生産緑地制度は、都市農地の計画的な保全を図るための制度です。
昭和49(1974)年に制定された「生産緑地法」の第一条には、その目的として以下の一文が記されています。
この法律は、生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資することを目的とする。
国土交通省が公開する資料では、生産緑地制度の概要をこう説明しています。
市街化区域内の農地で、良好な生活環境の確保に効用があり、公共施設等の敷地として適している500㎡以上の農地を都市計画に定め、建築行為等を許可制により規制し、都市農地の計画的な保全を図る。
生産緑地は、固定資産税が農地課税である(生産緑地以外は宅地並み課税)、相続税の納税猶予制度※が適用される、といった税制措置がなされます。
そんな生産緑地制度は時代に合わせて度々改正されています。現在の生産緑地制度の全容を理解しやすくするため、制度の歴史的背景についてご紹介していきます。
※相続税納税猶予制度とは、農地の相続を受けた場合、一定要件のもと、相続税の納税を猶予する制度です。この制度が設けられた背景について、農林水産省はこう説明します。
農業目的で使用している限りにおいては到底実現しない高い評価額により相続税が課税されてしまうと、農業を継続したくても相続税を払うために農地を売却せざるを得ないという問題が生じるため、自ら農業経営を継続する相続人を税制面からも支援するために相続税の納税猶予制度が設けられました(昭和50年度創設)。
出典:農地を相続した場合の課税の特例 (相続税納税猶予制度)
生産緑地制度の歴史的背景
最初の生産緑地制度
最初の制度は、昭和49年に施行されました。この制度は営農義務などの一定要件のもと、農業従事者に税制優遇を行うものであり、市街化区域内の農地は宅地並みの課税が免除されました。
当時、都市化が急速に進行していたものの、都市部における農地は十分とされていました。
また最初の制度では、生産緑地の指定は市街化区域内の農地所有者による任意申請によって行われました。詳細は後述しますが、昭和63(1988)年に定められた「総合土地対策要網」から、市街化区域内の農地が都市計画において「宅地化するもの」と「保全するもの」に明確に区分されるようになりました。
バブル経済下
その後、都市部における市街化が進行します。バブル経済の影響により地価が高騰すると、地価高騰を抑えるための対策として、市街化区域内の農地の宅地への転換が図られます。
昭和63(1988)年に定められた「総合土地対策要網」では、「宅地化するもの」と「保全するもの」の区分が明確化されます。この背景でも、土地を有効利用の促進の一環として、市街化区域内農地の宅地化促進が掲げられていました。
大規模な都市開発が推し進められ、都市農地が次々に宅地化され、市街化区域内の農地が減少していく中、市街化区域内の農地について、市街化を進めたいという声と都市農業の衰退を防ぐために都市農地を保全すべきだという声がありました。
平成3(1991)年には生産緑地法が改正され、市街化区域内の全ての農地は「宅地すべき農地」と「保全すべき農地」の選択を迫られ、申請された「保全すべき農地」が生産緑地として指定されました。そして生産緑地地区のみ、冒頭で紹介した税制措置(固定資産税が農地課税、相続税の納税猶予制度)が適用されました。
現代の生産緑地の位置付け
生産緑地は主たる従事者が亡くなった場合や指定されてから30年が経過した場合、営農を継続する者がいない場合には、市長に対し「買取りの申出」を行うことができます。この際、買い取られなかった場合には、市街化区域内にある以上宅地化することが前提になるといえます(買取りの申し出の流れは、国土交通省の資料に簡潔にまとめられていますのでぜひご覧ください)。
しかし人口減少や高齢化が進む中、市街化を進めたいという声ではなく、都市農業の衰退を防ぐために都市農地を保全すべきだという声が以前より高まりを見せています。
このような背景もあり、生産緑地地区の指定解除時期(30年)が近づく2010年代後半には、面積要件や建築可能施設の緩和などの改正が行われます。加えて「都市農業新興基本法」「都市農地賃借法」といった、都市農業の安定的な継続や都市農業が多様な機能を発揮することで得られる良好な都市環境の形成を理念とした法律が成立しました。
参照サイト
- 生産緑地制度の概要
- 農地関係のリーフレット|東京都農業会議
- 農地法 | e-Gov法令検索
- 東京大学学術機関リポジトリ
- 都市農業を巡る経緯と施策の現状
- 今仲清の生産緑地シリーズ(2) バブル経済がきっかけで新生産緑地制度が誕生
(上記2024年1月9日閲覧)