「センチュウの生態」については前編をご覧ください。
はじめに
センチュウは、土壌中にたくさん存在していることから根絶することは不可能に近く、一度発生を許すと駆除が難しい害虫です。そのため、農作物をセンチュウの被害から守るためには、事前の予防やセンチュウを広めないための工夫が重要です。
本記事では、センチュウ被害が発生してしまった場合やセンチュウ被害に遭わないためにやっておきたいことについてまとめます。
センチュウ被害が発生してしまった場合には
センチュウが発生した株を抜き取る
センチュウが発生した株は抜き取り、その周辺の土壌ごと圃場の外に出して処分しましょう。
土壌消毒
センチュウ被害が発生してしまった場合、または発生の可能性がある場合には、土壌消毒を行うか、新しい土に入れ替えます。
センチュウは60℃程度の高温に数分間さらされると死滅するため、本記事では熱によってセンチュウを殺す方法(太陽熱消毒、熱水消毒など)をご紹介します。
太陽熱消毒
夏期(7月中旬から8月下旬くらい)の高温を利用した消毒法です。太陽熱消毒を行う際、有機物や石灰窒素を同時にすき込むと土壌改良効果も得られます。
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熱水消毒
太陽熱ではなく70〜95℃の熱水を用いて消毒する方法です。熱水土壌専用の注入装置や消毒機が必要になりますが、厳冬期を除いて処理を行うことができ、太陽熱のように、その日の気温の変化に左右されることもないので安定性の高い方法と言えます。
- 圃場を深く耕した後、地表面を平らにする
- 処理を行う場所をマルチ被覆する
- 熱水注入装置、熱水土壌消毒機を準備し、熱水を注入する
- 注入を終えたら、一晩以上放置する(高温状態を持続させる)
<注意点>
- マルチの耐熱性を確認しておくこと
- 熱水注入装置、熱水土壌消毒機を使用するにあたり水源と電源を確保すること
- 散水の目安は圃場1平方メートルあたり100~150L
土壌消毒剤を使用した方法
センチュウ被害が大きい場合には、土壌消毒剤などの使用をおすすめします。農業に害を及ぼすセンチュウ類に使用できる農薬には、
- 定植、播種の一定期間前に処理するもの
- 定植、播種時に処理するもの
- 生育期間中に処理するもの
などが挙げられますが、前編で紹介したネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウに対して“生育期間中に処理するもの”は数が少ないなど、薬剤ごとに使用時期や対応種が異なります。
土壌消毒剤を使用する前には必ず、使用時期、薬剤に対応するセンチュウの種類等を確認するようにしてください。
石灰窒素や生物農薬
センチュウ対策資材として石灰窒素があげられます。石灰窒素はセンチュウの密度を低下させる働きがあると言われています。
またネコブセンチュウであれば、天敵となる微生物「パスツーリア・ペネトランス」を用いた生物農薬「パストリア水和剤」も効果的な薬剤としてあげられます。ただし「パストリア水和剤」は高価な薬剤であること、効果が出るまでに時間がかかることなどがデメリットとしてあげられます。
センチュウを広げない心がけを
センチュウが発生してしまった場合には、土壌消毒や下記に示す予防策など、さまざまな防除対策を組み合わせて、センチュウの増加を抑え、被害拡大を食い止めることが重要です。
またセンチュウが発生した場合、農機具や足の裏などにセンチュウが付着している可能性が考えられるため、センチュウの発生した株や周辺の土壌を圃場の外で処分する場合には、その圃場に触れたものを、可能な限り全て、水で洗い流しましょう。センチュウ被害が多発した場合には、栽培が終わった後、再度土壌消毒を行うことをおすすめします。
センチュウ被害に遭わないためにやっておきたいこと
連作しない、輪作を心がける
センチュウは土壌中にたくさん存在します。ですが、土壌環境を整えることで、センチュウだけでなくセンチュウの天敵も生存しやすくなります。連作すると、特定のセンチュウの密度が高くなり、センチュウによる被害を受けやすくなるので、連作は避けましょう。
ただし、ネコブセンチュウやネグサレセンチュウはさまざまな植物に寄生するため、輪作を行ってもセンチュウ密度を下げられない可能性があります。シストセンチュウも、「シスト」(卵を守る包嚢。センチュウの雌は胎内に卵を留め、その体皮を硬い鞘にして卵を守る)により、寄生生物なしで長い期間生存できる特性から、短い期間の輪作では密度を下げられない可能性があります。
なので、「輪作はセンチュウ対策の基本中の基本」と捉え、それだけで予防できるとは考えず、他の予防策と組み合わせてセンチュウ被害を抑える必要があります。
対抗作物を植える
センチュウ密度を減らす働きのある「対抗作物」を植えるのも効果的です。センチュウの種類によって効果のある対抗作物が異なるため、圃場に発生したセンチュウ被害や作物への影響から、センチュウの種類を見極め、適した対抗作物を選ぶ必要があります。
ただ、マリーゴールドであれば、効果を発揮するセンチュウの種類も多く、苗や種も手に入りやすいので、ひとまずマリーゴールドを植えてみるのもいいでしょう。
土壌改良もかねて石灰窒素を施す
殺虫作用のある石灰窒素を作付け前に散布します。卵の状態で越冬するセンチュウには薬剤が効きにくいため、春〜秋のあいだに施します。石灰窒素は後に窒素肥料に変わるため、施肥量に注意する必要はありますが、土壌改良の一環として取り入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ
センチュウは発見しにくく、農薬も効きにくい、根絶することも難しい厄介な害虫です。そのため、農作物を収穫したり抜き取ったりした時には、こまめに根を観察し、センチュウ被害の気配がないか調べましょう。連作を避けるのはもちろん、定期的な土壌消毒を心がけることも大切です。
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構の「有害線虫総合防除マニュアル」には、より詳しいセンチュウの生態だけでなく、防除方法、各防除方法にある課題や問題点等が記載されているので、センチュウ被害に頭を悩ませている、センチュウ予防を心がけたい人は、一度目を通しておくことをおすすめします。
参考文献