野菜に害を与える病害虫の一つとして挙げられる「センチュウ」。センチュウはとても小さく、その姿を肉眼で捉えることはできませんが、センチュウが野菜の根に寄生すると野菜の生育が阻害され、葉が枯れたり、形がゆがんでしまったり、成長が遅くなるなどの悪影響を及ぼします。
そこで本記事では、センチュウ予防、対策を始める前に知っておきたい、センチュウの生態についてご紹介していきます。
センチュウの生態
センチュウは「線虫」と書きますが、実際には昆虫ではありません。動物の分類において、昆虫は「節足動物門」の「昆虫網」に分類されますが、センチュウは「線形動物門」に分類されます。
冒頭でも紹介したようにセンチュウは長さ400μm(マイクロメートル※)、幅20μmと非常に小さく、体色が透明に近いため、肉眼で姿を捉えることはできません。
※1mmの1/1000の大きさ
代表的なセンチュウ
農作物に害を与えるセンチュウとして代表的なのは
- ネコブセンチュウ
- シストセンチュウ
- ネグサレセンチュウ
が挙げられます。
(NHK for Schoolより、シストセンチュウの動画はこちら。)
センチュウの幼虫は、植物の根に侵入するとストロー状の口針を突き立て養分を吸います。センチュウに食べられた部分の組織は死んでしまうため、被害に遭った農作物はその部分以外に根を伸ばして、水や養分を求めます。その結果、ゆがんだ形になります。またそれ以上センチュウに食べられないよう、自ら組織を壊す野菜もありますが、その結果、表面がでこぼこになったり変色したりします。
ネコブセンチュウは「根こぶ」の名の通り、寄生した植物の根にこぶを生成します。寄生を受けた根はこぶが膨れ上がることで養分を十分に吸収することができなくなります。寒さに弱いとされてきましたが、近年は温室などの施設での発生が見られるようになりました。ネコブセンチュウの雌は、体外にゼラチン状の物質(卵嚢)を分泌すると、その中に数百個もの卵を産みます。
シストセンチュウは、雌が胎内に卵を保持し、その体皮を「シスト」と呼ばれる硬い鞘に変化させ、卵を守るのが特徴です。シスト内の卵は、センチュウが寄主となる植物が成長し、根から溶け出す刺激物質を感知することで孵化します。シストは乾燥や低温といった環境変化、農薬に強く、孵化できる環境になるまで5〜10年近く土壌中で生き続けます。
ネグサレセンチュウは「根腐れ」の名の通り、寄生部分の細胞を変色腐敗させます。ネグサレセンチュウは運動性があり、作物の根の組織を出入りしながら寄生植物を食べていきます。
シストセンチュウはマメ科やナス科の植物に寄主が限定されます。一方ネコブセンチュウとネグサレセンチュウは広範囲の植物に寄生します。
センチュウの弱点
小さく目に見えないため物理的防除が難しく、また土壌中にたくさんいることから根絶するのが難しいセンチュウですが、土壌生物層を豊かにすることでセンチュウの天敵を増やせば、センチュウの被害を抑えることができます。
センチュウの天敵となる土壌生物には
- ダニ類
- クマムシ類
- トビムシ類
- アメーバー類
などが挙げられます。
またネコブセンチュウには、ネコブセンチュウにだけ付く細菌「パスツーリア・ペネトランス」の存在が挙げられます。この細菌はセンチュウの産卵を抑えます。そのため、この細菌を土壌中にまくことでネコブセンチュウを減らす栽培技術が実用化されています。
またセンチュウの数を抑制する化学物質を生成する植物を畑に植えることで、センチュウの数を減らすことが期待できます。「センチュウ対抗植物」と呼ばれる植物には
- キク科(例、マリーゴールド)
- マメ科(例、クリムソンクローバー)
- イネ科(例、ソルゴー)
などが挙げられます。
植物の品種により、効果のあるセンチュウの種類が異なるので、センチュウの被害に遭った農作物などからセンチュウの種類を特定する必要がありますが、マリーゴールドであれば、センチュウ対抗植物の効果を発揮するセンチュウの種類も多く、苗や種も手に入りやすいので、センチュウ対策として、まずマリーゴールドを選ぶのもいいでしょう。
まとめ
センチュウの卵は、寄主主が現れない限り、土壌中で長く生き続ける厄介な部分がありますが、先で説明したように、孵化するのは寄主となる植物が成長し、根から溶け出す刺激物質を感知したとき。また天敵の存在がセンチュウの数を減らします。
そのため、連作障害が起きないよう輪作をする、土壌生物層が富む、すなわち天敵が増えるように有機物の多い土づくりを心がけるだけでも、センチュウによる被害を抑えることができる、というわけです。
後編では、より具体的なセンチュウ対策、予防法を紹介していきます。
参考文献