地下農場とは。都市農業の生産効率向上に期待高まる地下農場の事例

世界的に持続可能な農業への関心が高まる中、都市農業（Urban Farming または Urban Agriculture）という農業形態に注目が集まっています。都市農業の明確な定義はありませんが、たとえばアメリカ合衆国環境保護庁では都市農業を「裏庭、屋上、バルコニーでの園芸、空き地や公園での共同園芸、道路沿いの都市周辺農業、空き地での家畜の放牧などの形態をとる都市や郊外の農業」としています。

都市における空きスペースを利用して行われる都市農業の中には、屋上や使われなくなった大型倉庫などを活用する他、地下を利用したものもあります。

地下農場のメリット

都市における空きスペース（本記事においては地下空間）を有効活用できるのもメリットの一つですが、従来型の植物工場よりも生産コストを低減できるのもメリットです。

人工光を利用する植物工場は、初期費用がかかってしまうものの、季節や天候の変化に左右されることなく、安定的に植物を生産できるのがメリットです。しかし一般的な植物工場の場合、一定した気温や湿度を保つためには、施設内に空調設備が必要となり、その消費電力が大きなコストとなります。

一方、地下空間は季節などの影響をあまり受けず、昼夜の気温差が少ないため、気温が一定に保たれます。気温が一定に保たれる分、温度や湿度を一定に保つための消費電力量、およびそれにかかる電気料金を抑えることができます。

地下農場の事例

2040年までに食料自給率を2倍にする目標を掲げているイギリスには「Growing Underground」と呼ばれる地下農場があります。同農場は、第二次世界大戦時に防空壕として造られたトンネル内にあります。地下33mの深さにあるこの農場では、葉物野菜やハーブが栽培されています。

栽培方法には「垂直農法」が採用されており、LED照射と栄養剤入りの水分を用いた水耕栽培で野菜が育てられています。水を循環利用することで、通常の栽培方法（露地栽培）よりも70%水を節約できていること、気候の変化に左右されず周年栽培が可能なこと、またロンドン中心部で販売するこれらの野菜が収穫から最短4時間で消費者に届くのが特徴です。

マッシュルームとベビーハーブを栽培するベルギーの企業「Eclo（エクロ）」は、ブリュッセルの街の中心部にある1880年に建てられた10,000㎡の古い地下室「Cureghem cellars（キュアゲム貯蔵庫）」に農場を展開しています。この地下農場では垂直農法を用いて、パクチーやルッコラなどの葉物野菜とシイタケやエリンギなどのキノコ類を栽培しています。

2021年12月には、パクチーやルッコラなどの葉物野菜の生産を地下農場からブリュッセル首都圏のアンデルレヒトに位置する屠殺場敷地内に移していますが、公式ホームページやインスタグラムで地下農場ツアーが展開されていたり、キノコ栽培の写真が掲載されているのを見る限り、地下農場のキノコ栽培は続いているようです。

キノコ栽培では、食品スーパーや地元のビール醸造所と連携し、販売期限の切れたパンやビールの搾りかすなどの廃棄物でできた菌床を用い、循環生産を行っています。

日本にも地下農場は存在する！

搬送機器メーカーの伊東電機株式会社が運営する「習志野ファーム vechica（ベチカ）」は、地下空間に設計された植物工場です。2017年12月に実証実験施設として立ち上げられたこの植物工場では、ベビーリーフやハーブ、エディブルフラワー、キノコ類の栽培が行われました。同植物工場では毎週金曜日の10:00〜14:00に直売を実施しています。これまでも数多くのテレビ番組で取り上げられていますが、2022年11月10日放送の『あさイチ』（NHK総合）で紹介された際には、翌日、直売所の商品が品切れになるなど大きな反響を呼んでいます。

日本の地下農場、「習志野ファーム vechica（ベチカ）」の最新情報は公式Facebookで確認することができます。

参考文献