光を利用した害虫対策!2020農業技術10大ニュースに選出されたLEDによる最新研究も紹介

光を利用した害虫対策!2020農業技術10大ニュースに選出されたLEDによる最新研究も紹介

2020年12月23日、農林水産省が2020年農業技術10大ニュースを選定しました。本記事では、その中の一つ「赤色LEDでアザミウマ防除」に着目し、光を利用した害虫対策についてご紹介していきます。

赤色LEDでアザミウマ防除
大阪府立環境農林水産総合研究所、農研機構、静岡県農林技術研究所、(株)光波は、赤色発光ダイオード(LED)を植物に照射することでミナミキイロアザミウマを防除する技術を確立。施設栽培のナス、キュウリ、メロンで防除効果を実証した。化学農薬の使用削減につながる新手法として期待される。

引用元:2020農業技術10大ニュース発表 AIで病害診断、スマホで土壌分析など|JAcom

 

 

そもそもLEDとは

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LEDは「Light Emitting Diode(ライト・エミッティング・ダイオード)」の頭文字で、これはすなわち「光を発するダイオード=発光ダイオード」を意味します。LEDと発光ダイオードは同じもので、光を発する電子部品を指します。

LED最大の特徴ともいえるのが、電球と比べた時の「消費電力の小ささ」です。

まずは電球とLEDの光る仕組みについて。電球は電気をフィラメントに流すことで起こる電気抵抗によって発熱し、発光します。一方LEDは2つの「半導体」がくっついてできた「LEDチップ」が発光する部分です。半導体は温度や電圧などの条件によって、電気を通したり通さなかったりする性質があります。LEDチップはプラス電子を多く持つ半導体とマイナス電子をが多く持つ半導体から成り、電気を流すとプラス電子とマイナス電子が動き出し、互いにぶつかりあって結合します。そして、電気を流すことで生じたエネルギーを光に変えています。

発光する仕組みの違いが消費電力の差につながります。

白熱電球は、フィラメントを発熱させることで、光を出しています。多くの電力が熱になっているのです。LEDは、供給される電力のほとんどを、光を出すことに使い、あまり熱を出しません。

引用元:LED電球と白熱電球の消費電力|NHK for School

 

 

赤色LEDが害虫防除に!?

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そんなLEDは害虫防除に役立てられています。

大阪府立環境農林水産総合研究所、農研機構、静岡県農林技術研究所、株式会社光波は、日中、赤色LEDを植物に照射するとミナミキイロアザミウマの成虫が作物に近づくのを抑えることができることを明らかにしました。

ミナミキイロアザミウマはナスやピーマン、キュウリやホウレンソウなどに害を及ぼす農業害虫の一つです。害虫防除がなされていない場合、成虫は作物の葉に害を及ぼします。成虫が産卵すると、幼虫は葉や果実を吸汁して成長していきます。

しかし日中に赤色LEDを照射すると、ミナミキイロアザミウマは植物の葉の緑色を識別するのが難しくなるため、葉に定着しにくくなります。定着しにくくなれば雌の成虫が葉や新芽に産卵する機会を減らすことができ、繁殖数を抑えることにつながります。

ただし、赤色LEDの効果を得るためにはいくつか注意点があります。例えば、すでに成虫が葉に定着している場合は、赤色LEDを照射しても効果はありません。また夜間に照射するとかえってアザミウマ類を誘引してしまうため、「日中に照射する」のが原則です。理想の照射スケジュールには2パターンあります。

①日中12時間程度(日の出7時、日の入り17時の場合、6時〜18時まで)
②最低気温が20℃を超える時期には日の出1時間前〜日の入り1時間後まで照射する(日の出6時、日の入り18時の場合、5時〜19時まで)

農研機構が公開している『赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル』には、より効果的にミナミキイロアザミウマの行動を抑制したい場合に、育苗の段階から赤色LEDによる照射を行うことや、定植する前や定植する際、光照射と合わせて薬剤処理を行い、苗から害虫を持ち込まないようにすることなどがおすすめされています。

※アザミウマ種や植物との組み合わせによって赤色LEDによる効果の程度が異なります。光照射のみならず、防虫ネットや光を反射するシートなどの物理的防除や化学的酸防除など、さまざまな防除方法と組み合わせて対策するのがおすすめです。

青色LEDは殺虫効果!?

2018年に東北大学の研究チームが、LEDを使ってさまざまな波長の光(さまざまな色)を昆虫のさなぎに照射して、羽化できずに死ぬ割合を調べたところ、青色LEDの殺虫効果を発見しました。

堀 雅 敏、青色光の殺虫効果と防除への応用|Japanese Journal of Pesticide Science 43(2): 109-116(2018)

ただし、上記論文中にも

青色光の殺虫効果を報告してから3年半が経ち,実用化にむけて食品工場などでの導入が始まったところであるが,殺虫メカニズムの詳細は未だ解明されていない。

引用元:堀 雅 敏、青色光の殺虫効果と防除への応用|Japanese Journal of Pesticide Science 43(2): 109-116(2018)

とあるように、殺虫メカニズムは不明。現在もメカニズムを解明するための実験が続いているようです。

 

参考文献

  1. 2020農業技術10大ニュース発表 AIで病害診断、スマホで土壌分析など|JAcom
  2. 伊藤尚未『子供の科学★サイエンスブック よくわかるLED・発光ダイオードのしくみ ひかるメカニズムから青色発光ダイオードまで』(2015年、誠文堂新光社)
  3. 電気こどもシリーズ – キッズ・展示館|中部電力
  4. LEDはなぜ光る?LEDを知る・学ぶ – LED WORLD|シチズン電子
  5. LED電球と白熱電球の消費電力|NHK for School
  6. LEDで減農薬 アザミウマ類防除マニュアルを公開|JAcom
  7. 赤色 LED によるアザミウマ防除|戦略的イノベーション創造プログラム
  8. 赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル|農研機構
  9. 青色LEDの光に殺虫効果!東北大が発見 – 産経ニュース
  10. 堀 雅 敏、青色光の殺虫効果と防除への応用|Japanese Journal of Pesticide Science 43(2): 109-116(2018)

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