2020年、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。それに伴い、食料調達基準として「GAP」に注目が集まっています。農産物の安全基準であるGAP認証について耳にする機会も増えたかと思いますが、GAPといっても「GLOBALG.A.P.」や「JGAP」、「AGIAGAP」とさまざまな名称があるのをご存知でしょうか。
そもそもGAP認証とは
「GAP(Good Agricultural Practice)」は直訳すると「良い農業の取り組み」を意味します。
農業による
- 食品の安全性の保持
- 労働者の安全確保
- 環境保全
への基本的な取り組みを指します。
食料調達基準として注目が集まったことから「農産物の安全性」へのイメージが強いかもしれませんが、農業に携わる労働者や環境への配慮も「GAP」の取り組みのひとつです。
「GAP」でチェックされる項目について具体例をあげると、
- 農作物を洗う水は衛生的かどうか
(飲んでも害がないか) - 農薬はラベルに記載された用法・用量を守って使用されているか
- 農作物の保管は、清潔に保たれた施設で行われているか
- いつ、どのほ場で、どのような作業を行ったか記録されているか
などが挙げられます。
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、競技期間中に選手村で提供される食材の基準として「国際基準を満たしたGAP認証を受ける」ことが定められました。2017年時点で「GAP認証を受けている日本の農業経営体が全体のわずか1%にも満たない」ことが明らかになったのがきっかけで、GAP認証が強く推奨されるようになりました。
「GLOBALG.A.P.」、「JGAP」、「AGIAGAP」の違い
GLOBALG.A.P.(以下、グローバルGAP)
FoodPLUS社(ドイツ)が運営主体の世界基準の農業認証です。
グローバルGAPは「GAP」の説明で紹介した
- 食品の安全性の保持
- 労働者の安全確保
- 環境保全
に取り組む優良企業だけに与えられる世界共通ブランドです。ヨーロッパに対象農作物を輸出する場合には、グローバルGAPの認証は欠かせません。ヨーロッパ以外でも、グローバルGAP認証を輸入の受け入れ条件として定める国が増えつつあります。
JGAP
かつては「JGAP Basic」と呼ばれていました。食の安全や環境保全に配慮した活動を行う農場に与えられる日本発の認証制度です。日本国内でもっとも主要なGAPと言われています。
JGAPは
- 青果物
- 穀物
- 茶
が対象農作物です。
ASIAGAP
かつては「JGAP Advance」と呼ばれていました。JGAP同様、日本発のGAP認証制度で、食の安全や環境保全に配慮した活動を行う農場に与えられます。
対象農作物は
- 穀物
- 青果物
- 茶の生産と管理
です。
「JGAPとAGIAGAPに違いはあるのか?」と疑問に思った方もいるかと思います。それぞれの微妙な違いについて以下に記載します。
グローバルGAPとJGAP、AGIAGAPは目的が違う?!
まずはグローバルGAPとJGAP、AGIAGAPの違いをざっくり分けます。
- グローバルGAP:欧州発。小売業側が生産者の環境保全型農業への取組を評価するためにできたもの
- JGAP:日本発。国内の生産法人、小売業等が参加。食の安全や環境保全への取組を評価するためにできたもの
- ASIAGAP:日本発。GFSI (世界食品安全イニシアチブ) 承認の国際規格として展開することを目指すためにできたもの
となります。
「ASIAGAP」で登場したGFSI は、世界の多種多様な食品安全認証プログラムの価値を同じにするためのプログラムを運用しています。いわば「食品安全認証の世界基準」と言ったところでしょうか。
欧米では、このGFSIに承認された認証を取得しているかどうかが、取引の条件になることもあります。そこで日本は、日本発の民間認証が国際的に通用する規格になるため、認証件数の多いJGAPをベースに、GFSIの要求事項に応じて改訂を行いました。それがASIAGAPです。
グローバルGAP、JGAP、AGIAGAP以外にもGAP認証がある?!
紹介した3つのGAP以外にも、
- 都道府県版GAP
- 生協版GAP
- イオン版GAP
- 農協版GAP
など、さまざまなGAPが存在しています。それぞれ細かな規定は異なりますが、GAPの基本的な部分
- 食品安全の向上
- 労働安全の確保
- 環境負荷の低減
は同じです。
GAPの選び方
色々なGAPがありますが、どの認証を選ぶかのポイントは「販売先」にあります。
- グローバルGAP:欧州市場に輸出したい人は必須
- JGAP:国内に向けて販売したい人におすすめ
- AGIAGAP:国内の大手スーパーやアジア市場に向けて販売したい人におすすめ
販路を拡大したいのであれば「グローバルGAP」の取得を視野に入れましょう。「グローバルGAPがなければ輸出が始まらない」といっても過言ではありません。また「グローバルGAP」の認証を取得する中で「生産工程の明確化」が必要になりますが、そのおかげで生産性の向上が見込めるという利点もあります。そもそもGAP認証取得に励むことで「食の安全」「労働の安全」「環境保全」が損なわれるようなことはまずありません。
とはいえ、GAP認証は決して簡単なものではありません。費用もかかります。そのため、身近なGAPの取得からはじめて、徐々にステップアップすることをおすすめします。例えば、まずは国内のGAP認証である「JGAP」を取得し、その後アジア市場に向けて「AGIAGAP」にステップアップするのもおすすめです。
参考文献