農業従事者の高齢化や後継者不足が進む中で、農作業の省力化、省人化につながると期待されているのが、AIやロボを活用したスマート農業技術です。本記事では、今後定着が期待されるAIとロボを活用して行われる選果作業の事例と、農林水産省が主導する「スマート農業実証プロジェクト」より、AIやロボに関連するプロジェクトで今後期待されることについてご紹介していきます。
AIとロボの活用で選果作業の省人化が可能に
農作物を大きさや品質別に選別する「選果」作業を行うことで、消費者のもとへ届く農作物の品質を安定させています。
従来、選果作業には人手が必要とされていますが、業界を問わず、昨今の人手不足から人手を確保するのが難しくなっています。また選果の際、農作物に衝撃を与えると、品質低下や腐敗の原因となることから、人の手で触れるなど、農作物に衝撃を与えるような要因は極力減らす必要があります。
そんな中、スマート農業技術を用いて選果が行われている事例があります。
北海道のJAふらののタマネギ選果場ではAIカメラと重量計付きロボットアームによる自動選別が行われています。AIカメラを備えた装置によって、タマネギの外部・内部の品質が判定され、問題がありそうなものが手選別ラインへと排出されます。重量計付きロボットアームは、1玉ごとの重さを正確に計量するもので、これにより1箱の重さをぶれさせずに箱詰めできます。
JAふらのでは、これらスマート農業技術に合わせて、選果場の集約化やパレットへの積み付け・収納の自動化もあって、荷役時間や作業の削減、人員を半分以上削減しています。
静岡県のJAみっかびの選果場も有名な事例です。JAみっかびのAIで選別するかんきつ選果場では、まず一次選別(腐敗したものや大きな傷があるものを取り除く)を人の目で行います。その後、AI選果機による選果が行われます。
さまざまな目的に合わせたセンサーや判定システムが搭載されており、たとえば果実内部の品質を測るセンサーでは、光の照射によって糖度と酸度が測られます。腐敗の原因となる、目視では判別が難しい小さな傷を検出するセンサーもあり、腐敗果を見逃しません。
なお、JAみっかびの選果場では、1秒あたり200個以上のミカンが判定できるとのこと。省力化、省人化に役立つ技術であることがうかがえます。JAみっかびもまた、選果機のみならず、パレットの箱積みも自動化されており、出荷体系もスムーズです。
AI・ロボ活用の成果と今後期待されること
「スマート農業実証プロジェクト」の成果事例にもAI選果機の事例が掲載されています。選果機の事例が触れられているのは露地野菜、施設野菜、果樹・茶作の項目で、やはり作業時間の削減が成果としてあげられています。
ただし、もちろん課題も指摘されています。
たとえば、施設野菜等の事例については、収穫作業同様、選果・出荷作業の削減割合が小さく、さらなる省力化技術の開発が必要とされています。またAI選果機の開発・実用化は進んでいるものの、品目が一部に限定されており、対応品目を拡大する必要性についても報告されています。
そのほか、労働力が不足していることから自動化が求められる収穫作業についても、興味深い成果と課題が示されていました。
たとえば、レタスやかぼちゃといった軟弱野菜の自動収穫機の開発が求められています。果樹の場合は、りんごやなしなどの落葉果樹は収穫ロボットの開発が行われていますが、みかんなどかんきつ類は収穫時の切断機構が複雑などの理由で難易度が高く、開発されていません。
上記のような課題をふまえると、栽培、収穫、選別、出荷など、あらゆる農作業の完全自動化はまだ先の話かもしれません。
とはいえ、新しい技術は進歩しています。
たとえば、先述ではレタスなどの軟弱野菜は自動収穫が難しいと記しましたが、イギリスではレタス収穫を自動化するロボットの開発が進められています。日本でもホウレンソウなどの軟弱野菜の自動収穫機開発が進められており、手作業でも傷つきやすいホウレンソウにほとんど傷をつけず、手作業の十数倍の速さで収穫する機械が開発されています。
参照サイト
- AIとロボで省人化 人口減少でも安定出荷 北海道・JAふらのタマネギ選果場
- 11/1 新柑橘選果場が竣工 日本最大規模AI導入JAみっかび
- 自動でミカンを選別!AI選果場は三ヶ日みかんの縁の下の力持ち | みっかびブログ
- 農業新技術活用事例(令和4年度調査)
- 令和5年度補正予算「戦略的スマート農業技術の開発・改良」について:農林水産技術会議より「スマート農業実証プロジェクトの成果等を踏まえた今後の技術開発等の方向性(案)」(PDF資料)
(2024年4月1日閲覧)
(2024年4月12日閲覧)