今更聞けないカルタヘナ法。遺伝子組換え・ゲノム編集農作物に関わる法律とは

今更聞けないカルタヘナ法。遺伝子組換え・ゲノム編集農作物に関わる法律とは

昨今「ゲノム編集技術」が注目されています。ゲノム編集技術は遺伝子組み換え技術と比較して低コストであり、植物や動物の遺伝子操作を早く、大胆に行うことができます。そんな注目の技術に対し、アメリカの農務省は、ゲノム編集技術を使った農作物の栽培・販売に関する規制をかけないことを明らかにしています。

その一方で、遺伝子組み換え技術の問題点がゲノム編集技術にも当てはまるのではないかと物議を醸しているのも事実です。遺伝子組み換え技術は生物多様性に悪影響を与えるのではないかと危惧されています。

そんな遺伝子組換え技術に対して、日本国内では「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性を確保に関する法律」、通称「カルタヘナ法」が、生物多様性に悪影響が及ばないことを目的に規制をかけています。本記事では、新しい技術であるゲノム編集技術に大きく関わる「カルタヘナ法」について紹介していきます。

 

 

カルタヘナ法

【今更聞けないカルタヘナ法。遺伝子組換え・ゲノム編集農作物に関わる法律とは|画像1】

 

カルタヘナ法とは、遺伝子組換え生物等の使用等について規制することで、生物多様性を確保するために制定された法律です。この法は、生物多様性に影響を及ばさないかどうかの事前審査や適切な使用方法について定められています。そのため、この法律によって安全性が確認されるまでは、遺伝子組換え生物の屋外での栽培、生育は禁止されます。

カルタヘナ法の正式名称内には”使用等”とありますが、これは遺伝子組換え生物等を用いて行うあらゆる行為のことを指します。大きく、

  • 第一種使用等
  • 第二種使用等

と分けられています。

第一種使用等では遺伝子組換え農作物の輸入したり栽培したりすること、遺伝子組換え生ワクチンを動物へ接種することなど「遺伝子組換え生物等の環境中への拡散を完全には防止しないで行う行為」を指します。

第二種使用等では遺伝子組換えマウスを工場内で飼養したり、動物用医薬品工場内で遺伝子組換え微生物を生産したりするような「遺伝子組換え生物等の環境中への拡散を防止しつつ行う行為」を指します。

いずれにせよ、カルタヘナ法の目的は「生物多様性への愛影響を未然に防止すること」です。そのために、あらゆる行為に対して拡散を防止するための規制を設け、生物多様性の維持に努めているのです。

 

 

遺伝子組換え・ゲノム編集農作物との関わり

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カルタヘナ法で厳しく規制される遺伝子組換え技術ですが、ゲノム編集技術については規制が少々緩和されています。環境省の中央環境審議会自然環境部会はゲノム編集技術に関する規制について審議を続けてきましたが、2018年8月30日に「外部から遺伝子が組み込まれない場合は規制の対象外とする」という方針を決めました。

ゲノム編集技術は、基本的には標的とするDNAの塩基配列を切断する技術です。その基本技術を基に、3つの技術に分類することができます。それらは、

  1. 塩基配列を酵素で切断するだけの技術
  2. 標的の塩基配列を切断する際、切断部分の塩基配列を一部変更したDNA断片を細胞に移入する技術
  3. 外来遺伝子を組み込んだDNA断片を細胞に移入する技術

があります。このうち1,の技術、単純に切断するだけの技術に関しては「規制の対象外とする」という方針となったのです。

カルタヘナ法の遺伝子組換え技術に関する規制は「DNA断片が導入されているかどうか」で定義されています。そのため1,の技術であれば、DNA断片の導入は認められないので規制対象とする必要はないのでは?という考えに至ったのです。またDNA断片と同じ「核酸」であるRNA(リボ核酸)を活用するゲノム編集技術もありますが、こちらも対象外となりました。この技術の場合、DNAを切断する酵素(タンパク質)の代わりにRNAを活用します。核酸を移入することになるため、一見すると規制対象になりそうな技術ではありますが、切断部分が修復する際RNAは消失するため、対象外となりました。

 

 

ゲノム編集農作物等に対する世界の考え方

【今更聞けないカルタヘナ法。遺伝子組換え・ゲノム編集農作物に関わる法律とは|画像3】

 

規制対象外となった「切断のみ」のゲノム編集技術ですが、環境省の担当者は「”カルタヘナ法”上の『遺伝子組換え生物」に該当しないとしただけであり、安全であるとは言っていない」と安全性については言及していません。この「安全性」に対する考え方の違いから、ゲノム編集技術に対する世界の意見はさまざまです。

ゲノム編集にも厳しい規制をかけたのは欧州です。欧州司法裁判所(ECJ)は2018年7月25日「遺伝子組換え技術と同様規制対象にすべき」との判断を下しました。そのため、冒頭で紹介したアメリカ農務省の考えとは相反するものとなりました。

安全性に対して厳しい規制をかけた欧州ですが、この新しい技術に規制がかかったことで「発展途上国の農業が停滞するのでは」と危惧する専門家もいます。例えばアフリカでは、作物の品種改良を促進するためにゲノム編集技術が利用され始めたばかりでした。ゲノム編集技術によって、発展途上国が抱える農業関連の問題が解決されるかもしれないのです。しかし厳しい規制がかかってしまえば、発展途上国の農業発展は見込めません。

 

遺伝子組換え・ゲノム編集技術は、さまざまな観点から議論が交わされ続けています。すぐに答えを導き出せる技術ではありませんが、今の時代だからこそ発展と遂げた新しい技術であることは事実でしょう。今後も動向を確認していきたいものです。

 

参考文献

  1. 米農務省による「規制解除」が、ゲノム編集作物の普及を加速する
  2. カルタヘナ法とは 農林水産省
  3. カルタヘナ法に基づく生物多様性の保全に向けた取組
  4. ゲノム編集技術 一部を規制対象外へ-環境省
  5. 【EU】欧州司法裁、ゲノム編集作物にもGMO規制適用と判断。農業関連企業は対応必須
  6. 遺伝子編集された作物への厳しい規制は、食糧難のアフリカを苦しめる

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