世界で広がる新技術「クラウド・シーディング(雲の種まき)」とは。

世界で広がる新技術「クラウド・シーディング(雲の種まき)」とは。

クラウド・シーディング(Cloud seeding)は、日本語に直訳すると「雲の種まき」を意味し、人工的に雨を降らせる技術を指します。

 

 

雨が降る仕組み

世界で広がる新技術「クラウド・シーディング(雲の種まき)」とは。|画像1

 

クラウド・シーディングの事例等を紹介する前に、雨が降る仕組みについて分かりやすく解説した動画を共有します。

雨の降るしくみ | NHK for School

 

 

クラウド・シーディングの仕組み

世界で広がる新技術「クラウド・シーディング(雲の種まき)」とは。|画像2

 

クラウド・シーディングでは、人工的に雨を降らせるために自然の雲から雨を降らせる仕掛けを行います。航空機や気球、発煙筒やミサイルなどを用いて、雨粒の「種(シード)」となる物質を人為的に散布し、雲粒を雨粒に成長させます。

「種」となる物質は、冷たい雨雲か暖かい雨雲かで異なります。0℃以下の冷たい雨雲に対してはドライアイスやヨウ化銀といった物質が用いられ、暖かい雨雲に対しては、雲粒を集めるために塩などの吸湿性の高い粒子が用いられます。

クラウド・シーディングの事例

干ばつなどで水不足が深刻化すると、農産物の生産にも悪影響が及びます。クラウド・シーディングは水不足による食料問題の解決につながる技術として注目されています。

メキシコでは、水不足を解消する手段の一つとしてクラウド・シーディングをあげています。日本経済新聞の記事によると、クラウド・シーディングの効果は、事前の予測値よりも降雨量がどれだけ増えたかで判断されていますが、メキシコの農業・農村開発省は2021年には対象となる6州で降雨量が平均45%増えたことを記しています。

年間降水量が100ミリを下回るアラブ首長国連邦(UAE)では、クラウド・シーディングが日常的に行われています。2023年は8月下旬までに200回以上、雲への種まきが行われています。

ただし、現在のクラウド・シーディングの技術は「種」をまくことで降雨が促される雲に対して効果を発揮するものです。メキシコなどの乾期と雨期の2つの時期がある土地の場合、雨が降りやすい雨季の降雨量の増加は促せても、乾期の乾いた空に雨が降らせることはできません。

UAEの場合も同様で、積乱雲が発生しやすい東部の山岳地帯では雨を降らせやすくても、快晴の状態や元となる雲が発生しにくい都市部では雨を降らせることが難しいのが現状です。

お隣の国・中国もクラウド・シーディングを実施しています。中国国務院によると、2025年までにクラウド・シーディング・プロジェクトの対象地域を、これまでの5倍の規模(550万㎢)に拡大するとしています。これは国土の56%をカバーする規模にあたります。中国は2022年8月に深刻な干ばつと記録的な熱波に見舞われました。このような背景から、クラウド・シーディングの取り組みが精力的に進められています。

雨を降らせるだけではない!?豪雨を抑制するクラウド・シーディング

世界で広がる新技術「クラウド・シーディング(雲の種まき)」とは。|画像3

 

クラウド・シーディングについて調べていたところ、横山一博他『積雲発生初期のクラウド・シーディングによる豪雨抑制効果とそのメカニズムに関する研究』(土木学会論文集B1(水工学)Vol.71 No.4、2015年)という論文を見つけました。

これまで行われてきたクラウド・シーディングの研究は降水の促進を目的としたものでしたが、この研究では集中豪雨の抑制を目的としています。

降水の促進を目的とした過去の研究から、線状対流系(積乱雲が次々と同じ場所で発生し、積乱雲群が成長しながら線状に並んで形成されるもの。聞き馴染みのある表現には「線状降水帯」があげられる)などにシーディングを行うことで降水が抑制される可能性が確認されていました。

そこでこの研究では、積乱雲発生初期と積乱雲発達期のシーディングで抑制効果がどの程度異なるかの検討と、抑制メカニズムの解析が行われました。その結果、シーディングを行うことで、積乱雲発生初期も積乱雲発達期もともに降水粒子の成長を抑制している、とあります。抑制のメカニズムは以下に引用するように異なりますが、クラウド・シーディングが降雨強度の低下につながる結果となっています。

同論文が示す抑制メカニズム

<積雲発生初期>
大気条件:液体の雲水が存在、上昇気流が弱い
→シーディングを実施

  1. 氷晶及び雪が生成
  2. 弱い雨が先に降り、水蒸気が減少
  3. ピーク時において上昇気流が弱まる
  4. 降水粒子の補捉過程が抑制され霰(あられ)の減少
  5. 集中豪雨の抑制へ

 

<積雲発達期>
大気条件:降水粒子が多数存在、上昇気流が強い
→シーディングを実施

  1. 氷晶及び雪が生成、霰が減少
  2. 潜熱が発生して上昇気流が強まる
  3. オーバーシーディング状態となる
  4. 氷晶が上空へと舞い上がり、風下側に流される
  5. 集中豪雨の抑制へ

引用:横山一博他『積雲発生初期のクラウド・シーディングによる豪雨抑制効果とそのメカニズムに関する研究』(土木学会論文集B1(水工学)Vol.71 No.4、2015年)

雨をコントロールできるようになる日は決して遠くないのかもしれませんね!

 

参考文献

  1. 雨の降るしくみ | NHK for School
  2. 第101回 雨を降らせて晴れを作る -人工降雨の技術
  3. 人工の雨降らす「雲の種まき」 メキシコ航空機に同乗 – 日本経済新聞
  4. 中国、2025年までに国土の半分で人工降雨…生産性向上や自然災害の防止に期待
  5. 積雲発生初期のクラウド・シーディングによる 豪雨抑制効果とそのメカニズムに関する研究

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