農林水産省が公開した全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和3年度)によると、約155億円もの被害が生じています。同資料によれば、被害金額は前年度に比べ約5.9億円減少しており、全国の野生鳥獣による農作物被害自体、平成22年度からは減少傾向にあることが記されています。
とはいえ、農業を行う以上、野生鳥獣による農作物被害への対策を行わないわけにはいきません。一般的な鳥獣害対策として、侵入防止柵などハード面での対策があげられます。これらの対策は野生鳥獣が農地に侵入するのを防ぐのに一定の効果を発揮するものの、一度設置するだけで永続的な効果が得られるわけではなく、また設置や管理には費用がかかります。
そこで本記事でご紹介したいのが、圃場そのものに野生鳥獣を近寄らせないための対策です。
圃場に野生鳥獣が近づく原因を知る
野生鳥獣は基本的に臆病な生き物で、人を恐れます。しかし野生鳥獣はエサを求めて、人里へおりてくることがあります。その際、人から身を守りやすく、エサが豊富な場所があれば、野生鳥獣はその場所に定着してしまいます。圃場がその場所になってしまうと、野生鳥獣は農作物へ被害を及ぼす存在になってしまいます。
本記事のタイトルにもあるように「圃場周辺の環境」に焦点を絞った場合、圃場に野生鳥獣が近づく原因は大きく2つに分けられます。
1つは、何気なく放置した農作物の収穫残渣や収穫後のイネのひこばえ、収穫しないままの果実などが野生鳥獣のエサになっていること、もう1つは、圃場周辺に雑草や草木が生い茂っていることで、そこが動物の隠れ場所や人に姿をさらすことなく農地へ侵入できる環境になっていることがあげられます。
では、どうすべきか
1つ目の原因を解消するには、圃場を野生鳥獣のエサ場にしないことが重要です。収穫残渣やひこばえを放置しないこと、また収穫されないまま放任されている果樹は可能ならば伐採することがおすすめです。農林水産省が公開するウェブマガジン「aff(あふ)」の2022年1月号で特集として取り上げられていた山形県米沢市の事例では、伐採できない木に関しては鳥獣対策として果実を収穫し、地域の子どもたちと干し柿に加工して、周辺住民に配布するといった地域活動へとつなげています。
2つ目の原因を解消するには、野生鳥獣が圃場に侵入しにくくなるよう、農地に接する山林・人工林を疎植したり伐採したり、圃場周辺の雑草を刈払いすることで、見通しの良い環境へと変化させること(緩衝地帯の設置)が効果的です。緩衝地帯を設置すると、その後、草刈りなどの維持管理が必要になりますが、省力的に管理を行う方法の一つとして、ヒツジやヤギといった家畜動物の放牧があげられます。
総合的な対策で被害を抑える
本記事では主として、圃場そのものに野生鳥獣を近寄らせないための対策を取り上げましたが、鳥獣による農作物被害を防止するには以下の3つの方法を総合的に行うことが重要とされています。
- 被害管理:防護柵等の設置や圃場をエサ場にしない取り組みなど
- 個体(群)管理:計画的な捕獲や生息地への追い払いなど
- 生息地管理:周辺環境(里山・人工林)の整備や緩衝地帯の設置など
防護柵等を設置する場合には、正しい方法で柵が設置されているか確認しましょう。
柵を設置する際、一部分しか囲われていなかったり、柵と地面の間に隙間が空いていたりしませんか。電気柵の場合には、正しく設置、管理されていないと十分な効果が発揮されません。
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「個体(群)管理」も重要です。野生鳥獣を捕獲する対策を行う際、農作物被害の原因となっている加害個体を捕獲する必要があります。
圃場がエサ場にならないよう管理した上で、しっかりと防護柵等で守り、それでも侵入してくる個体を捕獲する、農作物への被害を減らすためにこの流れをおさえておきましょう。
参考文献