改正された「食料・農業・農村基本法」。改正前後の違いについて。

改正された「食料・農業・農村基本法」。改正前後の違いについて。

2024年4月19日、日本の農業政策の基本方針を定める「食料・農業・農村基本法」が、施行以来初めて改正されました。この改正は、気候変動や国際情勢の不安定化、日本の食料輸入力の低下といった複合的な課題に対応するために行われたものです。

背景には、地球温暖化による干ばつや収量低下などのリスクが挙げられます。特に、ロシアのウクライナ侵攻による穀物供給の停滞は、国際市場での価格上昇と変動を引き起こしました。

さらに、日本は円安や少子高齢化による経済力の低下により、食料輸入において他国との競争で不利な立場にあります。過去四半世紀で世界の農産物取引規模は3.5倍に拡大し、食料輸入国としての日本の存在感は低下。一方で中国が食料輸入市場を主導しています。

国内の食料自給率も低下を続けています(1998年から2021年までに40%から38%に低下)。加えて、下記の農林水産省の資料によると、輸入に依存する穀物や油糧種子では輸入量に相当する生産を国内でまかなうことが不可能な状況にあります。

穀物、油糧種子について、その輸入量を生産するために必要な海外の農地面積は日本の農地面積の2.1倍に相当し、すべてを国産で賄うことは不可能。

引用元:自給率の変化要因:食料消費構造の変化

このような課題を踏まえ、農林水産省は国産野菜の利用拡大など自給率向上を目指すと同時に、安定した輸入を維持する構想が求められています。

「食料・農業・農村基本法」改正の主な狙いは、①食料安全保障の強化、②環境と調和した農業への転換、③人口減少下での農業の維持・発展、④農村コミュニティの維持であり、持続可能な農業の実現と食料供給の安定を図るための重要な一歩といえます。

 

改正によりどんな違いが生じたのか

改正された「食料・農業・農村基本法」。改正前後の違いについて。|画像1

 

改正前は農業の発展と農業従事者の地位向上が目的とされていましたが、改正後は農業分野に限らず、食料・農村の分野まで対象が拡大されています。

先述した改正の主な狙い4つに新たな理念と施策が加えられています。

食料安全保障の強化

改正前は食料の安定供給に関する概念が漠然としていました。

改正後は食料安全保障が中心に据えられており、国民一人ひとりが必要な食料を確保できる状態を重視しています。

新設された第19条では、食料の円滑な入手手段を確保する取組として物流拠点の整備や産地から消費地までの幹線物流対策といった輸送手段の確保、食料寄付を通じたフードバンクなどの取組を促進する環境整備について明記されています。

第21条の農産物等の輸入に関する措置についてはその内容が拡充され、輸入先国の多様化や、民間企業による主要生産国への投資支援が記されています。新設された第22条は輸出の促進を目的とし、輸出産地の育成や販路拡大の支援、知的財産権の保護などが強調されています。

環境と調和のとれた食料システムの確立

改正前は、農業の発展が主に生産者中心に進められていました。

改正後は環境負荷の低減も重視されています。第20条では食品産業の健全な発展に向け、環境負荷の低減を図るための事業活動の促進等が追記されました。また、新設された第32条には農業における環境への負荷を低減するための具体的な施策が盛り込まれ、農薬や肥料の適正使用、環境負荷の低減に資する生産方式の導入などが求められています。

人口減少下での農業生産の方向性

人口減少に伴う農業従事者の減少や生産基盤の縮小に対応するため、改正後は農業の持続可能性を確保するための具体的な施策が追記されています。たとえば拡充された第26条や第27条では、効率的かつ安定的な農業経営を行うために、地域で協議しながら農業生産活動を支える担い手の確保を進めています。さらに新設された第30条では、先端技術の導入や省力化や多収化を目指した新品種の開発が推進され、生産性向上を図ることが明確にされました。

農村の地域コミュニティ維持

改正後は、人口減少に伴う農村コミュニティの衰退を防ぐため、農村の資源を活用した地域活動の促進が求められています。新設された第44条と第45条では、農地保全のための共同活動の推進や農村関係人口の増加を図るための事業活動が規定され、地域資源を活用した産業づくりや観光促進などが支援されています。また、同じく新設された第48条では鳥獣害対策として、農地への侵入防止やジビエ利用の促進が加えられています。

 

 

改正により、広範な枠組みとして位置付けられた

改正された「食料・農業・農村基本法」。改正前後の違いについて。|画像2

 

冒頭でも述べた通り、改正前の基本法では農業の発展が中心に据えられ、農業従事者の地位向上が主な目的となっていました。改正後は農業分野における多面的な課題に対応しています。農業の発展を農業従事者の視点だけでなく、国民一人一人の食料供給の確保や環境への配慮、地域の持続可能性などを視野に入れたことが、改正前後の大きな違いといえます。

 

参考文献

  • 中村恵二 『図解入門業界研究 最新農業の動向としくみがよ~くわかる本』(秀和システム、2023年)
  • 事業構想大学院大学出版部編「月刊事業構想2024年7月号『一次産業のDXで農・林・水産の新事業』 」(事業構想大学院大学出版部、2024年)

参照サイト

(2024年12月19日閲覧)

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