農業において、害虫はとても厄介な存在です。害虫の被害として代表的なのは食害ですが、農作物に病気をもたらすウイルスなどを媒介することもあり、害虫からの防除は農業においてとても重要です。
害虫防除には
- 物理的防除(防虫ネットや粘着シートなど)
- 化学的防除(農薬、性フェロモンなど)
- 生物学的防除(天敵やコンパニオンプランツなど)
が挙げられます。
本記事で着目するのは生物学的防除にある「土着天敵」です。
土着天敵とは
(↑)アザミウマやコナジラミの天敵タバコカスミカメはゴマで誘引することができる。
農作物に被害を与える害虫を食べてくれる天敵には「天敵製剤(生物農薬)」として製品化されたものもありますが、「土着天敵」は土着が表す意味
先祖代々その土地に住んでいること。また、その土地に住みつくこと。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
の通り、地域に元々いる天敵を指します。
土着天敵を活用する際には、土着天敵をほ場に定着させる必要があります。そのため、害虫に適した天敵の種類に合わせて「天敵温存植物」を用意します。たとえば、アザミウマやコナジラミなどの天敵タバコカスミカメ※はゴマやクレオメ、ハダニの天敵となるカブリダニ※はアップルミント等で誘引することができます。これらの植物にとって土着天敵は害虫にあたりますが、その関係性のおかげで、ほ場に必要な土着天敵が用意できると言えます。
※リンク先に飛ぶと画像が出てきます
土着天敵のメリット・デメリット
土着天敵のメリットはコストがかからないことです。元々地域に存在する天敵を活用するわけですから、害虫対策のために天敵製剤を購入する必要はありません。またコストや対策に費やす時間においても、土着天敵の活用は農薬防除のみで行うより、コストも時間も大幅に削減することができます。
ただし、もちろんデメリットもあります。地域性がある土着天敵は、人の手で制御しにくい面があります。土着天敵を誘引するための手間はかかりますし、天敵の密度不足や効力不足などが起こる可能性もあります。
また先で“ゴマにとってタバコカスミカメは天敵”と書きましたが、農作物や農作物の生育状況によって土着天敵がその作物の害虫になる場合もあります。そのため活用する際には、以下のことに注意が必要です。
土着天敵使用上の注意
農作物が小さいときに注意すべきこと
土着天敵によっては、農作物の新葉や若い茎に被害を与えてしまう可能性もあります。土着天敵が農作物の害虫になってしまわないよう、農作物の生育時期によっては、土着天敵が棲む温存植物に目の細かいネットを被せるなどして対策しておきましょう。
農薬選びに注意
生育中の農作物に土着天敵が害を及ぼさないようにするため、また農作物の病気を予防するために、農薬を使用することもあるかと思いますが、天敵の導入により使用できる農薬が減ることを覚えておきましょう。また使用する際には、あらかじめ、その農薬が天敵にどう作用するかを確認する必要があります。
土着天敵の飼育方法に工夫を凝らす
土着天敵の飼育方法には、遊休ハウス内に温存植物を育て、そのハウスを「天敵温存ハウス」として利用する方法があります。ほ場に天敵を移動する場合には、ほ場に行くまでの間に飛んでいってしまわないよう、虫の動きが鈍くなる肌寒い日などを選んで移動するのがおすすめです。
また土着天敵は、害虫、すなわち餌が少なくなると姿を消していきます。しかしほ場を取り囲むように温存植物を植栽することで、害虫が少なくなっても天敵の発生を維持し、土着天敵を維持する方法もあります。
なお農研機構の『土着天敵を活用する害虫管理事例集』にはさまざまな活用事例が掲載されています。土着天敵を活用される際にはぜひ読んでみてください。
参考文献
- 土着天敵_現代農業用語集
- 『現代農業 2019年06月号』, 2019年6月1日, 一般社団法人 農山漁村文化協会
- 土着天敵を活用する害虫管理最新技術集と事例集 農研機構
- 土着天敵を活用する害虫管理技術事例集 農研機構