荒廃農地の活用事例。再エネ促進を目的とした荒廃農地の転用規制緩和についても

荒廃農地の活用事例。再エネ促進を目的とした荒廃農地の転用規制緩和についても

高齢化が進む日本の農業では、担い手や後継者不足のみならず、高齢の農業従事者がリタイアし、農地などの経営資源が継承されないことなどで起こる農業の生産基盤の脆弱化が危惧されています。

令和2年4月に農林水産省が発表した『荒廃農地の現状と対策について』によると、農地の宅地等の転用や荒廃農地の発生などにより、現在の農地面積は、農地面積が最大であった昭和36年に比べて約169万haも減少した、とあります。

資料には、荒廃農地と耕作放棄地の面積の推移も記載されています。

(なお荒廃農地と耕作放棄地はそれぞれ

  • 荒廃農地
    現在は耕作しておらず、通常の農作業で作物を栽培することが客観的に不可能な農地
  • 耕作放棄地
    以前は耕作しており、過去1年以上作付けされず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地

と定義されています。)

荒廃農地の面積は、平成30年には28万haですが、資料中のグラフでは平成20年からほぼ横ばいです。ただし、再生利用可能なものは平成20年には14万9千haだったのに対し、平成30年は9万2千ha、再生利用困難なものが平成20年には13万5千haだったのに対し、平成30年には18万8千haと、再生利用が年々難しくなっていることがわかります。

本記事では、そんな荒廃農地に着目し、再生利用困難な荒廃農地の面積が増加傾向にある中で、新しい農作物栽培への転用を遂げた荒廃農地の活用事例や、農林水産省による荒廃農地の転用規制を緩和の話題について紹介していきます。

 

 

荒廃農地が発生する原因は?

荒廃農地の活用事例。再エネ促進を目的とした荒廃農地の転用規制緩和についても|画像1

 

農林水産省の資料によると、平成26年に行われた調査では、荒廃農地の発生原因には

  • 高齢化、労働力不足
  • 土地持ち⾮農家の増加
  • 農作物価格の低迷
  • 収益の上がる作物がない

などが挙げられています。なお、平成14年に行われた調査でも「高齢化、労働力不足」「価格の低迷」が主な原因として挙げられ、他に「農地の受け手がいない」があります。

資料には他に、令和元年に行われた調査で、農業基盤整備事業(農業生産の推進のため、農業生産の基盤となる土地や水利条件などの整備、開発をする事業)が実施された地区では荒廃農地の発⽣が極めて少ない、ともありました。

発生防止・解消策にはどんなものがある?

そのため、荒廃農地の発生防止・解消の取り組みの例には、農業基盤整備事業の実施や農地中間管理機構による荒廃農地の借入れ、民間企業の参入などによる、農地を集積・集約化して再生する方法が挙げられています。

もちろん荒廃農地の発生防止・解消の取り組みは他にも

  • 新規就農者の参入
  • 地域活動
  • 6次産業化
  • 農福連携など

があります。荒廃農地を再生し、新規就農者がまとまった農地を確保できるようにすることで、新規就農者の参入を荒廃農地の発生防止・解消に役立てる方法や、地域活性化を目的とした地域の環境整備やまちおこし、6次産業化や福祉施設との連携を通じて、発生防止・解消に役立てる方法などもあります。

 

 

荒廃農地の活用事例

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福岡県福津市では「多面的機能支払交付金」を活用して荒廃農地を再生し、新規就農者が地域特産のブロッコリーを作付けしています。

「多面的機能支払交付金」とは“水路、農道、ため池および法面等、農業を支える共用の設備を維持管理するための地域の共同作業に支払われる交付金(出典元:多面的機能支払交付金 – Wikipedia)”です。「多面的機能」とは、農地がもつ、生物多様性の保全や洪水抑止機能、良好な景観の形成などの二次的な機能を指しています。

この地域では元々、農村環境を守る活動が地域全体で行われており、この交付金の活動組織として荒廃農地を再生利用する取り組みが始まりました。再生した農地ではブロッコリーの作付けが行われています。これらの活動を見た、作付けされていない土地を持つ近隣の所有者が、虫害などが発生しないよう草刈りをするなど、自身の土地の管理を始め、荒廃農地の発生防止につながっています!

多面的機能支払交付金事例集」では、どのような取り組みに交付金が活用されているのかを読むことができます。全ての事例が荒廃農地の再生に活用されているわけではありませんが、こちらもぜひご覧ください。

静岡県松崎町では、荒廃農地を活用して平成25年5月から桑の試験栽培を実施。荒廃農地が活用できる見通しが立ち、平成26年7月に企業組合を設立し、毎年荒廃農地を解消しながら経営規模を拡大しています。農福連携も含めた地域の活性化に寄与し、平成30年9月には直売所を開設したことで、桑の葉の栽培から加工、販売まで、組合で運営管理を行なっています。

 

 

荒廃農地の転用規制緩和について

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令和3年3月29日、日本農業新聞の記事で「農林水産省が、再生可能エネルギー促進のため、荒廃農地の転用規制を緩和する」と発表されました。

これは日本政府が掲げる「脱炭素社会」目標を受けたものです。「脱炭素社会」の実現のため、注目を集める再生可能エネルギーの中でも「太陽光発電」は中心的な役割を担ってきました。東日本大震災をきっかけに「固定価格買取制度」が導入され、太陽光発電の普及が進みましたが、山間地などの多い日本では土地の確保が難しいため、耕作が行われていない農地に目が向けられました。

転用規制緩和の主な内容は2つ。まず営農型太陽光発電(太陽光発電パネルの下で農作物を栽培する)の許可や要件が緩和されます。

  • 転用許可(パネル支柱部分の農地の一時転用許可)
    →不要
  • 耕地10a当たりの基準収穫量(単収)要件(地域の平均単収の8割以上の確保)
    →外す
  • 期間制限(最大10年ごとに更新)などの要件
    →外す

また「農山漁村再生可能エネルギー法」に基づく転用要件も緩和されます。農地法により、再生利用可能な荒廃農地はこれまで

  1. 生産条件が不利
  2. 相当期間不耕作
  3. 今後、耕作の見込みがない

を要件に特例で転用が認められてきました。今後は「今後、耕作の見込みがない」の要件だけで転用が認められるようになります。記事には「今後、耕作の見込みがない」の基準を明確化することで、無秩序な転用を防止する策に講じることも記されています。

また優良農地の確保と両立するため、この規制緩和は荒廃農地のみに限定されます。

営農型太陽光発電では、農業での売上だけでなく売電による売上も得られるため、農作業の経験が浅く、農業での売上に自信がない新規参入者であっても収支が取れる場合があります。今後、荒廃農地を再生し、営農型太陽光発電の事業を拡大する事業者も増えていくかもしれません。

 

参考文献

  1. 荒廃農地の現状と対策について 令和2年4月 農林水産省
  2. 荒廃農地解消の優良事例集~荒廃農地再生の取組~ 令和2年1月 農林水産省
  3. 日本農業新聞 – 再エネ促進へ転用規制緩和 荒廃農地に限定 農水省
  4. 荒廃農地での太陽光発電 要件を緩和 有効活用目指す 農水省|環境|NHKニュース

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