鳥獣害による農作物への被害は、農業や農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。特にシカやイノシシ、サルといった野生動物による被害が数多く報告されています。
本記事では全国の鳥獣被害の状況と、今一度知っておきたい基本的な被害対策についてご紹介していきます。
全国の鳥獣被害の状況
令和4(2022)年度の農林水産省の報告によると、全国で発生した野生鳥獣による農作物被害額は約156億円にのぼり、被害面積は約3万4千ヘクタール、被害量は約46万9千トンに達しました。
鳥獣被害の影響は農作物にとどまらず、農村地域の環境や経済に深刻な影響を及ぼします。たとえば野生動物が農作物を食害することで農業経営が困難になると、営農意欲の減退、耕作放棄や離農の増加が進む恐れがあります。また森林の下層植生が食害されると、土壌の流出や希少植物の消失など、圃場周辺、農村地域周辺の自然環境へも悪影響を及ぼします。
鳥獣の種類別にみると、全体の約7割をシカ、イノシシ、サルが占めています。
シカが最も多くの被害をもたらしており、被害額は約65億円(前年比で4億円増)、都道府県別で被害額が最も多いのは北海道です(次いで岩手県、長野県)。シカの数は平成元年度から令和4年度にかけて約9倍に増加しています。近年はほぼ横ばい状態にあるものの、その影響は依然として大きいです。
次に多いのがイノシシで、その被害額は約36億円です。イノシシによる被害額が多いのは福岡県や熊本県、広島県です。イノシシの数も平成元年度から令和4年度にかけては約4倍(中央値)と増加傾向にありましたが、平成26(2014)年度以降は大幅に減少しています。
サルによる被害額は約7億円強で、長野県や山口県で多く見られます。
鳥獣害対策の基本
鳥獣害の対策は、大きく分けて「個体群管理」、「侵入防止対策」、「生育環境管理」の3つの柱から成り立ちます。これらの対策を地域全体で徹底して実施することが、被害を減らすための鍵となります。
個体群管理
シカやイノシシなどは繁殖力が高いため、適切な捕獲を行う必要があります。そのため、被害を引き起こす野生動物の個体数を管理することが重要です。捕獲対象となる動物の種類や生息環境に応じた捕獲方法を選定し、罠や捕獲器の用意、狩猟免許を持った猟師などの協力を求めながら、地域住民や農業従事者が連携して対策に取り組むことが効果を発揮します。
侵入防止対策
柵や追い払いなど、野生動物が農作物に近づかないようにするために行います。動物を物理的に遮断する方法には電気柵やフェンスの設置があげられます。また追い払い装置や音響装置なども鳥獣が農地に近づくのを防ぐ道具として利用されています。これらの対策には定期的なメンテナンスが必要になるため、地域で協力して維持管理を行うことが重要です。
生育環境管理
農地環境全体を見直すことは、鳥獣による被害を減らすうえで最も重要といえるかもしれません。野生動物は特定の餌場や隠れ場所を求めて農地に接近します。そのため、農地周辺に緩衝帯を設け、動物が集まりにくい環境に整えることが効果的です。ヒコバエや放任果樹などを取り除くことは、動物が農地に接近する機会を減らし、被害軽減につながります。
鳥獣害対策取り組み事例について
農林水産省は「鳥獣被害対策優良事例」というウェブページを公開しています。地域ぐるみでの取組やICTを活用した取組などが公開されているので、ぜひ見てみてください。
取り組み事例には、たとえば以下のものがあげられます。
新たに開発した囲いわなによるシカの捕獲
北海道では、エゾシカによる農業被害、特に牧草地での被害が深刻化しています。非積雪期の牧草地で捕獲できるよう新しく開発された囲いわなは、従来のものに比べ捕獲実績が向上し、牧草地でのエゾシカによる被害が大幅に減少。牧草被害額の低減につながりました。
地域ぐるみで行われたニホンザル、クマ対策
青森県下北半島では、ニホンザルによる被害が深刻化していたため、地域全体が連携。地域住民とNPO法人が協力して生息調査を行い、捕獲活動を実施しました。その結果、捕獲頭数が約3倍に増加し、農作物被害額は約8割減少しました。
また岩手県北上市ではクマの出没が問題となっていました。そこで地域住民と自治体が協力し、センサーカメラを用いた出没経路の調査、クマの出没拠点となっていた河川敷の草刈りなどを実施。その結果、クマの出没が抑制されることとなりました。
関連する補助金について
なお、鳥獣害対策に対して、国や自治体からの支援があります。たとえば、「鳥獣被害防止総合対策交付金」は、農作物の鳥獣被害の防止に役立つ取り組みを支援するために設けられた補助金です。捕獲活動やジビエの利活用拡大に向けた取組などが支援されており、地域ぐるみの対策を実施する際に活用できます。
このような補助金をうまく活用することで、鳥獣害対策の負担を軽減し、効果的な防止策を講じることが可能です。
参照サイト
(2024年12月10日閲覧)