昨今、こだわりの栽培方法で育てられた野菜を目にする機会が増えたのではないでしょうか。
消費者の食への関心の高まりも理由のひとつだと思いますが、農業従事者の間でも、「循環型農業」など持続可能のある農業の在り方に関心をもつ人が増えたのではないかと考えます。
化学肥料や農薬を使用する栽培方法が一般的ですが、これらへの依存が進むことで耕地が痩せ、かえって栽培に支障をきたすことなどが指摘されるようになりました。そこで、環境に配慮した、持続性の高い農業に関心が集まっています。
本記事で紹介するのは、循環型農業にもつながるところがあり、加えて収穫物の品質を向上させると期待されているバイオスティミュラントと呼ばれる農業資材です。近年、欧米で注目を集めているバイオスティミュラントについて紹介していきます。
バイオスティミュラントとは何か
バイオスティミュラントは、植物が本来持っている免疫力を高め、病害虫に対する耐性や寒暖に対する耐性、植物の成長を促す物質や技術の総称です。
農作物は発芽時や苗の時期などに、病害虫などの「生物的ストレス」と温度変化や物理的な被害などの「非生物的ストレス」によって収量が減少してしまうことがあります。
バイオスティミュラントは、これらのストレスに対応する植物本来の免疫力を高めることで、収量減少の軽減や、健全な植物の提供ができると期待されています。
バイオスティミュラント資材が注目される理由
欧州で注目を集めているバイオスティミュラント。
世界におけるバイオスティミュラント市場は、2014年に16億ドル(日本円:1,804億円)で、2020年には約35億ドル(日本円:3,946億円)になるのではないかと見込まれています。
欧州はこの額全体の4割を占めており、欧州だけで2020年には約14億ドル(1,578億円)に達するのでは?と言われています。
この背景は、農業における「環境負荷の低減」への意識の高まりとされています。
栽培植物は自然に生えている植物の中から、食味や収穫生などから選抜し、遺伝的な改良を加え、人為的につくられた作物です。
そのため、野生の種に比べると病害虫などの生物的ストレスや気温などの非生物的ストレスに弱いと言えます。
従来の農業では、野生種と比較して弱い農作物を効率よく守り、収量を増やすために、農薬や肥料などを投入してきました。しかしそれは農業生態系に大きな負荷を与えることとなり、その影響は土壌に表れ、結果的に農作物の生育不良などを引き起こし、農業自身に跳ね返ってきています。
バイオスティミュラントは「植物本来の力」に着目した物質や技術の総称です。
加えてバイオスティミュラント資材は、天然物質や動植物由来の抽出物から製造されているため、環境だけでなく人体にも安全とされています。農薬や化学肥料に頼ることなく、健全な農作物を消費者に提供したいと考える就農者にとってはとてもありがたい存在なのではないでしょうか。
現時点で注目されているバイオスティミュラントの効果は、【植物の生長】【発育促進】【光合成活性化】【開花・着果の促進】【根圏環境の改善など】が挙げられています。
もちろん、天然物質などを基盤としているがゆえ、化成肥料と有機肥料の効果の違いのように、【即効性はない】【効果が明確には現れない】などのデメリットもあります。
バイオスティミュラント資材の事例
雪印種苗株式会社では、数多くの「植物活力資材」を開発・販売しています。
「スノーグローエース」と呼ばれる製品は、シイタケ菌を活用した植物活力資材であり、シイタケ菌の培養液をこぼしてしまった場所に生えていた植物が、生育旺盛になったことがきっかけで開発されました。発根や茎葉・果実の生育促進に効果的な資材であり、ジャガイモや人参、タマネギといった地下部が肥大する作物などに効果を発揮しています。
「ネぢからアップ」は、シイタケ菌の培養液と乳酸菌培養液を混合したもので、生育初期段階の農作物をサポートする資材となっています。発芽促進などにも効果的で、大豆や小豆などの豆類やスイートコーン、ホウレンソウなどに活用される資材です。
まだ2018年10月に開催された『次世代農業EXPO』では、対乾燥・節水用バイオスティミュラント資材「skeep」が紹介されていました。
アクプランタ株式会社が開発し、近く発売予定のこの資材は、同会社代表取締役社長であり、「理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チーム研究員」である金鍾明(きむ・じょんみょん)氏が発見した「酢酸が植物の乾燥耐性を強化する」というメカニズムをもとにつくられています。金氏は、植物が「乾燥」という「非生物的ストレス」を感じたとき、酢酸を合成するための遺伝子読み取りがオンになるということを発見しました。この因子について深く調べていったところ、「酢酸を外から与える」だけで植物を乾燥に強くする(日照りに強くする)ことができると分かったと言います。
植物本来の力や特徴を活かし、環境に配慮した、持続性の高い農業へつなげることができるバイオスティミュラント。効果の明確化がはかりづらいことから、まだまだ研究と評価が必要だとは思いますが、農業を将来につなげるためには必要不可欠な存在となるのではないでしょうか。