「ブロックチェーン」について調べてみると
分散型ネットワークを構成する多数のコンピューターに、公開鍵暗号などの暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法。
出典元:小学館 デジタル大辞泉
とあります。
これは主に、紙幣や硬貨のような現物のない、電子データのみでやりとりされる「仮想通貨」の偽造を防ぐために用いられています。取引などの記録を複数のコンピューターで共有し、検証しながら、それらの情報を鎖のように連結し、取引情報の履歴を管理します。もし一部のコンピューターで取引データが改ざんされるようなことがあっても、他のコンピューターでも情報を共有、検証しているので、正しい取引データが選ばれ、不正を防ぎます。
今はまだ、主に仮想通貨に関する技術として認識されているブロックチェーンですが、この仕組みはあらゆる分野に適用することができ、情報等の把握・管理を目的とした活用に期待が高まっています。
ブロックチェーンの農業利用(トレーサビリティ)
先で紹介した通り、ブロックチェーンの強みは、データが改ざんされるのを防ぐところにあります。これを農業分野に活用する際、期待されているのは、生産段階から最終消費(または廃棄段階)までの流通経費を追跡可能な状態にする、トレーサビリティへの活用です。
トレーサビリティの現状
日本食品トレーサビリティ協会には、トレーサビリティは“食品に関する事件・事故が生じた際に、食品の移動ルートをその記録をもとに遡及・追跡して、原因究明や商品回収等を円滑に行えるようにするための仕組み”とあります。食品事業者がトレーサビリティを実施していれば、仮に事件や事故が起きても、いち早く消費者の健康被害の拡大を防ぐことや、事業者の経済的損害を軽減することにつながります。しかし日本でトレーサビリティの法律が制定されているのは牛肉と米のみで、食品事業者ごとにトレーサビリティへの取り組みも異なります。農林水産省の「令和元年度 農林水産情報交流ネットワーク事業全国調査 食料・農業及び水産業に関する意識・意向調査」によると、食品流通加工業者462人のうち「内部トレーサビリティ※」の実施について以下のような結果が出ています。
すべての食品で実施している 40.7%
一部の食品で実施している 22.3%
実施していない 37.0%
すべての食品で実施している事業者からは
- 食品の回収、クレーム等の問題に対応するため 89.4%
- 食品関連事業者としての社会的責任を果たすため 78.7%
- 取引先から要求されたため 38.8%
などの回答があがっている一方、取り組みを行っていない事業者からは
- 販売に影響がないから 48.2%
- 作業量が増加するから 42.3%
- 取引先から要望がないから 29.6%
- 消費者からの要望がないから 28.5%
といった回答があがっています。
取り組みが統一化されていない上に、牛肉や米以外は義務化されていないため、食品トレーサビリティに取り組んでいたとしても、その情報は関係事業者の信頼で成り立つもので、消費者がそれを本当かどうかを証明する方法がないのが現状です。
※入荷した食品(原料)と製造した食品(製品)を対応付ける記録を保存する取り組みのこと。
ブロックチェーンが証明に役立つ
ブロックチェーンの技術を活用すれば、データ改ざんを防ぐブロックチェーンの強みのおかげで、不正を防ぐことができますし、問題が発生したときに原因を特定しやすくする従来のトレーサビリティの仕組みをより明確に活用できます。信頼できる情報が記録されるので、消費者も安心して食品を手に取ることができるでしょう。
ブロックチェーン活用に期待が高まる
活用に期待が高まるブロックチェーンですが、課題もあります。例えばWEBメディア「Impress Watch」に掲載されていた「『ブロックチェーン×農業』で産地偽装は防げるのか」という記事では、必要なデータを蓄積するセンサーを収穫した野菜とともに同梱する方法が紹介されていました。しかし、取り組みを行っていない事業者の回答に「作業量が増加する」とあるように、「同梱する」という一動作によって受け入れられない可能性もあるのではないでしょうか。またセンサーなど、データを収集する仕組みを標準化する必要も出てくるのではないでしょうか。
とはいえ、ブロックチェーンを食品トレーサビリティに活用した事例はすでに存在します。株式会社電通国際情報サービスが開発した 「SMAGt(スマッグ、SMart AGriculture Traceability)」は、ブロックチェーン技術を活用し、耐改ざん性のある基盤をつくり、生産履歴や取引状況の可視化を実現。現在は社会実装に向け、検証が行われています。
今後も注目の技術です。
参考文献