2017年農業技術10大ニュースで興味深い話題を見つけました。
筑波大学、神戸大学、名城大学が共同で開発したその新しいトマトは、受粉しなくても実がなる「単為結果性」トマトです。そしてこの開発で用いられた新しい手法、ゲノム編集技術「Target-AID」を使えば、単為結果性トマトの栽培の作業効率化や低コスト化が期待できるのです。
通常の栽培方法について
トマトは自家受粉植物です。1つの花の中に雌しべと雄しべを持ち、風や昆虫がもたらす振動で、受粉します。
しかし農家がトマトを育てる際、一般的に施設栽培のことが多く、風の影響もなければ、昆虫が飛来する機会も減ります。そうなると受粉の質が落ちてしまうため、ホルモン処理やマルハナバチを利用した方法をとり、受粉を促します。
ホルモン処理は、花粉が雌しべに受粉した際に発生する植物ホルモンを、用意したホルモン剤をふきかけることで、花に受粉したと勘違いさせて実をつけさせる方法です。この方法であれば、花粉ができにくくなる13度以下、32度以上の気候であっても果実をつけさせることができ、便利です。
ただし夏場には週2回、冬場には週1回程度、ホルモン剤を噴霧する必要があるため手間がかかります。またホルモン剤を噴霧する場所や濃度に注意を払う必要があります。
ホルモン処理よりも簡単に自家受粉を促すことができると導入されたのが、セイヨウオオマルハナバチを利用した交配です。ホルモン処理の場合、ホルモン剤の噴霧場所や濃度によって植物の萎縮や奇形果が見られることもありましたが、マルハナバチにより自家受粉を促すことができれば、奇形果も減り、収量も上がります。しかしマルハナバチ自体の価格が高いこと、活動適温が10~25度と限定されることが難点として指摘されています。その上、海外原産のマルハナバチが農場の外へ飛び出すことによる、在来種への悪影響が指摘され、2006年には特定外来生物として指定されています。
一方、受粉や受精をせずに果実がなる性質を指す「単為結果性」のトマトなら、上記の作業がいらなくなり、作業にかかる手間や人員を減らすことができます。
新しいゲノム編集技術が着目された理由とは
ホルモン処理やマルハナバチを利用せず、受粉なしで実をつけることができる単為結果性トマトですが、2017年農業技術10大ニュースで着目されたのは、その果実ではなく、新しいゲノム編集技術です。
研究グループが開発したのは、DNAを切ることなく書き換えるゲノム編集技術「Target-AID」です。
これまでのゲノム編集技術は、「人工ヌクレアーゼ(標的部位のDNAを認識して切断するよう、人工的に改変された酵素)」を利用し、切断されたDNAの修復が行われる際、目的の遺伝子が改変されることを期待するものでした。しかしこの方法は、目的の遺伝子改変が起こるとは限りません。また染色体を切断したことによって発生する細胞毒性(細胞に機能障害や増殖阻害、死の影響を与える性質)が課題となっています。
一方、今回の「Target-AID」は染色体を切断せずに改変します。
まずは従来の人工ヌクレアーゼを利用した技術「CRISPRシステム」からヌクレアーゼ活性を除去します。そこに化合物のアミノ基を除く脱アミノ化酵素であるデアミナーゼを付け、人工酵素複合体を構築します。従来のゲノム編集では、切断したい標的の塩基配列に対応する(相補的な)配列を含んだ「ガイドRNA」とDNAを切断する酵素が働くことで任意の配列を切断します。しかし今回の方法では、「ガイドRNA」が標的を認識した二本鎖であるDNAを一本鎖に解離、その解離状態の一本鎖を脱アミノ化酵素により変換します。
従来の方法と比較すると、切断工程がないため細胞毒性が大幅に低減しているとの報告があります。
ゲノム編集技術と今後の展望
「Target-AID」を用いた今回のトマトの開発では、種子の発芽促進や老化の抑制に関わる植物ホルモン・ジベレリンのシグナル伝達(簡単に言えば、細胞同士が情報交換を行うこと。これにより体内外の環境変化に対応している)に関わるSIDELLA遺伝子を変異させ、その結果、SlDELLA変異体は単為結果性をもちました。
「Target-AID」の技術を使えば、ゲノム編集の時点では細胞毒性への不安が低減され、単為結果性トマトが生成されれば、受粉作業にかかる手間を削減することができるのです。
「Target-AID」を使った技術は、細胞に大きな負担をかけずに済むということが分かりました。かつDNAを切断しないことで改変効率も期待できます。今回は農業技術への応用として単為結果性トマトの開発につながりました。
ゲノム編集技術は農業と密な関わりがあります。気候変動や新たな病気に対応するために研究開発が続き、干ばつに強いトウモロコシや水害被害に耐える米などがすでに開発されています。もちろん農作物における遺伝子改変を危惧する声もあります。自然界にはない遺伝子をつくりだすことによる問題点も挙げられており、日本では消費者庁の検討会で「遺伝子組み換えでない」の表示の厳格化する方向性を示しています。
とはいえゲノム編集技術は、農業に限らず医療分野などでも活用される技術です。食用品への応用は、上記のような不安から発展しにくいかもしれませんが、今後の技術開発にも期待大ですね。
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