコブセンチュウ対策に着目。米ぬかや石灰窒素、マリーゴールドがもたらすネコブセンチュウへの防除効果について紹介していきます。
対策①米ぬか
米ぬかにはネコブセンチュウの増殖抑制効果があるとされています。古い文献ではありますが、松山隆志『米ぬかによるモロヘイヤのセンチュウ対策(平成9年度環境保全型農業現地展示圃)』(沖縄農業第34巻第1号、1999年)に米ぬかの効果が記されています。
上記実験では、ネコブセンチュウ被害が多く発生する圃場に米ぬか施用区と対照区を設定し、モロヘイヤ栽培時のネコブセンチュウ被害を検証しました。モロヘイヤの収量に影響を与えるとされる被害の程度(ネコブの発生度合い)を大、中、小、無の4段階に分類し、中と大の合計を米ぬか施用区と対照区で比較したところ、米ぬか施用区では26.3%、対照区では50.0%となり、米ぬかの施用はネコブセンチュウによるネコブの発生を抑制することが示唆されました。
また土中に米ぬかを混ぜることで、米ぬかを栄養源として増殖する微生物(乳酸菌やBacillus属細菌)と、それをエサに増殖する細菌食性センチュウの代謝産物であるアンモニアが、ネコブセンチュウを抑制するともいわれています。
土中への米ぬかのすき込みと太陽熱処理を併用すると、さらに高い防除効果を示します。これは「土壌還元消毒法」とも呼ばれています。
古くから行われているセンチュウの防除法に湛水があります。農研機構『有害線虫総合防除技術マニュアル』(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 吸収沖縄農業研究センター、2013年)によれば、センチュウに汚染された圃場を1年間水田にするだけで有害なセンチュウはいなくなるのだとか。「土壌還元消毒法」は、米ぬかやフスマ、水、そして夏期の高温を利用して、湛水によるセンチュウ防除の効果を短期間で引き出す方法です。
手順を簡潔に記すと「米ぬかなどの有機物を大量にすき込み、たっぷりと水をかけたら、農業用フィルムで土壌表面を覆って、1週間以上放置する」だけです。
関連記事:有害線虫総合防除技術マニュアル p.28〜29
対策②石灰窒素
石灰窒素は緩効性の窒素肥料です。日本石灰窒素工業会 技術顧問 六本木和夫『石灰窒素による土づくりを活かした センチュウ防除』(石灰窒素だよりNo.153、2018年)には、石灰窒素を施用したことによる防除効果の事例が紹介されています。
露地キュウリの場合、石灰窒素を50kg/10a施用した区と無施用の対照区を設けて試験を行ったところ、施用区は対照区に比べ、ネコブの発生度合いや土壌中のセンチュウ密度が低下しました。
施設園芸のトマトの事例では、石灰窒素施用に太陽熱消毒を加えた試験が行われ、
- 石灰窒素100kg/10aと稲わら1t/10aを施用し、湛水処理とビニールマルチがけを組み合わせた区(組み合わせ区)
- 湛水区(湛水処理+ビニールマルチがけ)
- クロルピクリン(土壌くん蒸剤)消毒区
- 無処理区
を設け、ネコブセンチュウへの防除効果が検証されました。
その結果、地表下2.5cmのセンチュウ数(頭/土壌50g)は
- 組み合わせ区 5
- クロルピクリン消毒区 2
- 湛水区 2
- 無処理区 172
となり、古くからのセンチュウ防除法である湛水、クロルピクリン、そして組み合わせ区がセンチュウの数を大きく減らしました。
ネコブセンチュウ被害に遭った株の%は
- 組み合わせ区 1%
- クロルピクリン消毒区 1.8%
- 湛水区 32.9%
- 無処理区 68.3%
となり、組み合わせ区とクロルピクリン消毒区は被害を大幅に抑えることができました。
石灰窒素の施用と太陽熱を利用した土壌消毒法と組み合わせることで、クロルピクリンと同等の効果が期待できます。
対策③マリーゴールドなど対抗植物の利用
センチュウを抑制する「対抗植物」の利用も効果を発揮します。ただし、センチュウの種類によって対抗植物や効果が異なる場合があるため、圃場に生息するセンチュウの種類を把握する必要があります。
ネコブセンチュウの対抗植物の代表には
- イネ科 ギニアグラス、エンバクなど
- マメ科 ラッカセイ、クロタラリアなど
- キク科 アフリカンマリーゴールド、ベニバナなど
- バラ科 イチゴ
- ナス科 トウガラシ、ピーマンなど
- ウリ科 スイカ
- ユリ科 アスパラガス
などが挙げられます。
ネコブセンチュウを抑制するために注意しておきたいこと
ネコブセンチュウは宿主の範囲が広く、多くの雑草に寄生し増殖する可能性があるため、圃場の雑草の発生、繁殖には注意が必要です。対策による効果を過信せず、発生した雑草を放置しないことも、センチュウ抑制には重要です。
また基本的なことですが、センチュウを圃場に運びこまないためにも、
- センチュウに汚染された作物を持ち込んだり、持ち出したりしない
- 圃場間を移動する場合は、農機具や長靴に付着した土壌をよく洗い落とす
などの心がけも重要です。
参考文献
- 寄生ネコブセンチュウ – 北海道大学 農学部
- 植物感染性線虫の宿主根認識機構
- ネコブセンチュウ対策/奈良県公式ホームページ
- 線虫に関する研究 | 植物発生・生物間コミュニケーション研究室
- ネコブセンチュウの最適な対策方法とは。予防・駆除で抑えるべきポイントを解説
- 米ぬかによるモロヘイヤのセンチュウ対策 – (平成9年度環境保全型農業現地展示圃)
- サツマイモネコブセンチュウの物理的、耕種的および生物的防除に関する研究 – 鹿児島大学リポジトリ
- 有害線虫総合防除技術マニュアル
- 土の中の小さな害虫「センチュウ」 | 営農情報 | 農と食のこと
- 石灰窒素による土づくりを活かした センチュウ防除
- プレスリリース ネコブセンチュウ防除効果の高い新しい対抗植物