農業従事者の高齢化により、後継者や農業の担い手が不足するといった課題が深刻化しています。そんな中、農作業を代行する「農業支援サービス」に注目が集まっています。
農業支援サービスにはどんなサービスがあるのか
農林水産省は農業支援サービスを“農作業や農業経営をサポートする有償のサービス”と定義しており、そのサービス内容を大きく4つに分類しています。
- 作業受託
- 機械設備の供給
- 人材供給
- データ分析
作業受託
作業受託は播種や防除、収穫などの農作業を代行し、農業者の作業負担を軽減するサービスを指します。
機械設備の供給
機械・機具のリース・レンタル、シェアリングを行い、農業者の機械設備導入コストを低減するサービスです。
人材供給
農業現場に人材を派遣するなどの事業です。
データ分析
農業関連データを分析し、生育状況の計測・数値化したり、課題解決の方法を提供するなどのサービスが挙げられます。
農業支援サービスの事例
例えば作業受託には、ドローンによる防除作業などが挙げられます。JA等が行っている農業支援サービス事業についていくつか事例を紹介します。
JA鹿児島県経済連は令和元年から若手職員6名をドローンのオペレーター(ドローンを操縦する人)として育成し、鹿児島県域で防除作業の受託を行っています。噴霧器による防除作業からドローンで代行作業を行うことで、1haあたり約2時間かかっていた防除作業が約15〜30分で完了するなど、作業時間の短縮に貢献しています。
滋賀県のJAレーク大津は、平成30年からドローンを導入し、農薬散布を開始しています。令和元年からはドローンを利用した水稲及び緑肥作物の播種受託を開始しています。
農林水産省の資料「令和2年度農業分野におけるドローンの活⽤状況」には、民間事業による興味深いドローン活用事例もあります。サイトテック株式会社の事例では、フックを吊り下げたドローンで収穫作業後の茶葉の運搬を代替する技術が紹介されています。
上記資料にはさまざまな事例が紹介されています。農業支援サービスの具体例を知ることができるので、興味のある方はぜひ一度目を通してみてください。
農業支援サービス事業者情報を見てみる
農林水産省のホームページを見ると、農業支援サービス事業者情報が公開されています。サービスの概要や対象地域・品目、サービスを利用する際にかかる料金などの情報を確認することができます。下記URLは事業者リストの概要版(PDFファイル)です。
エクセルファイルで掲載されている「全体版」では、サービス内容や対象地域などについて、エクセルのソート(並び替え)機能を用いて検索がかけられるようになっています(下記URLの2. 農業支援サービス事業者情報、<とりまとめ資料>に記載されています)。
利用実態調査からわかってきた今後の課題
令和3(2021)年7月に農林水産省が「農業支援サービスに係るニーズ等調査結果報告」を公開しました。アンケート調査は以下の通り行われました。
日本農業法人協会の会員999件を対象に、2020年11月9日〜11月24日までアンケート調査を実施。株式会社日本総合研究所に委託のうえ調査を実施。
引用元:農業支援サービスに係るニーズ等調査 結果報告(概要)資料1ページ
アンケート調査より、1.5ha〜0.3ha未満までの小規模層、2〜30haまでの中・大規模層であれば、農業支援サービスの利用実績は増加傾向にあるものの、30ha以上の相当大規模層以上になると利用実績は低下傾向となることがわかっています。
またサービスの利用意向がない理由については、小規模層は「必要なサービスがない」、中・大規模層は「必要なサービスがない」に次いで「公開されている情報の不足」が、相当大規模層は「公開されている情報の不足」が多くなる結果となりました。
下記に層別の回答を降順に示します。%はアンケート調査における該当する層の平均値を出したものです。
小規模層の回答
- 必要なサービスがない 77.9%
- 価格が高い 10.4%
- 公開されている情報の不足 8.7%
- どのサービスを選べばよいかわからない 3.0%
- その他 0.0%
中・大規模層の回答
- 必要なサービスがない 32.92%
- 公開されている情報の不足 32.52%
- どのサービスを選べばよいかわからない 14.54%
- 価格が高い 10.98%
- その他 9.04%
相当大規模層の回答
- 公開されている情報の不足 30.2%
- 必要なサービスがない 24.5%
- どのサービスを選べばよいかわからない 20.5%
- 価格が高い 17.8%
- その他 7.0%
「必要なサービスがない」「サービスの情報が少ない」というのは今後の課題になりそうです。
また作業受託を利用すると仮定した場合に、依頼したい作業の内容について、資料中に記された水稲に関するコメントが興味深かったです。
水稲では春作業(播種・植付)と秋作業(収穫)が繁忙期となる一方、これら作業において専門作業受注型サービスを利用したいと回答した者が少なかった。
引用元:農業支援サービスに係るニーズ等調査 結果報告(概要)資料6ページ
依頼したい作業の項目は
- 耕起・整地
- 施肥
- 播種・植付
- 水管理・かん水
- 農薬散布・除草
- 受粉
- 摘花
- 収穫
- 運搬
- その他
事業種類ごとの依頼したい作業内容トップ3をまとめてみると以下のようになります。
単位(%)
事業種類 | 回答件数 | 1位 | 2位 | 3位 |
水田作 | 114 | 農薬散布・除草(43.0%) | 水管理・かん水
(29.8%) |
耕起・整地
(9.6%) |
畑作 | 26 | 農薬散布・除草
(34.6%) |
収穫
(30.8%) |
耕起・整地
(15.4%) |
露地野菜 | 62 | 収穫
(37.1%) |
農薬散布・除草
(27.4%) |
播種・植付 (14.5%) |
施設野菜 | 51 | 収穫
(39.2%) |
農薬散布・除草
(21.6%) |
その他
(11.8%) |
果樹作 | 24 | 収穫
(33.3%) |
農薬散布・除草
(25.0%) |
その他
(20.8%) |
花卉作 | 13 | 農薬散布・除草
(30.8%) |
播種・植付
(23.1%) |
水管理・かん水
収穫 その他 (15.4%) |
畑作、露地野菜、施設野菜、果樹作のトップ3内に「収穫」が入っているのを見ると、水田作の依頼したいサービスに「収穫」がないのは意外に感じられるかもしれません。
また全てのトップ3に「農薬散布・除草」が入っています。先で紹介したドローンを活用した作業受託サービスには今後も需要があるように思えます。
参考文献