AIを駆使したスマート農業が話題になっていますが、AI技術は農作物の栽培以外にも役立つ面があります。今回ご紹介したいのは、農業従事者を悩ませる内容の一つである獣害被害に対抗すべく開発された農業アイテムです。
都市部で農業をしていると、獣害被害の影響をあまり感じない人もいるかもしれません。しかし里山に近い農地では、イノシシや鹿、熊といった動物により田畑を荒らされて困っている人も少なくありません。
食べ物を求めておりてくる動物たちを仕留める猟師の高齢化も進み、昭和53年には42万人以上いた大日本猟友会の会員数も、平成21年には11万人に減少し、減少の勢いを食い止めることも、獣害被害を食い止めることも難しい現状があります。
そこで現在注目を集めているのが、AI技術を駆使した獣害被害対策アイテムなのです。
ドローンを使った獣害対策
まず紹介したいのが、ドローンを利用した獣害対策です。東京のベンチャー企業・スカイロボットは、AIを搭載したドローンシステムを開発しました。田畑に動物が近づいてきた場合には、ドローンから動物の嫌う超音波が発せられます。
それにより直接動物が田畑に近づくことを食い止めることができるのですが、このドローンは動物の行動を観測し、行動予測を行うこともできます。
赤外線での撮影も可能なため、動物から発せられる赤外線を感知、夜間の動物の動きも把握できます。
これらの情報をデータ化することで、熱分布地図を作成し、事前に農業被害の拡大を防ぐことができます。このドローンを使って動物を傷つけずに被害を食い止めることができるため、過度に生態系を破壊しない点でも利点があります。
またドローンを使うことで、野生動物の生体調査の簡便化にもつながりました。今まではセンサーをつけた網を設置する方法をとっていたのですが、労力がかかり、かつ動物が網によって傷を負うなどの被害もありました。しかしドローンを用いれば、動物への被害と調査のためにかかっていた労力を減らすことができます。
AIを駆使した捕獲装置での対策
捕獲装置にもAI技術が搭載されています。「AI ゲートかぞえもん」という捕獲装置は、柵内に設置されたセンサーが捕獲した動物の数を数えたり、捕獲した数値をメールで通知する機能などがついています。この機能により、群れで行動する動物を一度に捕獲することが可能になった上、捕獲数がデバイスに伝達されるため、「行かないと捕獲できているかわからない」という従来の状況を回避することができます。
この装置を設置した地区では、一度に最大4頭の鹿の捕獲に成功しています。
動物を捕獲したことを伝達する捕獲装置の監視システムのランニングコスト(罠ごとに回線を用意しなければならず費用がかかるという難点があった)の問題を解決したシステムもあります。
それが「わなタグ」と呼ばれるシステムです。中継機器の回線だけで、最大20の罠の捕獲情報を把握することができるこのシステム。今までは定期的に罠を見回ることで、捕獲確認や機器の不調確認などを行う必要がありましたが、このシステムがあれば「捕獲通知」と「電池交換通知」以外では見回る必要がありません。
獣を畑から追い出すロボットも?!
はじめにドローンを使って獣を追い出す技術をご紹介しましたが、田畑に降り立ってしまった動物を追い出すために開発されたロボットも紹介します。
人ですら、その姿が目に入っただけ驚いてしまう怖い見た目をしたロボット「スーパーモンスターウルフ」から紹介します。
狼の形を模したこのロボットは、動物を赤外線センサーにより感知すると咆哮音が出ます。また目が火のように赤く点滅するため、野生動物の防衛本能を刺激し、田畑に降り立つのは危険と認識させることができます。
北海道の機械部品加工会社太田精器と北海道大学、東京農業大学が共同研究を行って作られたもので、試作段階ではLED照明が複数埋め込まれた機械でした。しかし視覚的にも防衛本能が働くようにと、かつて鹿やイノシシの天敵として君臨していた狼を模したデザインへと変わりました。
もちろんロボットらしい形状のものもあります。「国際ロボット展」で発表された試作段階のロボット「でん助」は、野生動物が農作物に近づかないように、LEDによるフラッシュや動物の嫌がる鳴き声を発すことができます。
ドーム状の頭部についたライト部分は、動物に対して光が向けられるよう回転します。また鳴き声だけでなく、空気の放出や頭部が伸びることで、動物がその場から立ち去るよう、動物を驚かせる工夫がなされています。「でん助」の発売は2018年を予定しており、ターゲットは高齢化や人手不足に悩まされている農家を対象としています。現在、田畑に降り立った動物に向かって自走し、動物の嫌がる仕掛けを発動できるよう開発が続けられています。
田畑の獣害被害ですが、もともと動物たちが田畑に降りてきてしまう原因は、私たちが野山を切り開き、生態系を壊したことが原因とも言えるでしょう。
しかし私たちが農作物を生産し供給するためには、獣害被害を無視することはできません。これら技術の普及により、獣害被害から農作物を守るための人手不足が解消され、それと同時に動物と人との、自然と人との共存について考え直す機会が生まれることを願っています。
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