スマート農業とは
ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業のこと
を指します。
スマート農業の利活用によって、日本の農業の課題である人手不足や労働負担の解消につながり、農作業の省力化や軽労化をはかることができると期待されています。
しかしスマート農業のさらなる普及のためには、スマート農業で利用される技術やデータの流出や不正利用に対する懸念を払拭する必要があります。
そこで農林水産省は「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」を策定しました。
データの保護は、原則「契約」で図られる
データの取り扱いについて
スマート農業の普及によって、熟練農業従事者の技術やノウハウが可視化できる情報(データ)として他者と共有できるようになりました。
農業者の技術やノウハウはいわば知的財産(人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などで財産的な価値を持つもの)ですが、データは無体物、“法律で、音・電気・熱・光などのように、有形的な存在をもっていないもの(出典元:精選版 日本国語大辞典)”です。
知的財産の場合、情報提供者側が不利益を被ることがないようにさまざまな制度が存在します。
知的財産の中には特許権や実用新案権など、 法律で規定された権利や法律上保護される利益に係る権利として保護されるものがあります。
引用元:知的財産権とは|日本弁理士会
ですが、データが知的財産権として保護される事例は限定的な上、そもそも無体物であるデータは“民法上、所有権や占有権の概念に基づいてデータに係る権利の有無を定めることはできない”※とあります。そのためデータの保護は、原則、情報提供者と情報の受け手の間の契約を通じて図られます。
※
データは無体物
民法上、所有権や占有権の概念に基づいてデータに係る権利の有無を定めることはできない。知的財産権として保護される場合や、不正競争防止法上の営業秘密として法的に保護される場合は(~中略~)限定的であることから、データの保護は原則として利害関係者間の契約を通じて図られる。
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
農業分野で利用されるものに関して、農林水産省は契約に関する検討会を開き、「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」(農林水産省、2020年)を策定しました。
このガイドラインは、データ提供者(農業関係者)側のノウハウ保護を重視したものです。そしてデータ提供者と情報の受け手(農業機械メーカーやICTベンダ等)の間で知的財産や契約に関する共通の理解のもとでデータ利用が進むことを目的に、契約の考え方やひな型等が、法律に基づいて明記されています。
農林水産省のホームページには、ガイドラインの資料とともに使用事例(ユースケース)が紹介されています。ユースケースには想定される事例と契約形態、留意点などが分かりやすく記されています。
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン~農業分野のノウハウの保護とデータ利活用促進のために~:農林水産省
提供者側が理解しておきたい個人情報の取り扱いについて
ガイドラインに記されている内容の中でも、個人情報の取り扱いは最も身近な内容として捉えられるのではないでしょうか。
情報の受け手が個人情報を利用する場合は、個人情報の利用目的をあらかじめ特定し、提供者に対して通知や公表することが求められます。
ただし、個人情報を含むデータから生成された学習済みパラメータ(学習用データセットを使った学習の結果、得られたパラメータ(係数)のこと|引用元:学習済モデルに著作権はあるのか?AI開発契約で注意すべき2つの事 topcourt)は、それ自体に個人情報が含まれているケースが少ないことなどから、製品・サービス提供者において個人情報としての取り扱いは必ずしも求められません。
IoT機器から収集したデータもまた、個人情報にはならないことがあります。たとえば機器番号と計測データなどのみを送信するサービスを利用する場合、機器番号と計測データだけから個人をすぐに特定することはできないからです。
ただし上記の例で、製品・サービス提供者が別途機器番号と個人を特定する情報を一体的に管理し、これを利用すれば個人が特定できるという場合には、機器番号と計測データだけでも個人情報として扱うことが求められることがあります。
情報を提供する農業関係者としては、提供したデータに個人情報が含まれるのではないかと疑念を抱くこともあるかと思います。個人情報の取り扱いについて不安がある場合には、上記のような、個人情報になるかならないかの事例を理解したうえで、契約時に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
参考文献