日本の農業の課題である農業従事者の高齢化と労働人口の減少を解決するために、農業分野ではIoT・ICT技術を活用したスマート農業の発展が期待されています。スマート農業を推進する日本政府は
2025年までに農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践
と打ち出しています。
しかしスマート農業関連の農機やシステムは、
- 同じメーカーの機器を利用しないとデータ通信が行えず相互連携に欠けている
- ターゲット層を国内に向けていることから国際標準化に対応できていない
などの点が課題として挙げられます。
そこで注目を集めているキーワードが「AgGateway Asia」です。
AgGateway Asiaとは
まずは“AgGateway”について。AgGatewayとはアメリカ発祥の非営利団体で、スマート農業の国際標準化の促進を目指す組織です。農業関連メーカーや流通業者が、スマート農業全体での標準化等を確立するため、その情報交換を行うために作ったプラットフォーム(商品や情報などと人をつなぐ「場」)です。
AgGatewayの目的は、スマート農業への移行の推進や、効率、生産性を高めるために情報の活用を拡大していくこと。そのために、参加しているさまざまな企業が協働し、情報のやりとりをしています。
AgGateway は、データを連携、相互運用したいと考える企業のシステムが繋がる仕組みをオープンに提供し、その仕組みを使えると判断した企業はとりあえず必要なものを実装していくというボトムアップでの方法をとっている。様々な企業が連携、相互運用の仕組みをとりあえず使っていく中で標準が定まっていき、それをオープンにすることで、さらに多くの企業がその仕組みを活用するようになる展開を図っている。
AgGatewayは現在、北米、ヨーロッパに広がり、ニュージーランド・オーストラリアとラテンアメリカにも設立予定です。
そして“AgGateway Asia”はいわば、そのアジア版。2018年10月に、日本国内の農業ITベンチャー企業や研究者を中心に設立されました。スマート農業分野の国際標準化の流れに日本が積極的に加わることを目的としています。
WAGRIとの違い
AgGatewayのアジア版ともいえるAgGateway Asia。しかし日本には、AgGatewayのプラットフォームにも似た『WAGRI』がすでに存在しています。
『WAGRI(農業データ連携基盤)』は、スマート農業関連の農機やアプリなどが相互連携できていない現状の解決策として構築されたデータプラットフォームのこと。WAGRIには、民間企業や官公庁などが提供する気象や土地、地図情報、圃場ごとの作業情報などが整備されています。
WAGRIもAgGatewayもデータ連携・共有・提供機能を有しており、その目的もほぼ同じです。ただ、WAGRIが「国内」の標準化を進めているのに対し、AgGateway Asiaは、日本のガラパゴス化※を避け、「国際」標準化に対応することを目的としています。
※ガラパゴス化
日本の技術やサービスなどが、世界標準とは異なる形で国内市場に最適化するように独自の発展・進化を遂げていること。大陸から隔絶された南米のガラパゴス諸島で、生物が独自に進化したことになぞらえた表現である。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)
とはいえ、AgGateway Asiaが「国内」の標準化に目を向けていないわけではありません。そのため、「WAGRIとAgGateway Asiaは競合になるのでは」という声もあがっているようですが、今後は互いに不十分な部分を補う関係を築くことを目指すようです。
世界の情報共有も期待される
現在加入している会員は日本の4団体のみですが、ベトナムやマレーシア、タイと連絡、調整をとっている段階とのこと。AgGatewayのアジア版とも言えるAgGateway Asiaですが、設立の背景には、AgGatewayの活動に参加し「世界の農業分野の情報を共有する」という目的もあります。
AgGateway Asiaにより国際標準化が進展すれば、スマート農業分野の市場が海外にまで一気に広がるかもしれません。
参考文献
- 窪田新之助、山口亮子、『図解即戦力 農業のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』、2020年7月3日、株式会社技術評論社
- 農業データ連携基盤=WAGRIは、日本の農業に何をもたらすのか? – 日経ビジネス電子版Special
- (1)スマート農業の推進状況と活用可能性 エ スマート農業を支える農業データ連携基盤の構築:農林水産省
- 国際標準化につながる可能性がある事案の収集等:農林水産省
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