本記事では害獣イノシシに着目。イノシシから農作物を守るために知っておきたい、効果的な対策方法やイノシシの意外な一面についてご紹介していきます。
イノシシ対策でおさえておきたいポイント
どの動物においても、野生動物が田畑に侵入するのはエサを求めてのこと。また動物は山で数時間かけて小さな生き物や植物の根を食べるより、栄養価の高い食べ物が人里で簡単に得られると分かれば、人里にある食べ物を選びます。加えて、イノシシは警戒心が強いため、対策として捕獲檻を設置しても、檻を怪しむばかりで、檻の中のエサに飛びつくようなことはありません。むしろその檻の横に、すでに侵入するのに手慣れた田畑があれば、そこにある農作物に向かう可能性の方が高いです。
そこで対策として重要なことは以下の3つです。
- イノシシのエサとなっているものを取り除く
- イノシシが田畑に侵入するために潜んでいる場所をなくす
- イノシシが侵入しにくいような方法で柵を設置する
エサが見えないようにする工夫を
「エサとなっているものを取り除く」と書きました。収穫残渣などが放置されている場合には、それらを取り除く場合がありますが、エサとして認識されているとはいえ、農作物を取り除くわけにはいきませんよね。
そこで実践していただきたいのが「見えなくする」です。
イノシシは嗅覚に優れた生き物ですが、意外にも、しっかりと目視でエサを確認しています。そこで田畑がイノシシにとってエサ場であると認識されないよう、栽培している農作物が見えないようにします。
他の植物で農作物を囲うのも方法の一つです。畑の中央部分に農作物を植え、その周囲に他の植物を植え、外から見えなくします。この際、植える植物はトウガラシやシソ、コンニャクなど動物が好まない植物を利用します。こうすれば、イノシシの関心が田畑に向きにくくなります。
同様に、畑の周囲に設置した柵の内側を寒冷紗やトタンを用いて目隠しするのも効果的です。
イノシシが隠れやすい場所をなくす
警戒心の強いイノシシだけに限りませんが、侵入されやすい田畑の周辺には「野生動物が身を隠しやすい場所」が存在します。例えば田畑周辺の耕作放棄地や管理の行き届いていない林や薮などが挙げられます。
安心して身を隠すことができる場所があると、イノシシはそこから人の動きを観察し、人に慣れてしまいますし、人に姿を晒すことなく農地に近づけてしまいます。
そこで山から人里におりにくくなるよう、耕作放棄地や林、薮、雑草などを整備し、農地までの道のりが必ず人の目に触れるような状態にしてしまいましょう。
柵を設置する時はこんなことに注意!
イノシシはこれまた意外にもジャンプ力があります。120cmもの障害物を飛び越える個体もいます。
ですが、柵を設置する時は高さではなく「地面との接地面」にこだわることを心がけてください。
高い跳躍力をもつイノシシですが、障害物を飛び越えることには足にケガを負うリスクが伴います。足にケガを負うことは、敵から逃げられなくなるなど命にかかわる状況につながるので、跳ばなければならない状況に追い込まれない限りは、基本的に跳びません。
それよりも地面を掘り、柵の下から侵入しようとする可能性の方が圧倒的に高いです。
イノシシが鼻や頭を使って物を押し上げる強さは70kgにも達するといわれています。設置した柵の高さばかり気にして、柵が簡単に揺り動かせるようだと、イノシシは柵と地面の下をこじ開けて田畑に侵入してしまいます。
そこで
- 柵と地面との隙間をなくす
- 柵と地面の接地面に長い棒状の資材(竹やビニールハウスの支柱など)を固定して、イノシシが柵を押し曲げることができないようにする
- イノシシが鼻や頭で押し上げにくくなるよう、杭を作物側に向かって斜めに打ち込む
などの方法が効果的です。
注意!実はあまり効果がないイノシシ対策
優れた嗅覚をもつイノシシへの対策として忌避剤が挙げられます。確かに忌避剤を撒いた直後はイノシシが田畑に侵入しなくなることがあるのですが、実はその臭いを嫌っていなくなっているわけではありません。今まで臭いがしなかった場所に強い臭いが生じたことに警戒し、様子を見ているだけ。そのため、忌避剤を撒いた後にイノシシの安全を脅かすようなことがその場に起きなければ、イノシシはその場に戻ってきてしまいます。
忌避剤は一時的な抑制には効果的ですが、長期的な対策とはいえません。忌避剤を撒いた後、先で紹介したような対策を組み合わせ、イノシシが近づかない環境をつくりましょう。
イノシシに特性をもっと知りたい人は
イノシシの特性は科学情報番組『サイエンスZERO』(NHK総合)でも特集されていました。
NHKオンデマンド|サイエンスZERO「“害獣”イノシシ研究最前線 科学の力で共生の道を」
『サイエンスZERO』にゲストとして登場した麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科教授・江口祐輔氏の著書『イノシシから田畑を守る―おもしろ生態とかしこい防ぎ方』(2003年、農山漁村文化協会)、『動物の行動から考える 決定版 農作物を守る鳥獣害対策』(2018年、誠文堂新光社)もおすすめです。
参考文献
- 江口祐輔編著『動物の行動から考える 決定版 農作物を守る鳥獣害対策』(2018年、誠文堂新光社)
- 知っておくべき 獣害対策の基本 – 農林水産省
- 【改訂版】野生鳥獣被害防止マニュアルイノシシ・シカ・サル実践編
- イノシシ対策〜敵を知って対策を考える〜|岡山市