スマートフードチェーンとは、「生産から加工、流通、販売、消費までの情報を連携させたフードチェーン」のこと。
サプライチェーン全体のスマート化を図ることで、農産物の生産効率の向上、流通の最適化、消費者への迅速で確かな情報提供が可能になります。スマートフードチェーンでは、生産から消費に至るまでデータの相互利用が可能となることから、流通の効率化等が期待されており、農業分野の更なる革新を促進するものとして注目されています。
スマート化が推進される背景
日本の農産物流通は、現状の市場環境に適応するための改革が急務となっています。特に、青果や鮮魚の流通において、輸入品や一部のブランド品を除いて、生鮮食品のトレーサビリティやロット管理が進んでいません。商品の追跡が困難であるなど流通過程での情報管理が不十分な状態にあり、他国と比べて遅れをとっています。
加えて、農産物流通の課題には、収穫量や季節変動による運搬量の変化、物流費の高騰などがあげられます。特に生鮮食品は傷みやすく、輸送や管理において負担が大きいため、ドライバーの作業負担が高いという問題もあげられます。
また、SDGsの観点からはフードロスの削減や供給と需要の最適化が求められています。
これらの課題を打破するためには、ICT技術を活用して流通過程を効率化する必要があります。そこで、トラックの待機時間を減らすためのスマートアプリの導入や、共同配送などの研究開発が進められています。
スマートフードチェーンが可能にするもの
スマートフードチェーンは、農業生産から消費までの過程をデジタル技術を駆使して効率化・最適化する取り組みです。その実現には、さまざまなメリットが期待されています。
高精度な予測による計画生産
スマートフードチェーンでは、AIやIoTを活用した需要予測や生産予測が行われます。過去の受発注情報、気象予報、地域イベントなどを基にした高度な需給シミュレーションにより、無駄な廃棄を防ぎ、計画的な生産が可能となります。これにより、農産物が無駄に廃棄されることなく、需要に応じた出荷が行われます。
物流の最適化
需要と供給がデータで連携されることにより、農産物の流通が効率化されます。生産者の生産量や収穫タイミングを予測することで、輸送手段やルートを最適化。これにより、輸送費の低減や環境負荷の削減が進みます。特に、IoTセンサーを活用した温度管理やトレーサビリティの強化が、農産物の鮮度保持に貢献します。
トレーサビリティと消費者への情報提供
商品に付けられた識別コードを読み取ることで、消費者は生産履歴や流通情報、品質保証に関する情報をリアルタイムで知ることができます。購入する農産物がどのような環境で生産され、どのように流通したのかを簡単に知ることができるので、消費者にとって「食の安心」につながるメリットがあります。
輸出取引の迅速化
輸出に関しては、伝票の電子化(EDI)や手続きのデジタル化によって、取引が迅速化され、輸出関連の負担が軽減されます。さらに、輸送中の情報(温度、経路等)をリアルタイムで記録し、消費者に正確な情報を提供することが可能になります。
スマートフードチェーンの事例
代表的な事例には、静岡県のスマートフードチェーンプラットフォーム「ukabis」があげられます。
「ukabis」は農産物の生産から流通、消費までをデータ連携することで、流通過程を可視化できるプラットフォームです。生産者や飲食店がSDGs認証制度の申請や認証を行うことができ、認証事業者間のマッチングも可能です。
参考文献:三輪泰史『図解よくわかるスマート農業: デジタル化が実現する儲かる農業』(日刊工業新聞社、2020年)
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