農家の高齢化や後継者不足で、近年どんどん増え続ける「耕作放棄地」。
誰も耕作しない農地は所有者にとっては持て余してしまうものですが、新規就農者や規模を拡大したい農業法人にとっては、ほぼ無料で借りられる魅力的な土地ですよね。
しかし、耕作放棄地は格安で簡単に利用できる反面、実際に使ってみると「こんなはずではなかった・・」という思わぬトラブルが発生するケースが後を絶ちません。
ここでは耕作放棄地を借りる際の注意点や、農地を仲介する「農地中間管理機構」についてご紹介します。せっかくの貴重な資源である農地を現代のわたしたち生産者の手で有効に活用しましょう。
耕作放棄地の現状
耕作放棄地の定義は
「以前耕地であったもので、過去1年以 上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えのない土地」
となっています。たとえ1年でも誰も耕さなかった田畑は、草が生い茂り、また作物を育てるのに適した環境に戻すには、ある程度時間がかかってしまいます。
しかし、現状では耕作放棄地は着実に増え続けています。国が実施する5年毎の調査結果によると、全国の耕作放棄地は平成22年の39.6万haに対して、最新の平成27年の調査では42.3万ha。そして、耕作放棄地が増えている地域では、景観を損ねる・不法投棄・害虫や害獣が多発する、などのさまざまな問題が発生しています。
では、なぜ耕作放棄地はどんどん増え続けているのでしょうか。
耕作放棄地が耕作放棄地になったわけ
そもそも、その土地が耕作放棄地になったのには理由があります。
それは「誰も使いたがらない土地」だったからです。
いくら担い手不足だからといって、条件がよく作物を育てやすい圃場は、現在でも誰かしらが耕作し続けているものです。
耕作放棄地になりやすいのは、次のような土地です。
・排水する場所がないため水はけが悪い
・農業用水の取水場所が近くにない
・周りに建物が建ってしまい、日当たりが悪い
・変形地で機械が入りにくい
ここで注目したいのは、農村部の都市化が進んだ地域での事例です。農地の周辺道路が整備され、それに伴い農業用の排水路や取水場が塞がれてしまったり、宅地化された地域に取り残された農地の日当たりが悪くなったりすると、いずれも農業環境に適さなくなってしまいます。そのためだんだんと荒地になっていった可能性が考えられます。
また逆に、昔ながらの地形がそのまま残る中山間地でも担い手が不足しています。農作業の多くが機械化されている現代では、中山間地によくある変形地は機械が入りづらく、敬遠されてしまうのが原因です。
しかし、新規就農者や、よそ者にはこういった土地しかまわってこないのが現状です。では、どのようにすれば耕作放棄地を上手く活用できるでしょうか。
耕作放棄地を借りるなら… 「農地中間管理機構」を利用しよう
耕作放棄地を借りる際のトラブルを極力減らすには、「農地中間管理機構(農地バンク)」という国の機関を利用することをおすすめします。
農地中間管理機構とは、今後耕作の意志のない農地の所有者と、そういった土地を利用したい農業者を仲介してくれる機関で、平成26年に全都道府県に設置されています。
この制度を利用すると以下のようなメリットがあります。
・地権者と利用者が個別に直接やりとりしなくてよい
・利用権を交換することにより、バラバラな農地を集積できる
・農地の周辺環境を改善してくれるケースがある
耕作放棄地を借りるにあたって、よく問題になるのが、
・以前の使用者がゴミや瓦礫をそのまま放置している
・隣地との境界がはっきりわからない
などです。しかし、地権者が高齢になっていたり、近くに住んでいなかったりして、こういった問題について話し合いができないケースがあります。そんなとき間に入ってくれる機関があれば、比較的スムーズに問題解決できます。
また、農地を集積すれば、大型の機械を導入できるようになり、生産性を高める効果が期待できるのも大きな利点です。
そして、農地が公道に接していれば、農地の進入路に砂利を敷いてもらう、コンクリートで蓋をされている側溝に圃場から排水できるよう排水溝を設けてもらう、などの改良工事を自治体が請け負ってくれるケースもあります。この点は自治体によって対応が異なりますので、事前に相談してみましょう。
この他にも、耕作放棄地を借りる際は、自分でもできるだけ周辺環境の調査を行うことが大事です。まずは自分のつくりたい作物に適しているかどうか、水はけ・取水環境・日当たりなどの最低限のポイントはしっかりチェックしましょう。
ただし、草の種はたくさん落ちていますので、いくら除草をしても最初の1~2年は草に悩まされる点は覚悟しておいたほうがよいでしょう。
何年も放置されていた場所は、以前どんな使い方をされていたのかがわからないことも多く、耕作放棄地には「使ってみないとどんな土地かわからない」怖さがあります。
しかし、使いながらだんだんと改良を重ねていけば、作物に適した環境を自分でつくり出すことが可能です。そして、自分の手で再生した土地には徐々に愛着がわいてくるものです。国の制度なども上手く利用しながら、農業生産にとって最も基礎的な資源である農地を守り、次世代に残していきたいものですね。