農林水産省は2021年3月に「農業DX構想」を発表しました。
農林水産省が公開した資料には、農業DX構想の意義と目的についてこのように記されています。
農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS: Farming as a Service)への変革の実現
参照元:食料・農業・農村基本計画:農林水産省
農業DXの背景
冒頭で紹介した農業DX構想の意義と目的にもありますが、日本の農業が抱えている課題には、農業者の高齢化や労働力不足、新規就労者の減少が挙げられます。それに加え、農業分野においても「働き方改革」や「労働に見合う所得水準」などの課題も。さまざまな課題を前に、農業の生産性や効率をあげるデジタル技術の活用が求められています。
また農林水産省は令和5(2023)年1月「農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について」という資料の中で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、以下の農業・食関連産業分野における課題が明らかになった、と記しています。
- 国全体でデジタル化の遅れが顕在化した
- 遠隔分散型の社会経済へと移行したことで、これまでの「つながり」が分断され、農産物の需要が大きく変化した
- コロナ禍で、不確実な時代における社会や環境の変化への対応が求められた
- 行政運営の非効率性が顕在化した
- 農業・農村の特性に応じたインフラ強化への取組が求められた
農業DXの課題
しかし農業分野において、個人レベルのDXへの関与が小さいのではないかという懸念があります。
そもそもDX「デジタル‐トランスフォーメーション(digital transformation)」とは、
IT(情報技術)が社会のあらゆる領域に浸透することによってもたらされる変革。2004年にスウェーデンのE=ストルターマンが提唱した概念で、ビジネス分野だけでなく、広く産業構造や社会基盤にまで影響が及ぶとされる。デジタル変革。DX。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
という意味です。
“ビジネス分野だけでなく、広く産業構造や社会基盤にまで影響が及ぶとされる”とあるように、DXは本来、社会的・組織的レベルでの変革を表します。しかし中村恵二、片平光彦、榎木由紀子『改革・改善のための戦略デザイン 農業DX』(2022年、秀和システム)は、農作業の現場で重視される長年の経験や勘、家族経営などの1次産業特有の事情から、デジタル化そのものが敬遠されてきたことについて述べています。個人レベルの事情に加え、行政や農村コミュニティなどのさまざまなレベルにおいてDXに対する意識や視点の違いがあることも、農業DX推進の課題として立ちはだかります。
たとえば、2020年農林業センサス(令和2(2020)年2月1日時点)の結果によると、データを活用した農業を行っている農業経営体数は18万3千経営体で、農業経営体に占める割合は17.0%、全体の2割以下なのが現状です。
ネット販売では、消費者と農業者が直接つながり、消費者ニーズに基づいた生産・販売も増えてきました。とはいえ、消費者ニーズの把握には購買情報の把握が重要ですが、現時点では卸売市場価格以外に活用できる情報が限られており、農業DXの活用はまだまだ限定的といえます。
DX推進が滞ると起こりうること
2018年9月7日、経済産業省は企業のDXに関する報告書にて、このままDXを推進できなければ、2025年以降、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると述べました。
また農業DXには、先進技術を扱うことによる技術や機器に応じた以下のデメリットが考えられます。
- 導入コストが高い
- 異なる機器同士での機能の共有性が乏しい
一部地域では情報通信基盤が不十分 - 先進技術を扱うことができる人材を確保するのが難しい
それでも農業DXは、日本の農業の課題解決にはなくてはならない存在かと思われます。今後、農作業を大幅に効率化できる農業DXがより発展することを願います。
参考文献
- 農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について
- 「農業DX構想」とは何か。そもそもDXとは。どんなメリットがある!?
- 前回の指摘を踏まえた追加資料 – (データを活用した農業経営の分析について)
- デジタルトランスフォーメーション (DX)について ―「2025年の崖」とは
- 中村恵二、片平光彦、榎木由紀子『改革・改善のための戦略デザイン 農業DX』(2022年、秀和システム)