アブラナ科に発生しやすい「害虫」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】

アブラナ科に発生しやすい「害虫」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】

アブラナ科の作物であるキャベツ、ハクサイ、ダイコンにおける害虫の発生は作物の成長を妨げ、場合によっては収穫に甚大な影響を及ぼします。本記事では、アブラナ科作物に発生しやすい主要な害虫とその被害、発生時期、対策について解説していきます。

 

 

アブラナ科作物に発生しやすい代表的な害虫

アブラナ科に発生しやすい「害虫」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】|画像1

 

アブラナ科の作物に共通して発生する害虫として代表的なものは以下の通りです。

  • アオムシ
  • アブラムシ
  • コナガ
  • コナジラミ
  • ナメクジ
  • カタツムリ
  • ネキリムシ
  • ハダニ
  • ヨトウムシ
  • エカキムシ(ハモグリバエ・ハモグリガ等)
  • アザミウマ類

前編ではアオムシからカタツムリ、後編ではネキリムシからアザミウマ類の特徴や発生要因、防除方法について詳しくまとめます。

 

 

害虫の特徴、発生要因、防除方法

アブラナ科に発生しやすい「害虫」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】|画像2

(画像はアオムシ)

 

アオムシ

アブラナ科野菜に対する主要な害虫の一つで、春と秋に発生が多く、夏の高温期には個体数が減少する傾向があるものの、秋には再び増加します。暖地では年間7〜8回、寒地では2〜3回の発生サイクルが見られます。秋に幼虫や蛹の状態で越冬したものは、翌春の発生源となります。

アオムシの成虫であるモンシロチョウは、アブラナ科野菜に産卵し、孵化した幼虫が葉を食害します。若齢幼虫は摂食量が少なく目立たないものの、4齢以降の老齢幼虫は摂食量が急増し、大きな被害をもたらします。彼らは終齢幼虫になると植物や枯れ草に固定して蛹になり、やがて成虫へと変態します。

アオムシの防除には、天敵の活用と適切な農薬の使用が推奨されます。

アオムシの天敵にはクモ類、ゴミムシ類、テントウムシなどがいます。これらの天敵を守るため、選択性の高い殺虫剤やBT剤(Bacillus thuringiensis製剤)を使用することが効果的です。薬剤としては、ジアミド系の殺虫剤が推奨されており、これらは約3週間の残効が期待されています。定植期から生育初期にかけて適切な時期に薬剤を使用することが重要です。

また、キャベツやハクサイなどのアブラナ科野菜を栽培しない期間を設け、アオムシの繁殖を防いだり、畑の周囲にトウモロコシなど背の高い作物を植えることでモンシロチョウの飛来を防いだりする方法も有効です。

アブラムシ

アブラナ科に発生しやすい「害虫」とその対策(キャベツ、ハクサイ、ダイコン)【前編】|画像3

 

春から秋にかけて発生する微小害虫で、活動が盛んな時期は4月から11月です。盛夏には雑草などに発生することが多くなります。

アブラムシは新芽や茎、若い葉、花に吸汁加害し、植物の成長を著しく阻害します。また、多くのウイルス病を媒介するため、発生時の管理が非常に重要です。

アブラムシは、早春に越冬卵から孵化し、最初に発生する雌虫が胎生で繁殖を続けます。秋までの期間は胎生雌虫のみが繁殖し続けますが、秋には雄虫も出現し、雌虫と交尾した後、卵が産まれます。これらの卵は越冬します。

アブラムシの防除にあたっては、作物への被害だけでなく、ウイルス病の媒介を防ぐためにも、早期発見と適切な対策が欠かせません。

防除には、防虫ネットや適切な農薬の使用が有効です。育苗期や播種後には防虫ネットで作物を覆い、飛来侵入を防ぎます。露地栽培では、うねにシルバーポリフィルムを用いたマルチングを行うと、一定の効果が得られますが、茎葉が繁茂してくると効果が低下するので注意が必要です。ハウス栽培では、入口や開口部にも防虫ネットを設置するのがおすすめです。

薬剤としてはジアミド系の殺虫剤が推奨されています。適切な時期に薬剤を使用し、発生を抑えます。また、他の害虫と共に防除するため、育苗期後半から定植時に対処することが効果的です。

コナガ

コナガは、キャベツやハクサイ、ダイコンなどのアブラナ科の植物や、ナズナやイヌガラシなどのアブラナ科の雑草に寄生します。葉の裏に卵を産み、孵化した幼虫は葉の中に潜り込んで葉肉を食害します。成長すると葉裏から表皮を残して食害し、被害が拡大すると葉脈を残してすべてを食べられてしまいます。

特に若い葉を好むコナガの幼虫は特有の食害痕を残します。不規則な白斑や半透明の斑点、葉脈のみを残した「スケルトン状」の食害痕が特徴です。

成虫は小型の蛾で、主にアブラナ科の植物に卵を産みつけます。発生時期は夏まき栽培の7~9月にかけてが多く、温暖な気候条件で特に発生しやすくなります。温暖地では年に数回発生し、繁殖力が強いために、気温が高い時期に爆発的に個体数が増えることがあります。また、他の害虫と同様に、過剰な窒素肥料の使用や密植など、栽培環境が悪化すると発生リスクが高まります。

コナガの防除には、予防的対策と適切な農薬の使用が求められます。まず、栽培初期には防虫ネットを使用して成虫の侵入を防ぐことが有効です。また、広域で発生が見られる場合には、性フェロモン剤の設置によって、成虫の交尾を撹乱し、繁殖を抑える方法もあります。

薬剤防除としては、ジアミド系の殺虫剤が推奨されています。幼虫が発生した初期段階で適切な散布を行うことが、被害拡大の防止につながります。ただし、コナガは様々な系統の薬剤に抵抗性を獲得していることから、薬剤防除のみに頼らない総合的な管理が必要になります。

コナジラミ

コナジラミは、葉の裏に付着して吸汁する害虫で、吸汁を行うことで作物の成長を阻害します。吸汁によって葉がしおれるほか、すす病を引き起こす排泄物が蓄積し、果実や葉の表面が汚れることがあります。

冬季は野外での活動が停止しますが、温室内では年間を通じて発生し、夏季には露地栽培でも発生が見られます。特に気温が上がると発生周期が短くなり、例えば24℃では卵から成虫になるまで約22日と非常に短いサイクルで成長します。

防除方法には、まず物理的な対策として、黄色に引き寄せられる性質を利用して、黄色粘着トラップを設置し、成虫を捕殺します。また、ハウス内では天敵であるオンシツツヤコバチを放飼して、コナジラミを自然に抑制する生物的防除も有効です。

さらに、適用薬剤を散布する際には、葉裏を中心にむらなく処理することが大切です。特に幼虫は2齢以降、葉裏などに固着して生活し、羽化するまで動きません。幼虫が固着している葉裏にかけむらのないよう丁寧に散布するのがポイントです。

ただし、コナジラミは様々な殺虫剤に対して抵抗性を発達させているため、化学農薬のみの防除が難しくなってきています。先述した防虫ネットの使用や生物的防除、圃場周辺の除草などの耕種的防除も重要です。

関連記事:コナジラミの生態と農作物への被害、対策方法について

ナメクジ

ナメクジの一種であるチャコウラナメクジは主に葉菜類に被害を与える害虫で、湿潤な環境を好み、特に梅雨期の6〜7月と秋に発生が増加します。また、頻繁な灌水や排水不良はナメクジの活動を促進してしまいます。

ナメクジ類の成体は土壌や作物の残渣、鉢の底などで越冬し、春から秋にかけて活動します。生育に適した温度帯が15〜25℃で、ハウス内では冬季にも活動することがあります。

葉裏から表皮を残して食害するほか、新芽や花蕾も食べてしまいます。チャコウラナメクジのアブラナ科における食害は後述するヨトウムシ類による被害と似た様相を呈します。またチャコウラナメクジは作物表面に銀色の粘着物や黒い排泄物を残すため、見た目にも大きな被害をもたらします。

防除方法としては、畑や庭の排水を良好に保ち、土壌を乾燥させることが基本です。また、ナメクジ類は夜間に活発に動くため、物理的な対策として夜間に手作業で捕殺することが有効です。さらに、ナメクジの常発地ではメタアルデヒド剤の散布が効果的な抑制につながります。ただし、散布の際には作物や環境に与える影響も考慮する必要があります。

カタツムリ

カタツムリの一種であるウスカワマイマイは、ヤスリ状の歯舌を使って、作物の葉や茎を削り取るように食害します。その際、穴の開いた食害痕の周囲に光る粘液が被害の特徴として知られています。

ウスカワマイマイはアブラナ科の作物だけでなく、花卉類や果樹類も広く食害するため、農業において重大な害虫とされています。早春から繁殖を開始し、春と秋に産卵します。特に5月頃から幼貝の発生が見られ、半年ほどで成体に成長します。また、幼体や成体で越冬するため、年間を通じて発生が見られます。

防除対策としては、5~6月に発生する幼貝への注意が必要です。圃場や苗床への侵入を防ぐために、落ち葉や雑草を取り除き、管理を徹底することが重要です。ウスカワマイマイは夜行性で、日中は落ち葉や隠れ場所に潜むため、ウスカワマイマイが潜む場所を減らすことが効果的です。また、湿らせたダンボールなどのトラップを設置して捕殺することも有効です。大量発生時には、薬剤を使った防除も効果的です。

 

参考文献

  1. 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)
  2. 夏秋啓子『植物病理学の基礎』(農山漁村文化協会、2020年)

参照サイト

(2024年11月8日閲覧)

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