農業に関わるセンシング技術。農業分野に利用されるセンサーにはどんなものがある?

農業に関わるセンシング技術。農業分野に利用されるセンサーにはどんなものがある?

近年、農業の現場では革新的な技術が導入され、生産性や効率性の向上が図られています。その中でも特に注目されているのが、センシング技術です。センシング技術とは、センサーを利用して温度や湿度、光量などの環境データを収集し、農業に役立てる技術を指します。この技術はスマート農業の重要な柱として、作業の効率化や農作物の品質向上に大きな貢献をしています。

 

 

2種類のセンシング技術

農業に関わるセンシング技術。農業分野に利用されるセンサーにはどんなものがある?|画像1

 

なお、農業で活用されるセンシング技術には「スマートセンシング」「リモートセンシング」などがあげられます。

まずスマートセンシングとは、センサーや測定器などの機器類を扱う株式会社キーエンスが運営するIoT用語辞典によると、「光、温度、衝撃の大きさといった情報を検出し数値化する処理機能が組み込まれたセンサ(スマートセンサ)によるセンシング技術の総称」とあります。

一方、リモートセンシングは「遠く離れたところ(リモート)から、対象物に触れずに対象物の形や性質を測定する(センシング)技術」を指します(引用元:リモートセンシングと放射伝達 – JAXA 第一宇宙技術部門 Earth-graphy)。

農業分野において、スマートセンシングとリモートセンシングの活用事例は以下のものがあげられます。

スマートセンシングの場合

  • ハウス栽培などの自動制御
  • 土壌状態の測定(施肥に活用)
  • 農作物の状態の測定(高付加価値化に活用)

リモートセンシングの場合

  • 人工衛星から農場の画像を取得し、それを農薬・肥料の散布や収穫のタイミングの最適化に活用
  • 人工衛星から気象情報を取得し、天候予測などに活用

いずれのセンシング技術も、これまで経験や勘で伝えられてきた農業技術を数値化し、科学的な情報として活用することを可能にします。

たとえば温度や湿度、光量や土壌pHといった値をリアルタイムで把握することで最適な栽培環境を維持することができますし、センサーから取得した温度や湿度のデータから病害虫の発生リスクを予測、迅速に病害虫対策を行うこともできます。

 

 

農業分野で活用されているセンサー

農業に関わるセンシング技術。農業分野に利用されるセンサーにはどんなものがある?|画像2

 

農業分野では、植物の成長や環境を的確に管理するために多様なセンサー技術が活用されています。代表的なセンサーには以下のものがあります。

温度センサー

栽培管理で基本となる温度を把握するセンサーです。

作物にはそれぞれ最適な温度帯があります。適温を超えると光合成が阻害されたり、温度差の発生で病害が生じる可能性が高まったりするため、農作物が育成するのに最適な温度を維持するためには、温度センサーを用いて正しく測定を続ける必要があります。

農作物の育成に関する温度は、大気中の温度と土壌中の温度の2種類あり、それぞれに応じたセンサー(サーミスタ式※1と熱電対式※2)が用いられます。

※1
サーミスタ式のセンサーは、熱を感知した際に変化する電気の流れにくさ(抵抗)を利用することで、温度を知ることができます。温度が高くなると電気が流れやすく、温度が低くなると電気が流れにくくなります。

参照サイト:サーミスタってなに? What is a Thermistor?

※2
熱電対式のセンサーは、「接合点に発生した熱起電力を利用して温度差を測るもの」です。“熱起電力”とは、2つの異なる金属を接続した際、接合点の温度を異ならせたときに発生する起電力(電流回路に電流を流そうとする働き)のことです。

参照サイト

サーミスタ式と熱電対式の違いをまとめると以下の通りです。

サーミスタ式

熱電対式

原理

熱によって変化する電気の流れにくさ(抵抗)を利用する 2種類の異なる金属を接触させて発生する熱起電力を利用する

特徴

  • 安価
  • 温度変化に対して迅速に反応
  • 温度範囲が広く、高温の測定が可能
  • 振動・衝撃に強い

短所

  • 測定範囲が狭い
  • 衝撃に弱い
  • 電気的ノイズ※3に影響されやすく、温度表示に誤差が生じやすい
  • 計測器とは異なる種類の熱電対、補償導線を使用すると正確な計測ができない

農業分野以外での使用用途

エアコンや自動車、給湯器など、多くの機器に組み込まれている 自動車やエネルギー、金属製造、医療などの現場における工場の自動化やプロセス制御などで広く用いられている

※3 機器に不具合を引き起こす不要な電気的成分

参照サイト

照度センサー

植物の光合成に欠かせない光量(日射量)を測定するセンサーです。農作物の育成には十分な光量が必要ですが、過剰な光を与えると作物にダメージを与えることになるため、正しく測定する必要があります。

農業分野で使用される照度センサーは一般的に、受光した光を電流に変換して強度を測定するフォトダイオード式センサーが用いられています。ただし、光合成に有効な波長は特定の波長(400〜700nm)に限られます。フォトダイオード式センサーは全ての波長を含めた光の強さを合わせたものを検出するため、より詳細な照度データを得たい場合には光を波長ごとに分ける分光センサーの利用がおすすめです。

湿度センサー

農作物の気孔の開閉を制御する湿度を測定するセンサーです。光合成を行う植物にとって、湿度は植物の成長に影響を与える重要なものです。

代表的な湿度センサーとして「伸縮式」と「電気式」を紹介します。

伸縮式

電気式(電気抵抗式)

原理

毛髪、ナイロンが湿度によって伸縮する特性を利用する 湿度によって電気の流れにくさ(抵抗)が変化する感湿材を利用する

特徴

  • 構造がシンプルで、比較的安価
  • 測定結果が読み取りやすい
  • 連続測定が可能
  • 構造がシンプルで、比較的安価
  • 低温度や高温度でも使用できる
  • 長期にわたって使用できる

短所

  • 素材、環境などにより測定結果に誤差がある
  • 精度はやや劣る
  • 低湿度では誤差が大きくなる
  • 高温環境下で感湿材が劣化する

農業分野においては小型で応答性が高い「電気式」が広く使われています。

水分センサー

栽培管理に欠かせない土壌水分量を測定するセンサーです。農作物や季節ごとに適切な水分量を維持するために重要で、このセンサーを用いることで過剰な潅水や水不足を防ぎます。

土壌水分の吸引力を利用したpFメータ(テンシオメータ)式や、土壌中に電極を埋め込み、土壌の濡れによって変化する比誘電率(誘電率:物質が電気を蓄えられる大きさの指標)を測定することで水分量を求める「誘電率水分センサー」などがあげられます。

CO2センサー

農作物の光合成に不可欠なCO2濃度を測定するセンサーです。適切なCO2濃度の管理は、農作物の育成環境の最適化につながります。

一般的には赤外線吸収法(NDIR)という原理を利用した光学式センサーが用いられます。NDIRは、赤外線の吸収を利用してガスや物質の濃度を測定するというものです。精度が高いものの、経年による測定ズレが生じるので、定期的な校正が必要です。

pHセンサー・ECセンサー

土壌の酸性度やアルカリ性を測定するセンサーで、農作物に適した弱酸性(pH6.0前後)の環境を維持するために重要です。ガラス電極を用いた測定方式が採用されています。

一方、ECセンサーは土壌溶液中の肥料濃度を示す電気伝導度(EC)を測定するセンサーです。肥料濃度が低いと農作物は生育不良を引き起こし、高ければ濃度障害が発生します。そのため、農作物の育成には肥料濃度の適切な管理が欠かせません。

肥料成分はイオン化された状態で植物に吸収されます。そのため、土壌中のイオン濃度を測定することで肥料濃度が把握できます。ECセンサーは、土に微弱な電流を流し、イオン濃度と関連する電気の通りやすさを計測します。

そのほかのセンサー

たとえば糖度・熟度・酸度を測定するセンサーは、先述した照度センサーで登場した分光の技術を用います。糖度・熟度・酸度に関連する分子が特定の波長で吸収されることを利用し、農作物に光を当てて糖度・熟度・酸度といった農産物の品質を評価する項目を測定できます。光を用いることで、果実を切るといった工程が不要になり、かつ収穫前に測定することもできるので、収穫時期の判断にも役立ちます。

光合成を行う際に欠かせない細胞色素であるクロロフィルを測定するセンサー、植物の健康度や生育度を測定するセンサー(NDVI:正規化植生指数)センサーなどもあげられます。

 

参考文献:中村恵二 『図解入門業界研究 最新農業の動向としくみがよ~くわかる本』(秀和システム、2023年)

参照サイト

(2024年12月21日閲覧)

テクノロジーカテゴリの最新記事