温暖化の影響でカメムシが大量発生!?その背景と習性を活かした対策について

温暖化の影響でカメムシが大量発生!?その背景と習性を活かした対策について

NHK NEWS WEBが2023年8月24日に公開した記事によると、全国各地でカメムシが大量発生し、千葉県や埼玉県など、全国14の県が「注意報」を出し、農家に対策を呼びかけています。

カメムシが全国各地で大量発生 14県で注意報 農家に対策呼びかけ | NHK

昨年9月22日の日本経済新聞の記事でも、国内で近年カメムシが大量発生していることが報じられていました。

カメムシは、イネの養分を吸ってコメを変色させたり、果樹などを吸ったり、農作物に被害を及ぼす存在です。昨年の記事では、2022年の発生率は過去10年において特に多いわけではないものの、2022年8月末までに延べ35都道府県が「カメムシ注意報」を出した、とあります。

 

 

大量発生の背景

温暖化の影響でカメムシが大量発生!?その背景と習性を活かした対策について|画像1

 

大量発生の背景には温暖化の影響があるとされています。

地球温暖化がカメムシに及ぼす影響として以下のものがあげられます。

  • 冬季死亡率の減少
  • 繁殖開始時期の早まり
  • 春以降の活動の活発化

冬の高温化の影響

温暖化により、冬が高温化したことで、冬を生き延びる個体が増加していることが、カメムシの発生率増加の要因としてあげられます。特に、あらゆる農作物に害を及ぼすミナミアオカメムシは、元々はアフリカ原産ですが、現在では全国的に広がっています。

大野裕史・中村圭司『ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布』(Naturalistae, no. 11: 1-8、2007年)によると、元々ミナミアオカメムシは増殖率が高いものの寒さに弱く、高緯度地域や山地への侵入は妨げられていました。同論文では“日本はミナミアオカメムシの分布北限にあたり”と記しながらも、温暖化の影響により、より緯度の高い地域へと分布を拡大していることを明らかにしています。

ただし、上記論文では、ミナミアオカメムシが分布を広げた要因として、温度上昇のほか、交通機関の発達により作物とともに人為的に運ばれてきた可能性も示唆しています。

藤崎憲治『ミナミアオカメムシの高温障害』(植物防疫第64巻第7号、2010年)では、野外よりも2℃高い温度で変動するようプログラミングされた飼育装置の「温暖化区」と「非温暖化区」(外気温条件下で飼育)での幼虫の発育や越冬生存率を比較しています。

その中で、9月1日や9月15日といった晩夏あるいは初秋に卵からふ化した幼虫は、温暖化区では体サイズが大きくなり、温暖化が進行することで、日本の秋がミナミアオカメムシにとって好適な発育環境となることが示唆されています。

また、温暖化区でも非温暖化区でもミナミアオカメムシは越冬前に繁殖はせず、越冬後に繁殖したが、“越冬生存率は温暖化区のほうではるかに高かった”とあります。

 

 

効果的なカメムシ対策について

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温暖化により、今後ますますカメムシの発生率が高まることが予想されます。そこで予防や対策が必要になりますが、予防・対策を行う際は、まず対象の特徴を知ることが大切です。

カメムシは光に集まる習性があります。光源によって誘引率に違いがあり、強い紫外線を出す照明に多く集まります。

遠藤信幸・弘中満太郎『光源の違いがカメムシ類の誘引に及ぼす影響』(九州病害虫研究会報第63巻55〜61、2017年)によると、紫外線の光量が大きい水銀灯は、白熱灯に比べ5.6〜304.6倍も多くカメムシ類を誘殺した、とあります。

カメムシ類の誘引に紫外光が有効と考えられる背景には、カメムシ類の複眼が650nmよりも短い波長域に感度を持ち、そのうち250〜400nmの紫外域で強い走光性(昆虫などの生物が光刺激に反応して移動すること)を示すことがあげられます。

誘引に与える紫外光の影響はカメムシの種によって異なるものの、水銀灯>白熱灯>LEDの順でカメムシを誘引しやすいといえます。

ライトトラップを用いて捕殺を試みる場合には、紫外光が大きい照明器具を用いるのがおすすめです。一方で、カメムシを遠ざけたい場合には、不必要な照明を消したり、照明をLEDに交換したりすると効果的です。

 

 

温暖化はカメムシにとっていいことばかりではない!

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先で紹介した論文『ミナミアオカメムシの高温障害』では、温暖化によって昆虫に発育遅延などの高温障害が起こることが記されています。

温暖化が進行することで、日本の晩夏や初秋がカメムシにとって最適な発育環境となりうることへの懸念はありますが、上記論文には、8月1日という盛夏においては、成虫への脱皮に失敗する個体が増えたこと、羽化成虫の体サイズが小さくなったことも記されています。

温暖化条件では生活史が短縮されたともあり、年間世代数の増加という観点においては、温暖化が、アフリカ原産で南方性のミナミアオカメムシに有利に働くとは限らないことが示されています。

温暖化によってメリット、デメリットの両方が生じるのは、私たちも害虫も同じのようです。

 

参考文献

  1. カメムシが全国各地で大量発生 14県で注意報 農家に対策呼びかけ | NHK
  2. カメムシ大量発生、各地で農業被害 温暖化で越冬可能に – 日本経済新聞
  3. 温暖化にともなう虫たちの 変化
  4. 大量発生しているツヤアオカメムシの生態と対策の解説【2023年9月-】 | 伊丹市昆虫館へようこそ
  5. ミナミアオカメムシの高温障害
  6. 光源の違いがカメムシ類の誘引に及ぼす影響
  7. 大野裕史・中村圭司『ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布』(Naturalistae, no. 11: 1-8、2007年)

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