農業において土の存在はとても重要です。植物を育てる土台として、適度な量の水や肥料を農作物に与えてくれます。
土壌中の生態系も農作物に必要な栄養分を用意する重要な役割を担っています。しかし昨今は、土を使わずに農作物を育てる技術も発展しています。
土を使わない栽培方法で、空間をうまく利用し都市型農業を発展させることもできます。
土を使わない栽培技術
現代において、土を使わない栽培技術として有名なのは「水耕栽培」なのではないでしょうか。2017年に開催された「農業EXPO」でも水耕栽培による植物工場は注目を集めていました。
土を使わず、水や液体肥料だけで農作物を育てる栽培方法で、その生産効率の良さが注目を集めています。単位面積当たりの生産量においては、露地栽培と比較して大きいという事例もあります。ただし水耕栽培を利用した都市型農業設備、例えば植物工場や太陽光を利用した設備に関しては、初期投資に5,000万円~数億円の費用がかかるというデメリットも掲げられています。
もちろん初期費用の高さを考慮し、定植する土台を発泡スチロール製にした水耕栽培もあります。ハウスや液肥を調整するシステムもなくしたシンプルな水耕栽培であれば、初期費用は800万円ほどに抑えることも可能です。水耕栽培における初期投資の高さという課題は、今後も改良が加えられていくことでしょう。
ポリエステル培地が生まれた理由
そして今回注目すべきは水耕栽培以外の土を使わない栽培方法です。それが「ポリエステル培地」と呼ばれるもの。
近畿大学農学部と奈良県が公開した実証圃場で発表された培地で、長期間利用できるという利点があります。高齢者や障害者などが行う農作業の簡便化、担い手不足解消を目的とし、この培地とICT技術などの最新技術を組み合わせることで、作業の手間を削減することができます。
ポリエステル培地の注目すべき利点はもう1つあります。それは「風評被害に苦しむ地域でも役立つ培地」だということです。東日本大震災の後、被災地では放射能汚染による風評被害がおきました。しかしポリエステル培地を使えば土を使わずに農作物を育てることができるため、放射線汚染を不安視する消費者も安心することができ、生産者も自信を持って育てた農作物を提供することができるのです。軽量で半永久的に利用できるポリエステル培地は、連作障害が出にくいという利点もあります。
ICT技術を組み合わせることで水や肥料、温度などを管理することができれば、「長年の経験と勘」が必要とされてきた作業をより効率的に行うことができ、農業所得の安定化につなげることができると考えられています。学生による農業ベンチャー法人の設立も計画されているとのことで、今後の農業の在り方に期待ができる内容ですよね。
土を使わない栽培方法の今後
土を使わない栽培方法で注目されている「植物工場」ですが、発展途中というのも事実です。
大量生産ノウハウはまだ確立されていませんし、「水耕栽培」で利用する水も、水質を安定させなければ、うまく作物を育てることができません。
人工光を使えば天候に左右されないという利点もありますが、初期投資や照明などの生産コストから、土壌栽培で育てられた野菜に比べ割高になってしまうというデメリットもあります。ICT技術との連携も始まったばかりで、人の手を借りずに済むにはもう少し時間がかかりそうです。
とはいえ、2017年の「農業EXPO」では、栽培の全自動化に取り組む企業も目につきました。全自動化が進めば、生産コストを引き下げることにつながります。
ビジネスとしてフランチャイズ展開することも期待できるでしょう。土を使わないことで、広い農場を確保する必要もなくなります。そのため都市部で農場を展開することができるので、「流通」にかかるコストを削減することにもつながります。
土を使わない栽培方法だからこその需要もあります。土を使わないことで虫の混入や菌の付着を減らすことができるため、虫や菌の混入を確実に防ぎたいお弁当などの加工食品製造に使いやすい利点があります。
今後の展望
土を使わない栽培方法がある一方で、土壌を重視する有機農業も今後の発展が期待できます。例えば有機農業で利用される有機物は、農業廃棄物や畜産動物の糞尿などが使われることもあり、循環型農業・環境保全型農業に一役買っています。
消費者の食に対する安心・安全志向の高まりもありますから、有機栽培や自然農法で育てた農作物も今後は増えていくことでしょう。
個人的には、従来の栽培方法(慣行栽培、有機栽培含め)と土を使わない栽培方法が両方とも確立し、消費者の選択の幅が広がることを期待しています。
土の使用が良いか悪いかを結論づけるのではなく、消費者が農産物の生産工程を知ることでき、安心して好きなものを選べる機会を期待しています。特に今回紹介した「ポリエステル培地」は、生産者と消費者、その両方の気持ちに寄り添って生まれた新しい栽培方法です。
双方の不安を取り除くような栽培方法は、農業に安心して向き合うことができると感じています。農業技術の発展を、今後も期待しましょう。
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