本記事では害獣クマ(ツキノワグマ)に着目。クマから農作物を守るために知っておきたい、クマの特徴的な行動や効果的な対策方法についてご紹介していきます。
実はあまり効果がない対策!?
効果がないわけではありませんが、その効果を過信してはならないのが「熊鈴」です。
登山やキャンプなどでも利用される熊よけアイテムの1つで、音を出すことで熊に自分の位置、人間の存在を知らせるというもの。熊と遭遇する確率を下げてくれるアイテムではありますが、鈴の音を聞いて熊が逃げていく、と考えるのは危険です。
鈴の音がしている時、臆病な生き物である熊は、逃げるのではなくその場に潜み、鈴の音が遠ざかるのを待ちます。そのため、熊鈴の効果を過信すると、潜んでいる熊と遭遇する確率が高くなります。
熊鈴を携帯して行動することを強くオススメしますが、クマと遭遇しないためには以下の点にも注意してください。
- クマの活動が盛んになる朝夕(人間が寝静まる時間帯)は山に入らない
- 子グマを見かけたら、その場をそっと立ち去る
- クマのいる山中では単独行動を避ける
ワナが逆効果に!?
クマの中には、イノシシ用の箱ワナに入り、エサだけ取っていくクマがいます。これらのクマのことを「トラップハッピー」と呼ぶのだとか。クマはイノシシ用の箱ワナから逃げることができます。そのため、エサが設置されている箱ワナの中に入り、エサだけ取って脱出することが可能に。クマに餌付けしているのと同じです。この場合には、箱ワナを取り除き、イノシシとクマに対する別の対策を練る必要があるといえます。
クマをひきつけるものとは
農作物の被害は果樹、トウモロコシ、飼料作物などが主です。ペットのエサが食害に遭うケースも増えています(対策については後述します)。
また有機肥料や油かす、農業機械の燃料の放置に注意してください。意外に思われるかもしれませんが、クマは油の匂いに誘引されます。油かすや有機肥料を保管している納屋にクマが侵入し、荒らした事例があります。農業機械を動かすのに利用されるガソリンや混合油も、エサと見なしているわけではありませんが、誘引されます。
それからハチミツへの執着は凄まじいものです。トウモロコシであれば電気柵で守れても、ハチミツとなると、クマは電気柵の下を掘って潜り込もうとしたり、木を伝って電気柵の内側に侵入しようとしたりします。電気柵に触れ、電気ショックを与えられながらも、電気柵を強行突破する個体もいるようです。
効果的なクマ対策
農作物、飼料作物の場合
電気柵が効果的です。クマは体が大きく、木登りが得意な生き物です。簡易的な柵では効果が期待できません。跳躍して柵を越える可能性は低いので、電気柵は地面からの高さが20cm、40cm、60cmの位置に張るのがおすすめです。クマに限りませんが、動物の体毛のある部位は電気を通しにくいため、体毛のない鼻先に触れさせるのがポイントです。クマが鼻で触れたり、くぐる高さに相当するため、地面からの高さ20cm、40cmは特に効果的です。
ハチミツを守る場合も電気柵が効果的ですが、先で述べたようにクマのハチミツへの執着は強いので、クマが木を伝って巣箱の元へ近寄らないよう、巣箱は周囲の樹木から離したところに設置しましょう。そして電気柵を2重、3重に設置して、守りを固めます。
クマを誘引するものの管理に注意する
ペットのエサもクマを引きつけてしまうので、クマの生息地域では屋外での給餌に注意を払いましょう。そしてエサも、油かすも肥料も燃料も管理に注意が必要です。屋外保管はおすすめできません。扉と屋根のある倉庫、屋内へ収納するようにしましょう。
燃料に引きつけられたクマが農業機械を破壊する可能性もあるので、燃料が入ったままの農業機械も屋外に放置せず、屋内に収納しましょう。
果樹へ登るのを防止する対策
木登りが得意なクマへの対策として、樹の幹にトタンを巻きつけます。クマは木に登る時、幹に爪をかけて登ります。トタンを巻きつけることで、爪が引っかからないようにします。この際、クマが立ち上がって前肢を伸ばした時の位置を意識し、トタン上部の高さが2.5m程度になるように設置してください。またトタンを幹に固定するために針金などを巻きつけてしまうと、針金に爪をかけて登ってしまう可能性が生じるので、トタンと幹の間に角材を入れ、釘やネジで打ち込んで固定する方法が推奨されています。
万が一、クマに出くわしてしまったら
出会わないようにすることが最も重要ですが、万が一出くわしてしまった場合には以下のことに注意してください。
絶対にやってはいけないこと
- 急に大声を出す
- 物を投げつける
- 背中を見せて走って逃げる
先述しましたが、クマは臆病な生き物です。クマに出くわした時、驚いて大きな声を出したり、物を投げつけたりすると、驚いたクマが興奮状態に陥り、大変危険です。またクマは視力があまりよくなく、じっとしているとこちらの存在に気づかないで近づいてきてしまうこともありますが、「動体視力」に優れています。背中を見せて走って逃げると、反射的に追いかけてくることがあります。
慌てず、冷静に対処しましょう。クマと遭遇してしまったら上記のことに注意し、クマと目が合ったら、その目を離さず、できるだけゆっくりと後退して、静かに退避します。
防御姿勢を覚えておく
万が一攻撃されてしまった時のために、防御姿勢を覚えておいてください。防御姿勢とは、首の後ろを両手で守る姿勢のことです。頭部と首部を守り、ダメージを最小限にしましょう。この際、うずくまるような姿勢をとると、クマにひっくり返される場合があるので、足を伸ばしたうつ伏せの状態でこの姿勢をとることを心がけてください。
参考文献
- クマと遭遇しないためには… もし – 富山県 朝日町
- シリーズ:クマの保護管理を考える(1)島根県 最前線の現場から|WWFジャパン
- 江口祐輔編著『動物の行動から考える 決定版 農作物を守る鳥獣害対策』(2018年、誠文堂新光社)
- 農文協編『季刊地域47号 2021年秋号』(2021年、農山漁村文化協会)