コナガはキャベツやダイコン、ハクサイなどのアブラナ科の作物に深刻な影響を与えることで知られている害虫です。またコナガは薬剤に対する抵抗性を持つことが多く、農薬の効果が薄れてしまうことから防除が難しくなりつつある害虫としても知られています。
本記事では、農業害虫であるコナガの生態や発生しやすい条件、効果的な対策方法についてご紹介していきます。
コナガによる被害とコナガの生態について
被害の様子
コナガの食害に遭うと、作物の葉に食害痕が現れます。初期の幼虫は葉肉の内部を食べるため、食害痕ははじめ、不規則な白斑として現れます。幼虫が成長すると、葉の裏側から葉脈を残して葉を食べていくため、食害が深刻化すると葉脈のみが残るようになります。
この食害は作物の成長の遅れや品質低下につながります。特に収穫時に結球したハクサイの内部に幼虫が入り込むと、商品価値が大きく下がります。葉苗に被害が及ぶと、枯死することもあります。
コナガの生態
コナガはチョウ目コナガ科に属し、体長は約6〜10mmほど。成虫は昼間、主に葉裏でじっとしていることが多く、発生圃場の畝間を歩くなどして作物に刺激が与えられると短距離を不規則に飛翔します。成虫は約100〜200個の卵を産みつけます。この際、アブラナ科作物の健全株ではなく食害株に多くの卵が産みつけられます。
葉に産みつけられた卵は直径0.5mm程度の楕円形で、幼虫は孵化すると、先述した通り、葉肉の内部を食害し、成長するにつれて葉裏へ移動していきます。そして葉脈を残しながら食害を進めます。農作物の被害箇所は透明な膜状に見えます。
幼虫期間は4齢まであり、体長は最大で10mmほど。1齢幼虫は頭部が黒く、胸腹部は淡褐色をしています。2齢幼虫は頭部が黒いままですが、胸腹部は個体によって淡褐色〜淡緑色となります。3齢以降になると頭部が褐色になり、胸腹部は淡緑~黄緑色に変化します。
幼虫は2齢以降になると葉裏に定着し、蛹は主に葉裏で紡錘形で網目状の繭を作ります。
なお、コナガの幼虫は特徴的な行動を取るため、他のチョウ目の幼虫と識別できます。その行動とは、直接触れる・植物を揺らすなどの刺激を与えた際に、身体をS字状にくねらせて後ずさりし、葉の縁などから糸を垂らしてぶら下がるといった行動です。
発生しやすい条件
コナガは温暖な気候を好みます。最適な生育温度は22.5℃〜27.5℃とされており、気温が30℃を超えると死亡率が高くなります。そのため発生のピークは春と秋です。1回目のピークは4月頃から発生量が増えた後の5〜6月頃、2回目のピークは夏が過ぎ、再び発生量が増す10〜11月頃です。冬場は低温により発生が少なくなるものの、温暖な地域では冬でも発生することがあるため、通年で防除対策が求められます。
降水量や気温も影響を与えます。降雨が多い場合には、卵や幼虫が流されるため発生が抑制されます。その一方で、雨の少ない時期には発生が多くなる傾向があります。
コナガの発生要因には、気流を利用した長距離移動もあげられます。自力での移動能力が低いコナガですが、髙篠賢二『コナガの発生生態と防除』(植物防疫第73巻12月号 p.43〜48、2019年)に以下の記述があります。
(前略)コナガが長距離移動を行うことはカナダや英国で古くから報告されている。コナガは気流を利用して長距離移動をしており、我が国では中国大陸長江下流域に発生した低気圧に伴う前線が特定のルートで北日本を通過した直後や台風の通過直後に長距離移動に由来すると思われる飛来が認められている。
引用元:髙篠賢二『コナガの発生生態と防除』p.46(植物防疫第73巻12月号、2019年)
コナガの防除策
まず、コナガは非常に発育が早く、繁殖力も旺盛なため、発生初期に対策を講じることが重要です。特に幼苗は被害を受けやすいため、予防的に薬剤を散布することが推奨されます。また関東以西の地域では、冬季でもコナガが発生するため、冬期にも防除を行う必要があります。毎年多発生する地域では播種や定植時に粒剤を施用することが効果的とされています。
薬剤のローテーション散布
予防的な薬剤散布が推奨されていますが、コナガは薬剤に対する抵抗性を持つことが多いため、同一系統の薬剤を繰り返し使用することは避けてください。薬剤使用時には、作用機構が異なる薬剤をローテーションで使用することが重要です。
また、繁殖力が旺盛なコナガに対抗するために、コナガの発生が盛んな時期には、薬剤散布を7~10日ごとに行うことが推奨されています。
性フェロモン剤の活用
栽培面積が広い場合には、性フェロモン剤の利用も有効な防除策としてあげられます。
性フェロモン剤(交信かく乱剤)は、化学合成された性フェロモン剤を空気中に蒸散させることで、雄と雌の間で行われる性フェロモンによる交信を見出して交尾を阻害し、繁殖を抑制、次世代の発生を減少させるものです。効果を高めるためにも、発生初期に使用することが大切です。
この方法は効果の持続が比較的長いこと、安全性が高いこと(人畜に対する毒性が低い)が長所としてあげられます。
一方で、周囲から圃場へと飛来してきたすでに交尾を行っている雌には有効ではない点に注意が必要です。すでに交尾を行っている雌の飛来を防ぐためには、広範囲にわたって一斉に性フェロモン剤を使用することがポイントです。そのため、複数の生産者が協力して同じ時期に性フェロモン剤を使用し、地域全体のコナガ被害の減少につなげることも大切です。
また、性フェロモン剤は空気より重く、傾斜地では下方に流れやすいため、濃度ムラが生じやすいです。傾斜地で利用する場合には高所に多めに設置してください。濃度を一定に保ちにくい急勾配な場所や風の強い地帯では使用を控えます。
物理的防除
施設栽培などでは、防虫ネットを使用することでコナガの成虫が施設内に侵入するのを防ぐことができます。コナガ成虫の侵入を防ぐには、1mm目合いのネットを使用します。施設栽培では、1mm目合いのネットで開口部を覆うことが有効です。
ただし、幼虫は0.4mm目合いでも通過してしまうことが分かっているため、幼虫の侵入には注意が必要です。
微生物農薬と天敵の利用
コナガに対応する微生物農薬や天敵を活用する方法もあります。
コナガに登録のある微生物農薬には、ボーベリア・バシアーナと呼ばれる昆虫病原糸状菌が市販されています。糸状菌のため、ある程度の湿度が必要であること、紫外線の影響を受けやすいことが注意点としてあげられます。安定した効果を得るために、夕方や曇天・雨天時に使用してください。
コナガの天敵にはコマユバチやクモ類、ゴミムシ類などの捕食者があげられます。一番活用しやすいのは水田や畑など圃場の内部や周辺に生息している「土着天敵」で、クモ類、ゴミムシ類、ハサミムシ類、アリ類、鳥類などの捕食者のほか、寄生蜂や寄生蝿、糸状菌や細菌などの微生物があげられます。土着天敵を保護し、利用するためには、土着天敵に悪影響の少ない殺虫剤を選択的に使用することや、土着天敵が棲息する環境を整えることが求められます。
天敵を呼び寄せるための誘引剤(天敵誘引剤)の使用も有効です。たとえばコナガに加害されたキャベツは特有のにおいを出し、コナガの天敵であるコナガサムライコマユバチを誘引することが知られています。天敵誘引剤はこの特有のにおいを再現することで、天敵を誘引するというものです。
総合的病害虫管理(IPM)に取り組む
コナガは繁殖力が旺盛な害虫のため、早期発見と迅速な対応が求められます。しかし薬剤抵抗性を持ちやすいことから防除が難しくなりつつある害虫でもあります。
そのため、コナガの防除には、化学的防除、物理的防除、生物的防除を組み合わせた総合的病害虫管理(IPM)が効果的といえます。先述したさまざまな防除策、薬剤散布だけでなく、性フェロモン剤を活用したり、防虫ネットを設置したり、天敵を利用するなど、さまざまな手段を適切に組み合わせて防除を行ってください。
総合的な防除策に取り組めば、コナガによる被害を抑えるだけでなく、環境負荷を最小限に抑えることができます。
参照サイト
- コナガの発生生態と防除
- コナガの発生生態と防除薬剤 | シンジェンタジャパン|Syngenta Japan
- 病害虫図鑑 コナガ(野菜共通) – あいち病害虫情報 – 愛知県
- 葉洋菜類(キャベツ・レタス)における 交信かく乱剤(コナガコン-プラス)利用による 減化学農薬栽培マニュアル
- 施設栽培コマツナのコナガの防除対策
- 施設栽培コマツナの重要害虫コナガの緊急防除対策
- 植物が発する「におい」で、害虫の天敵をおびき寄せる驚異の防除技術。
(2024年12月9日閲覧)