アスパラガスは南蛮貿易(16世紀半ばから17世紀初期)より日本に入り、大正時代から本格的に食用としての栽培が始まりました。今や馴染みの野菜となったアスパラガスは、一般的なグリーンアスパラガスの他にホワイトアスパラガスや紫アスパラガス、ミニアスパラガスなど種類も豊富になってきました。
アスパラガスは多年草で、植え付けの2〜3年後から収穫できるようになると、10年以上収穫することができます(おおよそ10年ほどで苗の植え替えが行われるのが一般的です)。
アスパラガス栽培は自動化しやすい!?
省力化が可能な養液土耕栽培
アスパラガスは多肥を好み、増肥は収量増加につながります。またかん水も重要で、長野県・JA全農長野が公開する「アスパラガス収量性向上マニュアル」によると、「若茎の萌芽期間中に土壌水分が不足すると、鱗芽が一時的に休眠状態に陥ります」とあり、収量確保には増肥よりもかん水の効果が高い、ともあります。
そんなアスパラガスの栽培方法に有効なかん水・施肥方法として「養液土耕栽培※」があげられます。
養液土耕栽培とは「元肥(基肥)を施用せず、灌水と同時に液肥を供給する栽培法」です。養液土耕栽培では「土を使わず、肥料を水に溶かした液(培養液)によって作物を生産する栽培法」である養液栽培※の手法を取り入れつつ、培地には土を利用します。
養液土耕栽培の最大のメリットはかん水と施肥の省力化が図れることです。基本的に肥料と水を必要な量だけ毎日供給することになるため、コンピュータ制御やタイマー制御といった環境制御技術が導入されます。かん水と施肥が自動化されれば、作業時間を大幅に削減することができます。
養液土耕栽培で栽培される農作物はアスパラガスに限りませんが、安定した生産のために追肥とかん水のきめ細やかな管理が必要とされるアスパラガス栽培において、魅力的な栽培方法といえます。
農研機構の成果情報「アスパラガスにおける養液土耕栽培の適用性」には、養液土耕栽培における増収はかん水同時施肥の効果と考えられる、とあります。また成果情報には、年間の窒素施肥量を現地慣行施肥量に対して30~40%程度減肥しても、収量は比較的高い水準を確保できること、すなわち減肥栽培が可能であることも記載されています。
また井上惠子・古賀武・石松敬章『アスパラガスの点滴かん水同時施肥が土壌の化学性と収量・品質に及ぼす影響』(福岡県農林業総合試験場、2018年)では、養液土耕栽培に用いる点滴かん水同時施肥のメリットとして、かん水による土の跳ね上がりがないため病害菌の胞子や菌糸の付着が抑えられ病気の予防になること、かん水を行いながら収穫作業などが行えることなどをあげています。
養液土耕栽培の注意点としては、専用の施肥装置と点滴かん水チューブを用いる際、原水に酸化カルシウムや重炭酸イオンなどが多い場合には、減水チューブが詰まりやすいので、定期的なメンテナンス(原水の分析やイオン交換などの対策など)が必要になることがあげられます。
環境制御だけではない!自動収穫機の開発進む!
アスパラガス栽培に用いられるスマート農業技術は環境制御だけに留まりません。アスパラガスの収穫にもスマート農業技術の活用が進んでいます。
近年開発が進んでいる技術には、AI(artificial intelligence、人工知能)による画像認識によってアスパラガスの選別作業を行う選別機、画像認識により選別作業を行った後、ロボットとアスパラガスの距離を算出して収穫を行う収穫機があげられます。
アスパラガスを自動で収穫するロボットは、日本最大の農業展示会「農業WEEK」やテレビ、一般誌などでも度々取り上げられています。
2023年4月8日に朝日新聞が公開した記事によると、スマート農業の普及に取り組む長野県伊那市が産官学連携でアスパラガスの自動収穫機を開発しました。
同記事によると、直径1cm未満のアスパラガスや近くに雑草が生えているアスパラガスでは刈り取り漏れが起こるなど、画像認識の側面で課題がありますが、
自動収穫機の運用に適したビニールハウスとセットで3年以内の商品化をめざし、農家の負担軽減につなげる
ともあり、今後、より効率的な作業が可能になることが期待されています。
参考文献
- その5:野菜の自給率:農林水産省
- アスパラガスの需給動向
- アスパラガスの需給動向等について
- 養液土耕-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
- 養液土耕栽培法
- アスパラガス 収量性向上マニュアル
- アスパラガスにおける養液土耕栽培の適用性
- アスパラガスの点滴かん水同時施肥が土壌の化学性と収量・品質に及ぼす影響
- 日本最大の農業展示会「第9回農業Week」で見つけた注目アイテム<農業ロボット編> | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」
- スマート農業技術の活用によるアスパラガス生産体系の確立
- アスパラを自動収穫 AIが「旬」見分ける | 日経クロステック(xTECH)
- 産官学連携、アスパラ自動収穫機開発 スマート農業進める伊那市など