イノシシやシカによる食害を避けるための対策は色々ありますが、イノシシやシカが食べない野菜はあるのでしょうか。狙われない、狙われにくい食べ物を利用して、鳥獣害を防ぐことはできるのでしょうか。
イノシシが苦手な食べ物は……
イノシシの被害に遭いにくい植物にはトウガラシやシソなどが挙げられます。ピーマンも「あまり好きではない」植物だとされています。
とはいえ、トウガラシやシソ、ピーマンなどは、イノシシが「苦手な」食べ物ではありません。イノシシはこれらの野菜をエサと認識していないだけで、それらの野菜を無視して畑に入り、他の農作物を食べてしまう可能性はあります。
そもそもイノシシは雑食性であり、人が食べるものはほぼすべて食べるといわれています。イノシシは、ドングリなどの堅果類やタケノコ、果樹、草木やその根、生ゴミなどをエサとして認識します。もちろん農作物も含まれます。
では、イノシシが食べない野菜で獣害を防ぐことはできないのでしょうか。
先で述べたように、被害に遭いにくい植物をエサと認識せず、畑に入ってきてしまう可能性があるので過信することはできません。ですが、食害に遭いにくくなる畑づくりにイノシシが好んで食さない植物を役立てることはできます。
イノシシは畑に侵入するかどうかの最初の判断材料を視覚情報に頼っています。外側に好物が植えられている畑とあまり好きではない作物が植えられている畑では、被害の大きさが異なります。そこで作付けする際、畑の外側にイノシシの被害に遭いにくい作物を植え、内側に被害に遭いやすい作物を植えます。外側に植えたイノシシが好まない作物が目隠しの役目を果たします。
よりいっそう獣害に強い畑にするのであれば、電気柵などで畑を囲うとさらに効果的です。
シカの場合。シカの驚異的な一面とは。
シカは1,000種類以上の植物を幅広く食べることができると言われており、イネ科の草本やササ、木の葉、どんぐりなどを食べます。植物が少ない冬の季節になると、枝や樹皮、落ち葉を食べます。
シカの食性について調べていたところ、驚異的な一面を知ることになりました。シカは植物が少ない冬には、好まない植物を食べて生き延びているといいます。
兵庫県立大学、国立環境研究所、森林総合研究所、京都大学の研究グループがシカの糞の遺伝情報から、森林に生息するシカの食べる植物が季節によって異なることを明らかにしています。この研究によると、夏から秋にかけてはシカが好む落葉広葉樹(落枝落葉など)を食べていますが、冬から春にかけてはあまり好まない常緑樹(スギなど)や草本植物を食べる割合が増加するのだとか。
またシカの数が増え、採食圧(動物が植物を食べる強度)が高まることで植生が変化すると、それまで食べてこなかった植物まで食べるようになるといいます。
シカがあまり食べない、好まない植物はあります。神奈川県自然環境保全センターは「シカ不嗜好性植物図鑑」を公開しています。この図鑑には不嗜好性植物について“シカが全く採食しない、あるいは採食したとしても他の植物よりも相対的に採食の頻度が少ない種(引用元:シカ不嗜好性植物図鑑)”がとありますが、そこでも“地域によって、あるいは季節によって高頻度に採食されることもある”と書かれています。
ニホンジカの場合、香りの強い作物を嫌う傾向があるとされ、トウガラシやシソ、ショウガ、ニンニクなどは狙われにくく、エゴマ、サトイモ、ニガウリなどもあまり好みません。ですが、イノシシと同様にこれらの作物はシカに狙われにくいだけなので、その近くに好物となるエサがあれば畑に侵入されてしまいます。
イノシシ同様、狙われにくい野菜や不嗜好性植物を狙われやすい野菜の周辺に植えて、近づきにくくするのが効果的です。
狙われにくい野菜や柵を利用して、農作物を発見されないようにする
野生動物ごとに特性は異なるものの、野生動物の食害から田畑を守るためには、イノシシやシカなどの動物から、農作物をエサとして認識されないことが重要です。
先で紹介した「狙われにくい野菜を外側に植え、狙われやすい野菜を内側に植える」という方法を用いることで、野生動物から農作物を発見されるリスクを低くすることができます。
そしてもちろん、彼らのエサとなりうるものを田畑周辺から取り除くことも重要です。畑に生える雑草や収穫残渣なども野生動物のエサになるので、そのまま放置するのはNG。定期的に雑草を刈ったり、収穫残渣はそのままにせず、田畑以外の場所で処分したりするなど、野生動物に対して「農地はエサ場ではない」と示すことが大切です。
参考文献