2018年4月1日、主要農作物種子法(以下、種子法)が廃止されました。
種子法は「主要農作物であるコメや大豆、麦など野菜を除いた種子の安定的生産及び普及を促進するため」に制定された日本の法律です。戦後の食糧難などの背景から制定されましたが、日本政府は「種子法は現代においてその役割を終えている」と説明し、2017年3月23日に「主要農作物種子法を廃止する法律」を成立させました。
種子法廃止のニュースが大々的に報道されることはありませんでしたが、種子法廃止の理由や問題点等が国民にしっかりと伝わっていないことから、廃止された今でも話題となっています。
種子法が廃止された理由
種子法廃止の理由のひとつとして「(種子生産への)民間企業の参入を促すため」という理由が挙げられます。昨今、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)など、日本はグローバル化を推し進めています。世界と競争できる力をもつ民間企業が種子生産に参入しやすくなるよう、規制を緩和する目的で廃止されたのではないかと言われています。
日本政府は種子法の仕組みについて「民間の品種開発意欲を阻害している」と考えました。種子法では、都道府県の種子生産は国の財源によってまかなわれていました。種子法が廃止される前も民間企業が参入することは可能でしたが、民間企業は生産にかかる費用等を自分で用意しなければなりません。「民間の品種開発意欲を阻害している」という考えは、「種子生産における、都道府県と民間企業の競争条件が対等ではない」とも言えます。
種子法を廃止すれば、種子生産を国が指導するという形はなくなり、都道府県と民間企業の競争条件は対等になります。参入しやすくなった民間企業が、世界と競争する力を持てば、グローバル化が推し進められることに期待が高まります。
しかし民間企業の参入は、より大きな力をもつ外国企業の参入ハードルを低くしたとも言えます。
種子法廃止の問題点
種子法廃止の問題点として「競争力の強い外国企業の参入が増える」ということが危惧されています。種子システムにくわしい龍谷大学経済学部の西川教授は、生産意欲の弱い農作物においては、国が種子を支えなくなることで、その大半が「海外産の遺伝子組み換え農作物」になるのではないかと懸念しています。
世界では「種子の支配」が進められていると言われています。競争力の強い民間企業が種子等の遺伝資源(遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物、その他に由来する素材のうち、現実の、又は潜在的な価値を持つもの)を囲い込んでいるのです。
もちろん種子法を廃止したからといって「種子の支配」が必ず起こるというわけではありませんが、民間企業が「種子の保存」ではなく「利益」ばかりを追い求めたらどうなるでしょうか。同じ品種を効率的に生産することを選ぶのではないでしょうか。そのほうが生産コストを低くして、大量に種子を売ることができます。そうなると、消費者が選ぶことができる農作物の幅は狭まってしまいます。
- 生産意欲の弱い農作物が、民間企業の農作物に置き換えられる
- 同一品種の大量生産が考えられ、消費者の選択の幅が狭まる
これらの問題点が不安視されていますが、種子法廃止はすでに施行されています。
しかし「種子の支配」から種子を守るために、世界各地でそれに対抗する運動も起きています。また日本でも「農業ジーンバンク(あらゆる種子を保管しているところ)」が種子を貸し出しています。効率的な農業によって生産されなくなった農作物を、再び地域特産品としてよみがえらせようとする地域もあります。
種子法廃止は2018年4月1日に施行され、すでにその影響を感じとっている農業従事者もいるのではないでしょうか。種子法廃止で考えられる問題点を回避するためには、「種子の保存」という視点から、種子法を見つめ直すことが重要なのではないかと考えます。
参考文献