本記事では害獣サル(ニホンザル)に着目。サルから農作物を守るために知っておきたい効果的な対策方法についてご紹介していきます。
サル対策は簡単?難しい?
江口祐輔『動物の行動から考える 決定版 農作物を守る鳥獣害対策』(2018年、誠文堂新光社)(以下、『農作物を守る鳥獣害対策』)によると、サルが目撃される地域一丸となって「追い払い」を実施できれば、イノシシやシカへの対策より簡単とのこと。その理由はサルの行動に関係しています。以下にサルとイノシシやシカの行動の違いをまとめます。
サル |
イノシシやシカ |
基本的に夜間は活動しない | 昼夜問わず、人の気配がなければ農地へ侵入する |
生活範囲となるエリアを移動しながらエサを求めるため、農地に来る頻度が少ない(週または月に1回ほど) | 目星をつけた農地には毎日のようにエサを求めてやってくる |
サル対策は、サルが農地にやってくる頻度が少ないのを利用して対策を練りやすく、夜間の対策を練る必要はないので、この観点からはイノシシやシカ対策より少し気が楽になるといえます。
サルの意外な一面
「サルは木登りが得意」「サルは賢い」といったイメージがあるかと思います。実際に木登りやジャンプを得意とし、高い学習能力もありますが、私たちが思っている以上「ではない」のも事実。そんな意外な一面をご紹介します。
1つ目は木を登る能力について。イメージ通り木登りは得意ですが、ある条件下では登れなくなることもあります。まず、サルが腕を回せないような太い樹木はサルにとって登りにくいものになります。もちろんサルの中には、樹皮に爪を引っ掛けてなんとか登ろうとする個体もありますが、農業資材でおなじみの塩ビ管など、爪をたてて登ることができない素材になると、サルは登れなくなります。
2つ目は学習能力について。『農作物を守る鳥獣害対策』によると、イノシシやサルを対象とした実験で、イノシシやサルを「ネットをめくりあげればエサがとれる」状況下におくと、イノシシのほうがサルより早くエサを取ることができました。私たちが思っている以上に、サルには「ネットをめくりあげる」発想が思い浮かばないとのこと。ただし、サルは好奇心旺盛な生き物のため、何回でも挑戦を繰り返します。そのうちに偶然成功することもあります。このことをふまえると「何回も挑戦できるような環境をつくらないこと」がサル対策には重要だとわかります。
効果的な対策はとにかく「追い払い」
「追い払い」は、サルに農地や人里は「危険な場所」であると覚えさせるのに効果的です。
ただし、以下の方法ではあまり効果が出ません。
- サルが農作物を食べている時だけ追い払う(農作物以外のものを食べている時には追い払わない)
- 自分の農地に現れた時にだけ追い払う(他の農地に現れた時は追い払わない)
- 追い払う人が決まっている
このような追い払いは、
- 被害に遭った人たちが各自バラバラに追い払う
- 「被害に遭ってから」追い払いが行われる
ことになります。そうなると、サルは人に追われはするでしょうが、エサ場を移動しながらエサを得ることができてしまうので、被害を抑えることにはつながりません。
集団での追い払いに成功している、三重県伊賀市の下阿波地区の事例を見てみます。効果的な追い払いの手順は以下の通りです。
- サルを見つけたら花火などを使って周囲に知らせる
- 1.により追い払いが始まったことに気づいた地域住民が集まり、追い払いに協力する
- 2.で集まった人の一部は、サルが集落を出ていくまで、群れを後ろから追い立てる。この際、サルが侵入してきた方向から追い返すのではなく、流れに逆らわないのがポイント
このように集団で追い払うことで、他の農地が被害に遭う前に追い払うことができる上、個人ではなく組織的に追い払いを行うことで、サルが人を「危険」だと認識するようになります。これを繰り返していくうちに、サルは人を見るだけで逃げるようになったとあります。
犬による追い払いも効果的です。サルを追い払う専門訓練を受けた犬は「モンキードッグ」となり、追い払いを行います。
参考文献
- 農作物被害状況:農林水産省
- 【改訂版】野生鳥獣被害防止マニュアルイノシシ・シカ・サル実践編
- 獣害対策にモンキードッグ 「犬猿の仲」効果 長野|日本経済新聞
- 江口祐輔『動物の行動から考える 決定版 農作物を守る鳥獣害対策』(2018年、誠文堂新光社)