日本の農業において、農業従事者の減少や高齢化などによる労働力不足の問題は誰もが知るところとなっています。65歳以上の高齢者の割合は約70%といわれ、その割合は増え続けているのが現状です。労働力不足は農業に限らず、他産業でも問題となっており、労働力不足のさらなる加速が各産業で危惧されています。
そんな現状を打破するために注目を集めているのがICT(情報通信技術)やRT(ロボットテクノロジー)の活用です。
テクノロジー活用に期待されること
ICTやRTを活用したスマート農業は、農作業の自動化や省力化に効果を発揮すると期待が高まります。
総務省が公開する資料『スマート農業の展開について』には、スマート農業の効果が以下のように記されています。
① 作業の自動化
ロボットトラクタ、スマホで操作する水田の水管理システムなどの活用により、作業を自動化し人手を省くことが可能に
② 情報共有の簡易化
位置情報と連動した経営管理アプリの活用により、作業の記録をデジタル化・自動化し、熟練者でなくても生産活動の主体になることが可能に
③ データの活用
ドローン・衛星によるセンシングデータや気象データのAI解析により、農作物の生育や病虫害を予測し、高度な農業経営が可能に引用元:スマート農業の展開について
しかしテクノロジー活用にはまだまだ課題もあります。
農業ロボット導入の課題
まず、現状ではどうしても導入コストが高価になってしまうことが挙げられます。国立研究開発法人科学技術振興機構が運営する産学官連携ジャーナルのウェブサイトで公開されている記事では、東京大学大学院教授の深尾隆則氏が、日本ではさまざまな品種が栽培されており、それぞれの品種の生育特徴や品質をカバーするロボットを開発しようとするとコストが高くなってしまうことを指摘しています。
農業ロボットの導入コストが高価になってしまうと、経営規模が小さい農家はその導入コストの回収が難しくなってしまいます。
令和4(2022)年農業構造動態調査によれば、農業経営体の経営耕地面積の規模は10ha以上の農業経営体は59.7%を占めており、10ha以上の経営体は増加傾向にあります。とはいえ、2020年農林業センサス結果の概要によれば、経営耕地のある農業経営体の1経営体当たりの経営耕地面積の平均は3.1ha(北海道30.2ha、都府県2.2ha)で、ロボットを効率的に利用するのに十分な圃場とはいいにくいのが現状です。
一定以上の営農規模がなければ、ロボット導入の投資効果は得られないと考えられますが、日本は中山間地域が多く、大規模化が難しい現状も課題として挙げられます。
また日本特有の農業ロボット導入の障壁として、作物の外観に対する高い品質が挙げられます。収穫ロボットを開発する場合、スピーディーに作業が行えるだけでなく、収穫物に傷がつくことがないような高精度の動きも求められます。求められるニーズに応えられるような開発は進められているはずですが、そんな農業ロボットが低価格で提供されるには時間がかかることが予想されます。
2030〜2040年に期待されること
ですが、農業ロボットが導入しやすい現場では2030〜2040年に導入が進むことが予想されています。たとえばイチゴやトマトなどを栽培する施設園芸では、栽培される作物が高価格で販売することができる高付加価値作物であることから、導入コストの回収が見込みやすいといえます。また、露地栽培に比べて栽培環境をコントロールしやすいことも導入しやすさにつながります。2040年頃には、栽培管理や収穫に役立つロボットが連携し、効率よく栽培を行う大規模な施設園芸の普及が期待されています。
また、今後開発が進むことが期待される技術には、人手で行われていることも少なくない収穫後の選別やコンテナ詰め込み等の作業の自動化、圃場から集荷場などへの運搬の自動化なども挙げられます。
ただし、産学官連携ジャーナルのウェブサイトで深尾隆則氏が述べている通り、自動化やロボット化は労働力不足の問題を解消するものになり得ますが、地域の人口減少を食い止めるものにはならないと考えられます。労働力不足の問題を解決する手立てとしてスマート農業を活用しながらも、農業従事者や地域の人口を増やす取り組みは並行して行うことが求められます。
参考文献