近年、放置され、管理されなくなった竹林が問題となっています。そんな竹を有効活用する事例が紹介される中で、農業への利用も注目されています。本記事では農業分野の役に立つ「竹」の力についてご紹介していきます。
竹の現状
日本の国土面積3,780万haのうち、森林面積は国土の約3分の2(2,508万ha)を占めます。平成24(2012)年のデータではありますが、竹林面積は約16万haで、全森林の0.6%です。
こう見ると竹林は少なく感じられるかもしれませんが、森林生態系多様性基礎調査によると、竹林と竹が25%以上侵入している森林を合わせると、面積は全国で約42万haとなります。管理がされていない竹林の増加や、竹林と接する土地が管理されていないことで里山林等に竹が侵入する事態が生じています。
竹林が管理されなくなると、竹が伐採されないので密度が高くなり、人が入ることもままならないような状態になります。
また竹の特徴的な成長の仕方が、森林に生える樹木の成長を阻害します。竹は、“毎年地下茎の節にある芽子から新しい竹を発生させ、わずか数か月で立派な竹に生長する(引用元:竹の性質:林野庁)”という特徴があります。竹は、光合成により得られた有機成分を稈(稲、竹などのイネ科植物を主とする単子葉植物の茎)の直径や高さに充てるのではなく、地下茎に蓄え、伸びた地下茎から新しい竹が発生します。地下の貯蔵養分を使って伸長していくので、暗い林でも成長しますし、成長した竹が侵入した森林の植生よりも高くなれば、竹よりも低い樹木は衰退し、その林には竹が優占することになります。
放置された竹林による景観悪化や土砂災害を引き起こす危険性、竹が倒れる危険性などを解消するためにも、竹の利活用に期待が高まっています。
農業利用される竹資材
代表的なものには竹炭や竹酢液が挙げられます。
竹炭は多孔質で、木炭よりも水分や物質の吸着速度が速いこと、また木炭よりもカリウムやナトリウムなどのミネラルを多く含んでいることから、土壌改良剤として活用されています。島根県はホウレンソウ栽培における竹炭の利用について研究成果を発表しています。効果の発現や持続性などについてまだ検討が必要な部分もあるものの、ホウレンソウの増収効果やビタミンC等機能性成分向上効果が認められた、とあります。
竹酢液は竹材を炭化する際の煙から採取されるもので、その80〜90%は水分ですが、残りの10〜20%に有機酸類やアルコール類、フェノール類などが豊富に含まれています。木材を炭化する際に採取される木酢液同様、土壌改良資材や植物活性剤などとして利用されています。
竹そのものを利用するアイデア
竹そのものを利用するアイデアの一つに獣害対策への活用例があります。江口祐輔『決定版 農作物を守る鳥獣害対策: 動物の行動から考える』(2018年11月、誠文堂新光社)には、サツマイモをサルやイノシシに掘り返されないための「竹マルチ栽培」が紹介されています。切り出した竹を半分に割り、畝の上に載せてマルチとして使う方法です。
いわゆるマルチのように雑草を抑制する効果もありますし、サルがサツマイモのつるを引っ張った時、イモがマルチの下に残ることで取られない、イノシシに掘り返されにくくする、といった利点もあります。
また竹を粉砕したチップをマルチとして活用する事例や、ケイ素を体内に蓄積するケイ酸集積植物である竹の豊富なケイ酸を利用しようと、竹チップを堆肥に混ぜる事例もあります。農文協編『季刊地域 秋号(47号) 』(2021年10月、農山漁村文化協会)で紹介されていた事例では、粉砕した竹チップを牛糞、おが粉、バークと混ぜ、堆積・攪拌したものを60〜70℃で3ヶ月以上発酵させて、竹チップ入り堆肥を作っています。
竹を資材として利用する際の注意点
農林総合研究センター農業試験場『竹資材の分解特性とその利用法』には、生竹の炭素/窒素比(C/N比)が高いことが記されています。
いわゆる堆肥のC/N比の目安が20〜30だとすると、生竹粉のC/N比は3年程度堆積しても137です。比較対象として紹介されているもみ殻のC/N比108、稲わらのC/N比62よりも高い数値です。竹チップであれば、堆積することでC/N比が低下し、3年の堆積でC/N比は56となっています。
C/N比が高い生竹粉をそのまま土壌にすき込むと著しい窒素飢餓が起こるため、上記資料には、生竹粉と竹チップの施用量は10a当たり0.5t程度までとあります。土壌の物理性を改良するために多量施肥を行う場合には、先で紹介した竹チップ入り堆肥の事例のように、家畜糞等と混合して堆肥化するのが望ましいとあります。
参考文献