農業の危機となるか否か、夏日が続くことによる農業への影響

農業の危機となるか否か、夏日が続くことによる農業への影響

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近年、日本の気候に変化が生じているように思えます。

日本は春夏秋冬を感じられる国でしたが、「真夏日」と呼ばれる日が増えたように感じます。実際、夏季の高温で農作物が被害を受ける例が多発しています。

2018年4月下旬には真夏日が観測され、ある地域では4月にも関わらず30℃と観測されました。夏日が続くことは、農業へどう影響するのでしょうか。

 

夏日が続くと農業にどう影響するか

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1994年以降、夏季の高温化が顕著になっています。1994年から22年間のデータを見てみると、2015年における「猛暑日(日最高気温35℃以上)」の記録回数は、東日本は22年間で第5位、西日本は第9位でした。猛暑日の記録回数は、顕著な高温化が見られた1994年がもっとも多いのですが、それでも2015年は22年間で上位をしめる猛暑日の多さです。

農業生産において、この高温化は好ましいものではありません。
植物が高温化に置かれると、蒸散作用が高まり、葉の水分量が低下します。植物に著しい変化が起きるのは50℃前後の高温下ではありますが、夏日(35℃以上)も長く続けば農産物に悪影響を与えます。

例えば茎葉が日に焼けてしまうと、見た目や品質に影響します。50℃前後の高温に置かれた植物は、枯死することもあります。この植物への影響は、高温によるタンパク質変性、生体膜構造の破壊が原因と考えられています。

高温は、生殖器官へも影響を及ぼします。植物は花粉を介して子孫を残しますが、その花粉稔性が高温によって低下します。
すると果実を着ける率の低下や奇形の発生が見られるようになります。

また地上に出ている部分だけが影響を受けるわけではありません。むしろ茎葉より地下部のほうが高温の影響を受けやすいのです。
例えばホウレンソウが枯死してしまう地下部の限界温度は35~40℃とされています。35~40℃は近年の真夏日で経験したことのある温度ですよね。夏日が植物に及ぼす影響は大きいのです。

夏日によって影響を受けた農産物の例を挙げていきます。

稲の場合、開花から収穫までの期間の日平均気温が27℃を上回ると「白未熟粒」が多発します。受精したモミは細胞分裂を行い成長する中で、細胞の中にデンプンが詰まっていきます。しかし夏日による高温など強い気候変動が起こると、デンプンが詰まり切らないうちに発育・肥大が止まってしまいます。デンプンの詰まり切っていない細胞は白く見えます。見た目が良くないという点や精米の際、粒が崩れやすい性質があるため、販売されるお米として好ましくありません。

夏日が農産物に与える悪影響は、米だけに留まりません。わかりやすい例だと、果樹の見た目への影響です。みかんの皮が日焼けする、高温で鮮やかな色を呈するアントシアニンの合成が抑制されることによるぶどうの着色障害などが挙げられます。
夏日が与える影響は野菜や果樹の価格高騰にもつながり、消費者の購入意欲を阻みます

 

 

夏日が続くことによる利点も

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一方で、夏日が続くことにより良い影響が得られる農産物もあります。
代表的な例がスイカです。2018年4月中旬に集計されたスイカの日農平均価格は、大玉309円/kg、小玉497円/kgで過去5年間の最も高い価格となりました。
夏日の影響で、暑い季節に求められるスイカの需要が増えているのです。
7月~8月に入る前に夏日が続くことで、農産物の売上が大きく動く例もあるということですね。

また近年の異常気象をふまえ、夏日に耐えられる種の開発も進んでいます。
例えば種苗会社である「サカタのタネ」は夏の暑さに強い春夏向けホウレンソウの新品種を2016年5月から発売しています。夏場でも安定して出荷できることが目的とされており、高温期に発生しやすい病気「萎凋病(いちょうびょう)※」の耐性もあります。約10年という長い時間をかけて開発された品種ですが、夏日が続くようになったからこそ、生産者が求める品種の開発が進んだとも言えるでしょう。

※日中に下葉がしおれ、そのしおれが徐々に上部へと浸透し、葉の退色や着果不良を引き起こす病気

 

 

今後の気候変動に関する対策

利点も0ではありませんが、どちらかといえば悪影響を及ぼすことのほうが多い夏日。
そんな近年の異常気象、気候変動に対して、生産者はどのような対策を行えば良いのでしょうか。

「サカタのタネ」で開発された新品種のホウレンソウが良い例なのですが、積極的に高温耐性をもつ品種改良を行うことも、今後の気候変動への対策につながるでしょう。
しかし生産者が品種改良に直接手を下す機会は少ないかもしれません。そんな時、生産者でも心がけることができる対策が「栽培技術の改良」です。

言葉にすると難しく感じるかもしれませんが、気候変動に合わせ田植えの時期を変えてみたり、気候に合わせて元肥、追肥の調整をしてみたり、気候変動により経験した失敗を活かして、柔軟に栽培方法を変えるだけでも十分対策になります。

近年ではICT技術を駆使し、農業経験のない新規参入者や無人でも農業をしやすい環境もあります。データ管理によって最適な栽培方法を導き出すことで、気候変動への対応を柔軟に行えるのではないかという期待もあります。

私たちは夏日をコントロールすることはできません。
しかし農業のやり方を変えることは出来ます。厄介な夏日ですが、柔軟な対応で農産物づくりに力を注ぎ続けたいですね。

 

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