昨今、日米間で協議されている貿易協定が注目されています。
報道では、日米間で「TAG(物品貿易協定)」か「FTA(自由貿易協定)」かで、貿易協定の認識にズレが生じているとされています。
日本は「農産物や鉱工業品など物品に限定して関税の引き下げを話し合う協定」として認識しているようですが、アメリカはFTAを視野に、幅広い分野の物品に対する貿易自由化を目指しているようです。
そこで本記事では、貿易協定の認識のズレが懸念されている「FTA」について着目し、そのメリット・デメリットや日本の農業への影響について解説していきます。
FTAのメリット・デメリット
FTAは「自由貿易協定」を意味します。物品によって関税を0にしたり削減したりすることが目的であり、協定を結んだ国同士で行われます。
<メリット>
FTAのメリットは「関税の軽減・免除」です。
関税率というのは、それぞれの国で独自に決めることができます。ただしWTO(世界貿易機関)に加盟する場合には、WTO協定税率にのっとり、関税を低く抑えるルールに沿う必要があります。これは世界各国で貿易を促進させることが目的です。そのため、WTOに加盟している場合には、互いに協定を結ばない限り「ある国だけ限定して税率をアップ」「ある国だけ限定して税率ダウン」は原則としてNGとなります。
FTA協定を結べば、交渉によって段階的に関税を軽減・免除していくことができ、WTO協定税率で生じる関税の影響を変容させていくことができるのです。
<デメリット>
“交渉によって段階的に関税を軽減・免除していくことができ”と紹介しましたが、この点がFTAのメリットでもあり、デメリットにもなるところです。協定の内容によっては、関税の軽減・免除により、自国産業に大きな影響が及ぶ可能性もあるからです。
関税は「国外から輸入される安い物品から国内の高い物品を守るためのもの」と考えるとわかりやすいです。関税を課し自国産業を守っている状態から、自由に貿易ができるようになると、安い海外製品が消費者のもとへ届きやすくなります。消費者からすれば「安いに越したことはない」とありがたい制度かもしれませんが、その国の基幹産業の発展を滞らせてしまう可能性もあるのです。
日本の農業への影響は
自由貿易によって、農業に大きな影響が及ぶのではないかと懸念されています。「食料自給率向上」を目指す日本は、コメに高い関税を課し、高い農産物価格を維持していました。FTAにより関税が軽減・免除されれば、農産物の輸入量は増加することでしょう。それにより食料自給率が低下するのではないかと考えられています。現時点では、日本は関税の軽減や免除に抵抗する姿勢をとっています。
今後の展開について、農業従事者が備えておきたいこと
日米の貿易協議がどのような結果に転んでもいいように、農業に起こり得る影響に対する備えが必要なのではないでしょうか。
ここで興味深いFTA戦略を行なっている韓国の例を紹介します。
韓国は昨今、国際社会において強い存在感を発揮しています。経済規模は決して大きくはありませんが、90%を超える貿易依存度の現状を踏まえた上で、FTAによるリスクも承知で、積極的に自由貿易に向き合う姿勢を見せています。
ただし、国内農業において主食のコメに関しては適用を除外していると言います。適用除外品をハッキリと定めた上で、それ以外は自国の農産物を積極的に輸出し、国際競争力を高めようという姿勢のようです。韓国の輸入農産物比率は50%を超え、主に中国からの安い農産物との競争を強いられていますが、それでも攻めの姿勢を見せているのです。
日本の農産物は、品質の高さや安全・安心といった“信頼”されるセールスポイントがありますから、韓国のように強気な構えを見せる準備をしておいてもいいのではないでしょうか。