高齢化による担い手不足、後継者不足が農業分野の課題として度々取り上げられていますが、その解決策の一つとして期待されているのが、先端技術を活用する「スマート農業」です。
スマート農業によって作業が自動化されれば、人手を省くことができますし、作業の記録がデジタル化されれば、情報共有がより簡単になるので、長年の経験と勘を備えた熟練者ではない新規就農者も、積極的な生産活動が可能になります。
しかし令和3年2月上旬から3月中旬にかけて行われた「ICTを活用した農業の取組に関する意識・意向調査結果」によると、農業従事者はまだまだICTを活用しきれていないのではないか、という現状が見えてきました。
農業へのICT活用、その現状
意識・意向調査がどのように行われたのか、以下に引用文を記載します。
本調査は、令和3年2月上旬から3月中旬にかけて、ICTを活用した農業の取り組みに関する意識・意向に関して、2020年農林業センサスにおいて、農業経営を行うためのデータの活用について「データを取得して活用」と回答した認定農業者等のいる農業経営体の世帯主又は代表者2,000人を対象に実施し、1,420人から回答を得た結果である。
本記事では、農業へのICT活用にまだまだ余地があることを示す結果のみを簡潔にまとめますが、ご興味のある方はぜひ参考文献をご覧ください。
調査に回答した1,420人のうち、スマートフォンやパソコン等のデジタル機器の所有率は決して低くありません。
- 所有している 88.7%
- 所有していない 10.4%
- 無回答 0.9%
「所有している」と回答した1,260人のうち、営農する際にデジタル機器を活用していると回答した人は約7割でした。
- 活用している 73.9%
- 活用していない 25.7%
- 無回答 0.4%
しかし「営農管理の方法」についての回答結果を見てみると、
- ノートに記録(営農日誌等) 45.7%
- エクセルやワード等を用いて、自らの様式で管理 21.3%
- 農協等が一括して管理 6.5%
- 生育状況等を写真に撮って保存 5.8%
- 営農管理システムを活用 5.3%
- その他 5.8%
- 無回答 9.6%
(計1,420人)
出典元:ICTを活用した農業の取組に関する意識・意向調査結果
最も多かったのは営農日誌等を用いたノートによる管理、次にエクセルやワードなどを利用して管理する方法でした。
エクセルやワードを用いる際は、スマートフォンやパソコン等のデジタル機器を利用するといえますから、営農する際にデジタル機器を「活用している」との回答も納得です。ただ、より効率のよい営農管理を進めるためには「営農管理システムを活用(5.3%)」の増加が望まれます。
なお、営業管理システム以外で営農管理を行っている人を対象に「営農管理システムを活用する意向があるか」という問いでは
- 活用する意向がある 51.8%
- 活用する意向はない 45.8%
- 無回答 2.4%
(計1,033人)
出典元:ICTを活用した農業の取組に関する意識・意向調査結果
となり、およそ半数は活用を考えていることがわかります。ですが、「活用する意向はない」理由(複数回答)を見ると、
- 現在の方法で十分で、営農管理システムを利用する必要がない
- 営農管理システムをどのように利用すればよいかわからない
- 使い方が難しそうだから
- 利用料が高いから
などが挙げられており、営農管理システム導入へのハードルの高さも伺えます。
次に「スマート農機」に関する項目です。スマート農機とは、データに基づいて自動で制御・稼働する農業機械のことで、施設園芸で用いられる環境制御システムや既存のトラクタに設置するGPSガイダンスシステムなどが挙げられます。まさに「スマート農業」を連想させるものですが、営農へは「活用していない」という回答が大半です。
(計1,420人)
- 活用していない 84.9%
- 活用している(共同利用やレンタルを含む) 12.0%
- 自ら保有はしていないが、委託先が活用している 1.8%
- 無回答 1.2%
出典元:ICTを活用した農業の取組に関する意識・意向調査結果
IT化が進んでいないことは課題視されていない?!
上記調査結果も興味深いものですが、情報産業研究会 2018年度調査研究プロジェクトの資料によると、IT化が進んでいないことやIT導入の障壁について、稲作従事者や農業経営体、農業IT事業者の間で、考えに差が生じているとあります。
例えば「農業の課題として考えていること」について。「稲作従事者」と「農業IT事業者」にそれぞれアンケートをとったところ、以下のような結果となりました。
農業の課題として考えていること |
稲作従事者 |
農業IT事業者 |
高齢化で、以前出来ていた農作業が出来なくなっている | 85 | 83 |
高齢化などで農業をやめる人が多く、耕作放棄地が増えている | 82 | 83 |
農業のIT化が進まず、生産性が低い | 55 | 76 |
農業従事者が少なく、人手不足が深刻化している | 82 | 79 |
食料自給率が低く、常に食べ物が足りなくなるリスクがある | 63 | 68 |
担い手が不足し、食料自給率がさらに低下する可能性がある | 75 | 76 |
効率化が進んでおらず、日本産の農産物の価格が高い | 58 | 67 |
「稲作従事者」も「農業IT事業者」も共通して、人手不足の深刻化を農業の課題として強く捉えていることがわかりますが、「農業IT化が進まず〜」とIT化を進めることで期待される効率化に関する「効率化が進んでおらず〜」では大きく差が生じています。
また「IT導入の障壁と考えていること」で全体的に上位を占めたのは
- お金がない
- 費用対効果が小さい
- 経営規模が小さい
- 家族経営であるといったそもそも必要な規模にないといったものが多くなった。
といったお金や経営規模に関するものでした。
また「高齢の従事者が多い」「ITに詳しい人材が少ない」といった回答もありましたが、「法規制によって導入が難しい」といった回答は極端に少ない結果となりました。資料ではドローンや自動農機関連の法律には課題があることが記されているものの、実際の現場では法規制は壁になっていないといえます。
それでもICT活用への期待は高まる
「ICTを活用した農業の取組に関する意識・意向調査結果」やIT導入の障壁として考えられていることについてご紹介してきましたが、それでも農業へのIT導入は生産性向上に高い効果を発揮するものとして今後も普及・啓発は続けられるはずです。
人手不足の解消だけでなく、生産性が上がることにもつながりますから、収入増加などの結果も期待されます。今後上記結果がどのように変化していくのか、どのような形でIT 導入のハードルが下がるのか、農業へのICT活用がごく当たり前のものになっていくのか、期待が高まります。
参考文献