近年、「スマート農業」という単語は決して珍しいものではなくなりつつあります。ロボットやAI技術を活用したスマート農業は、
- 作業の省力化
- 危険な重労働からの解放
- 省力化による大規模生産
- データを利用した多収・高品質生産
等々、その利用価値に期待が高まっています。
とはいえ、実際に農業に従事している人たちが求めているものと、推進されているスマート農業との間にはギャップがあるようにも見えます。
スマート農業普及に立ちはだかる壁
省力化やデータ利用による作業の効率化など、スマート農業と呼ばれる技術を活用することで得られるメリットは、今後も増えていくことでしょう。しかしスマート農業を広く普及するためには、以下の壁を乗り越えなければなりません。
導入コストがかかる
スマート農業には専用の製品やサービスの導入が必要となります。そこでかかる費用がネックとなっています。農業法人や大規模な圃場を保有している農家で、経営が安定しているのであれば、初期費用というデメリットを飲むことができるかもしれません。一方、小規模な農家の場合、導入したくてもできない可能性が出てきます。
作業者の育成が必要
ロボットやAI技術はとても便利ですが、利用する側がそれらを操作したり理解したりできなければ、活用するのが難しくなります。機器やサービスを活用できなければ、導入した意味をなさないのです。
スマート農業に役立つ機器やサービスを生み出すメーカーは、農作業や事務作業の効率化を進める技術を次々に発表しています。ですが、実際に活用する農業者が、ロボットの操作方法や蓄積されたデータを読み解くことができなければ、その技術はそこに「ある」だけになってしまいます。
スマート農業をよりスマートなものとして活用するためには、農業者自身がスマートになる必要があるのです。
2019年10月9日(水)〜11日(金)に開催された『次世代農業EXPO』では、「スマート農業」に関連のあるブースが多々ありました。しかしそれらのブースには「農業法人」や「植物工場」関連の名札をつけた人が目立ち、稲作や露地栽培、ハウス栽培をしている「農業従事者」の名札をつけている人は少ない印象でした。
スマート農業の課題を乗り越えるための試み
まずは先で紹介した壁を乗り越えるための手立てについて紹介します。
導入コストは補助制度やリース導入で解決
スマート農業を普及するために導入費用を補助する制度や、製品やサービスをリースで導入できる方法などを活用すれば、導入コストを抑えることができます。
近年の消費スタイルに「シェアリングエコノミー」という言葉が挙げられます。これは個人個人で使っていないモノや場所や技術などを「共有」するサービスのことです。シェアする消費スタイルが広がりつつある今、導入コストがかかる機器やサービスを必ずしも買い取る必要はないのです。
作業者が操作しやすい機器・サービスの開発
「作業者の育成が必要」というデメリットが挙げられるスマート農業ですが、農業従事者の高齢化をふまえ、高齢者でもスマート農業に取り組みやすくなるようにと、操作が簡単で利用しやすい機器やサービスの開発が進んでいます。
『次世代農業EXPO』でもさまざまな機器・サービスが紹介されていましたが、文字や画像が大きく表示されていたり、操作方法がシンプルになっていたりと、老若男女誰しもが扱いやすいよう工夫がなされていました。
人材を育成する取り組み
農林水産省では、作業者自らがスマート農業の技術を理解し、経営発展に活かせるようにするための支援をしています。
例えば、全国の農業大学校でスマート農業を取り入れた授業や実習を実施しています。2019年からは農業大学校だけでなく、農業高校でも同様の内容を展開しています。
また農水省は日本各地に「スマート実証農地」を整備。この農地は、生産から出荷までをスマート農業化した拠点であり、農業従事者はここでスマート農業の全体像を見たり体験したりすることができます。
スマート農業の導入について農業従事者が相談できるICTベンダーや普及指導員などの育成も行われており、今後よりいっそう、スマート農業に取り組みたい農業者に寄り添った体系が期待されます。
『次世代農業EXPO』で農業者の注目を集めていたスマート農業とは
最後に、『次世代農業EXPO』で、稲作や露地栽培、ハウス栽培をしている「農業従事者」の名札をつけている人の注目を集めていたブースを3つ紹介します。
農業者の高齢化や後継者不足などの課題から、スマート農業の普及は期待されているのだと思いますが、農業者が本当に欲している内容はもっとシンプルなものなのかもしれません。
自動計量出荷システム
株式会社オーケープランニングの軽量システムは、野菜が不揃いにならないように指定する計量方法や個数指定、「〇〇g以下は除去」など、あらゆる計り方に対応しています。
省スペースで稼働する商品の口とじ
クイック・ロック・ジャパンのブースでは、比較的小さなスペースで稼働する口とじマシーンが紹介されていました。
生産管理システムや測定器
ハウス農家さんが集まっていたのが、ディーピーティー株式会社の環境制御システム「e-minori」です。
土壌だけでなく、ハウス内外の環境(温度や湿度、雨量や紫外線、CO2濃度など)をも測定可能なシステムで、クラウドに蓄積されたデータはPCやスマホで確認することができます。あらかじめ決められた端末以外ではアクセスできないなど、セキュリティ面もしっかりしています。
「スマート農業普及に立ちはだかる壁」を紹介しましたが、いくつもの環境条件を必要とするハウス農家さんにとって、スマート農業の存在が省力化に必要不可欠だということは「e-minori」のブースの盛況ぶりを見て感じました。
「スマート農業を知る→試す→実践する」の流れも普及すれば、よりいっそうスマート農業は発展することでしょう。
参考文献