改めて知っておきたい基礎知識。害虫が発生しやすい環境とは

改めて知っておきたい基礎知識。害虫が発生しやすい環境とは

本記事では、農作物栽培時の害虫予防を目的に、どのような環境になると害虫が発生しやすくなってしまうのかについて紹介していきます。

 

 

害虫が発生しやすい環境とは

改めて知っておきたい基礎知識。害虫が発生しやすい環境とは|画像1

 

温度・湿度

害虫の種類によって好適な温度は異なります。昆虫にはある温度以下では発育できないという発育最低温度(以下、発育零点)があります。発育零点以上のある温度範囲では、温度が高くなるほど発育は速く、また一般的に北方系の害虫の方が南方系よりも発育零点は低いです。

それから、害虫は温度との関係で低温地域と高温地域に棲み分けられます。ただし、近年は地球の温暖化によって、高温地域の害虫が少しずつ低温地域へと生育範囲を広げる傾向があるとされています。

また、従来では冬季の低温に耐えられなかったり、休眠したりする害虫が、ハウスなどの施内で、栽培作物に加害しながら越冬したり、低温になる前に施設内に入りこみ、休眠・越冬して春から活動を始めたり、といったことがあります。

湿度もまた、温度と同様、害虫の発育と活動に重要な要因です。

以下は、代表的な害虫の発育零点や生育に必要な湿度を記したものです。

<マメシンクイガ>
発育零点について
卵の場合、9.9℃、さやの中にいる幼虫(雌)の場合、6.0℃、蛹(雌)の場合、 8.8℃。
(参照元:北陸病害虫研究会:第64回(新潟)講演要旨1

<トビイロウンカ>
発育零点について
発育零点12.0℃、発育上限温度28.5℃、発育停止温度35.0℃
(参照元:技術情報第6号|一般社団法人日本植物防疫協会 JPP-NET
湿度について
イネウンカ類の薬剤感受性を調べる際、試験に用いるために多くの供試虫を飼育する必要があるが、その場合、湿度は70~80%に保つのが望ましいとされている。
(参照元:イネウンカ類の薬剤感受性検定マニュアル

<コナガ>
発育零点について
発育零点7〜10℃の範囲
(参照元:コナガの発生生態と防除
湿度について
かなり古い資料ではあるが、コナガを飼育する上で必要な湿度は60〜70%程度。最適な湿度は「飼育容器内に水滴が付着しない程度」とあり、比較的乾燥した環境が好ましいとある。
(参照元:コナガの簡易飼育法 殺菌剤|使用倍率|卿化数

<アオムシ(モンシロチョウ)>
発育零点について
卵の場合、10℃、幼虫の場合、8.2℃、蛹の場合、11.2℃。
(参照元:私の試験研究
湿度について
モンシロチョウの飼育を行う際、幼虫の飼育に最適な条件は、室温(20~25℃)で高湿度(80 ~ 100%)であった。
(参照元:久留戸涼子、高田勇太朗、明石真弥『モンシロチョウの成長に影響を及ぼす環境要因』常葉大学教育学部紀要 第36号p.313~331、2016年)

害虫には日長条件によって発育を停止し、卵や幼虫、蛹や成虫の状態で休眠するものがあります。

先述したアオムシ(モンシロチョウ)、アゲハ、ヨトウムシ類などは蛹で休眠を行い、ウリハムシやカメムシ類は成虫で休眠します。

また長日で活動するアオムシ(モンシロチョウ)、アゲハなどは短日になる冬季に休眠を行いますが、短日で活動する害虫などは長日の夏季に休眠します。

休眠について

一般に昆虫が休眠するのは生育に適さない環境に耐えて、生存するための適応と考えられています。そのため、一般的な休眠期間といえる冬季以外、夏の暑い時期を休眠で過ごす個体もいるというわけです。

多くの害虫は決まった発育状態で冬を越すことから、害虫が発生する時期というのは毎年ほぼ一定です(なお、害虫には1年に1世代を過ごすものもいれば、2世代あるいはそれ以上繰り返すもの、1世代に2年以上要するものなどがあります)。

ただし、年ごとに気温などの気象条件に若干の変動があるため、発生時期は年によって若干のズレがあります。このことは害虫の防除時期を決定するには重要な要素であるため、国や県などが休眠の状態や気象条件などを参考に発生時期を予測しています。公的機関のデータは、害虫防除に大変便利ですので、積極的に活用してください。

 

 

害虫と害虫が加害する植物の関係

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害虫が発生しやすい環境を避けることも害虫予防には最適ですが、害虫の食性を知っておくことも有効です。害虫は種類によって好む植物が決まっています。たとえば、マメシンクイガやトビイロウンカなどは「単食性」と呼ばれ、1種類の植物だけを加害します。マメシンクイガの加害植物はダイズ、トビイロウンカの場合はイネです。

「狭食性」と呼ばれる食性は、特定の1つの科の植物だけを加害します。アブラナ科を好む代表的なものには、コナガやアオムシ(モンシロチョウ)、ミカン科を好むアゲハなどがあげられます。

上記の害虫は、特定の植物に害を与えるものですが、残念なことに「広食性」と呼ばれる、多くの科の植物を加害する害虫は少なくありません。たとえばヨトウムシ類は20科80種以上の植物に害を与えます。

 

参考文献

  • 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』p.15〜16
    (農文協、2022年)
  • 日本植物防疫協会編『農薬概説2021』p.212〜(日本植物防疫協会、2021年)

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